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本当の最終決戦

「ついにここまで来たな」


 柔らかな陽の光が差し込み、爽やかなそよ風が吹く広大な草原の中。

 左手に黒く忌まわしい大盾を、右手に黒い片手剣を。そして全身に黒く堅牢な鎧を纏った男が立っていた。

 どこか哀愁すら感じさせる声で、男は感慨深げに呟く。


「はい」


 その声に、男の斜め後ろに立っていた少女が頷いた。

 少女は、日本人らしい艶やかな黒髪を腰まで伸ばし、全身を巫女服で包んでおり、手には煌びやかな御幣(ごへい)を握り締め、左手には御札を持っていた。


 そよ風が一陣の風となって吹き荒れる。男は、青く澄み渡る空を見上げた。


「始まるぞ」


 男がそう呟いた瞬間、空間がグニャンと歪み、空に黒く暗い大きな穴が空いた。

 空を暗雲が覆い尽し、赤黒く染め上げる。

 柔らかな陽の光が閉ざされ、辺りが薄暗い闇に包まれた。


「さて、準備はいいな?」


 世界の終わりのような光景を前に、男は自身の後ろに連なる大軍勢に声を掛けた。


「「「おお!!!」」」


 広大な草原を埋め尽くすが如く集まったプレイヤー達が、大気を震わさんばかりに声を張り上げる。

 男は、満足気に頷いた。


「これから辛く苦しい最後の決戦が始まるだろう。ひょっとしたら負けるかもしれない」


 空に空いた穴がどんどんと広がっていく様を見届けながら、男は後ろの大軍勢に怒涛を荒げた。


「だけど、それでいいのか! 俺は否だ! 断じて否だ! 最後は勝って終わらせたい! お前達はどうだ!」


「「「否だ!!!」」」


「いい返事だ! さあ武器を取れ! 構えろ! 始まるぞ、俺達の最終決戦が! この世界の命運は俺達が握っている! どんなに挫けようが、最後の最後に勝つその時まで! 絶対に諦めるな!」


「「「おおおお!!!!」」」


 男はプレイヤー達を鼓舞し、鼓舞されたプレイヤー達は自分の武器を天高く掲げ応えた。そして、まるで空を飲み込まんとばかりに広がった穴から、無数のモンスター達が草原に降り立ち、怒声を上げる。


「さあお出ましだ! 行くぞ!!!」


 その怒声に負けじと男は声を張り上げ、少女を連れて走り出す。


「「「おおおおおお!!!!」」」


 プレイヤー達は男に勝るとも劣らぬ咆哮をあげながら、男に続いた。

 走り出す大軍勢と無数のモンスター達がぶつかり合う。


 最終決戦の火蓋が今ここに切って落とされた。


「先制攻撃だ! 喰やがれ!」


 大軍勢の先頭を走る男が、大盾を振りかぶった。その盾が蒼白い光を放つ。


────ARTS 《ランバート》────


 その瞬間、大盾が霞む速度で薙ぎ払われた。大盾から不可視の衝撃波が発せられ、土と岩石を巻き上げて地面を割りなからモンスター達に襲いかかる。

 

────ARTS 《剛力乱舞》────

────MAGIC 《セイクリッド・フレア》────


 モンスター達の中から、他とは一線を画す二体のモンスターが躍り出、男の一撃を向かい打った。


 衝撃波と白い炎を巻き込んだ衝撃波がぶつかり合う。直後、両軍勢を物凄い衝撃波と炎が襲った。

 男が放った一撃が相殺されることは織り込み済みだったのか、大盾を持ったプレイヤー達が男の前に躍り出て大盾をドッシリと構え、衝撃波と炎を受け止める。


 受け止めたプレイヤー達に対し、大勢のモンスター達は為すすべもなく吹き飛ばされ、焼かれ、粉々になった。


 しかし、受け止めたプレイヤー達も無傷とは行かない。完全に受け止めにもかかわらず、男達のHPも三割ほど削られていた。


────MAGIC 《範囲治癒(エクストラヒール)》────


 男の後ろにいる少女が減った男達のHPをすかさず全回復させる。

 HPが全回復したことを確認した男達は、男を残して一旦下がり、代わりとばかりに剣や斧等を持ったプレイヤー達が前に出てモンスター達に<アーツ>を叩き込んだ。


 吹き飛ばなかったモンスター達はプレイヤー達の<アーツ>を自身の<アーツ>で対抗する。対抗しきれず<アーツ>を喰らうモンスターもいれば、相殺するモンスターもおり、逆にプレイヤーを弾き飛ばすモンスターもいた。


 それを皮切りにプレイヤー達とモンスター達が入り混じる大混戦となる。切られ切り裂き潰され潰し、状況は混沌へと突入していった。







 どのくらい時間がたっただろうか? あれだけ無数にいたモンスター達は後一体となり、大軍勢だったプレイヤー達もその数を約半数までに減らしていた。生き残ったプレイヤー達も防具や武器はボロボロで、満身創痍となっている。


────ARTS 《剛力乱舞》────


 残り一体のモンスターは恐れを知らず、勇猛果敢に男へと<アーツ>を放つ。しかし、男に対しては無謀であった。


────ARTS 《シールドバッシュ》────

────ARTS 《エクストラスラッシュ》────


 モンスターの<アーツ>は男の<アーツ>によって弾かれ、がら空きになった胴体に<アーツ>を叩き込まれて消滅した。

 一見無傷のように見える男も、身に纏った黒い鎧と手に持つ大盾には細かい傷が幾つも付いていた。


「やった、のか?」


 男が最後のモンスターを倒し終えたことを見たプレイヤーの一人が、そう言う。


「そうだ、俺達は、俺達は勝ったんだ!!」


 誰からともなくそう声を張り上げ、勝鬨を上げた。


「ありがとな。お前のおかげで乗り越えられた」


「いえ、そんな。みんなが頑張ったからですよ」


 プレイヤー達の勝鬨をバックに、男と少女はそんな会話を交わす。

 ────が、直後空に空いた大穴から黒い大きな球が草原に降り立った。

 男と少女を含めたプレイヤー達が、一斉にその球に目を向け、目を剥いた。

 その黒い球の大きさは、小山にも匹敵していたのだ。


「────ォォォオオ」


 中から小さな咆哮が響き、黒い球がペリペリと剥がれていく。

 やがて、黒い球の中が(あらわ)になった


「「「────っ!?」」」


 『それ』は黒く禍々しい両翼を大きく広げ、鋭く尖った牙が生え揃う口を開き、咆哮をあげた。

 その咆哮は大気を震わせ、プレイヤー達に威圧感となって降り注ぐ。あれだけ熱気があったプレイヤー達は一気に冷め、体を強ばらせる。


 小山程の黒い球の中にいたのは、邪竜と呼ばれる、バハムートだった。全身は黒く禍々しい堅い鱗に覆われ、その鱗を貫いてダメージを与えるイメージを抱くことができない。

 尻から生えた尾は上下に揺れ、地に触れる度に地面を割る。

 肩から出た四つの腕は広げられ、その指の先から鋭く尖った爪が生え、四つの腕のどれか一本でも振るわれたら人たまりもない。

 小山程のサイズを誇るバハムートは、黄金の双眼でプレイヤー達を見下ろした。


「マジ、かよ……」


 そんなバハムートを見上げた男は、絶望に声を震わした。MPもAPも残り少なく、それを回復させるポーションも残り僅か。

 男だけではなく、プレイヤー達も疲労困憊であった。

 

 戦いを放棄しようとしたその時、男の手を少女が握った。


「諦めないで下さい。まだ、戦いは終わっていません。最後の最後のその時まで、戦い続けましょう」


「けど、あんなのに勝てるのか……?」


「私が、付いていますから。勝とうが負けようが、私が一緒ですから」


 微笑みと共に少女が紡いだ言葉は、諦めていた男を立て直させる。


「そう、だな。ああ、その通りだ! なにをボケっとしてんだ! さあ! 最後の戦いだ! 力はもう出し切ったかもしれないが、だからなんだ! 俺達は勝つんだ! 行くぞぉぉお!」


「「「お……おおおおおお!!!!」」」


 男はギュッと剣を握り締め、プレイヤー達を再び鼓舞する。そして、バハムートへ向かっていく。男に鼓舞されたプレイヤー達も、男の後に続いてバハムートに走り出す。


 本当の最終決戦が、幕を開けた。






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