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第一章_04

 広い学園内を歩くこと五分。帰りたかった寮の前を素通りし、さらに西方面へと進むと森が見えてくる(この森も学園の所有物)。その前に小さな小屋が建っていて、そこが俺が所属する部の活動場所となる。


 小屋はあまり大きくなく、しかし木でできていることもあり、なかなか風情のあるものになっている。


「あれ、いつもなら外にいるのに。中かな?」


「呼んでこいよ」


 放課後になるとだいたい小屋の前で待っている人が、今はいない。俺は駿平先輩に促されて玄関へと向かう。そして呼び鈴の役割を果たす鈴からぶら下がっている紐を引っ張る。


 ひゅ、がん!


 鈴が鳴る代わりにたらいが落ちてきた。


「いってぇ!」


 叫ぶほど痛くはなかったが、俺は頭を抱えてうずくまるようにしゃがみこむ。すると、今度は背中に何かがあたるのを感じて振り向く。


「ん、なんだ……、って、のわぁ!」


 立て続けに矢が飛んできた。あわてて顔を覆うもどんどん迫ってくるのをなんとなく感じる。


 あぁ……俺、死んだ。さらば、この世よ。また会う日まで。


 そう諦めの文言を胸の中でつぶやき、そして腕に、ぴとぴとぴと、と矢が命中。


「……ぴと?」


 顔を上げると、腕には矢が刺さっていた。……もとい、くっついていた。


「……って吸盤のやつかよ!」


 俺は矢を思いっきり地面に叩きつけ、飛んできた方向に目を向ける。その先には鬱蒼とした森が存在していた。


「くそ、驚かしやがって……」


 小さく毒づきながら発射元へと向かって歩を進める。その歩みの間にも矢は散発的に飛んできたが、それを華麗に交わして(主観的に)、颯爽と目的地へと到着した(主観的に)。


 何かに蹴躓いたり、飛来物に接触したような気もするが、それは些細なこと。


 発射元であろうところには木が生えており、すでに駿平先輩が上を見上げてながら立っていた。


「またあんたが犯人か」


「またとはなんだ、前科はないぞ。しかも俺は犯人じゃないし、犯人だとしても世論を味方に付けて情状酌量に持ち込む」


「その目論見ってだいぶ詐欺師に寄ってますよね」


 先輩に並んで一緒に上を見上げる。


「ふーはっはっはっはー! 引っ掛かったな、ゆーさくめ。どうだ、あたしのトラップは!」


 太い木の枝に高笑いする女子が立っていた。学園指定の制服の上に緑のマントと、同じ色をした羽の付いた帽子を被っている。


「ロビンフッドかよ」


 そう小さくつぶやくのも束の間、俺の目はとある一点に釘付けになる。


「いやー、ここまで準備するのに苦労したよ」


「藍」


「何?」


 駿平先輩が枝の上の女子、藍に声を掛ける。


「悠作がエロい目でお前のパンツ見てるぞ」


「きゃ……」


「誰がエロい目だ!」


 俺は顔が赤くなるのを感じたが、きっとそれよりも藍先輩のほうが赤いだろう。


「みみみ、見るな、とと」


 慌てふためきながらスカートのすそを押さえると、バランスを崩してしまって木の枝から落ちそうになる。


「うぅぅぅう、あ……」


 堪えきれずに落下を始める。


「あ、危ない!」


 俺はそう口に出しながらもどうしていいのかわからず、まったく動けなかった。


「いやいや、助けてやれよ」


「え?」


 言うが早いか、駿平先輩に背中を押され、つんのめるようにして前に出る。つまずきそうになりながら、踏ん張って転ばないようにする。そんなことしているうちに、藍先輩の真下に俺は到着し……。


 どん!


「きゃ!」

「うご……」


 接触。そして俺の視界はなぜか暗闇に閉ざされる。


 あれ、俺、もしかして死んだ?


 ここ五分で同じようなことを思ったような気もするが、さっきよりもリアルな状況、衝撃の分、今度は本気でそう思った。


 う、心なしか息苦しい気がする。


「ふがふが……」


「あん、しゃべっちゃ……くすぐ、らめぇ!」


 藍先輩の声を聞いて無事だったことを、確認。安心した瞬間、なにやら柔らかいものに顔をはさまれていることを、確認。なんかいい匂いがする、確認。


 酸欠の状態でも俺の脳内はめまぐるしくこの状況を整理する。


 …………。


 死後、かな。


 でも、こんな幸せな感触が死後ならそれならそれでも……。


「おーい、いつまでそんな状態でいるつもりだ」


 ぴろりん、というまさにケータイのカメラのシャッター音のような音と共に、駿平先輩の呆れたような声が聞こえた。


「藍、何を感じてんだか知らんけど、早くどいてあげないと悠作のやつ、窒息で死ぬぞ」


「な、なんだって?」


 そんな会話が聞こえた後、急に幸せの感触と匂いが遠ざかり、そして視界が急に明るくなる。


「ゆ、ゆーさく! 大丈夫?」


 ゆっくり目を開けると目の前に藍先輩の赤い顔があった。


「…………」


 あたりをゆっくり見渡す。視界の端にある地面。藍先輩の赤い顔。必死に押さえられているスカートの端。しゃがんでいるために押しつぶされ柔らかみが強調されていて、かつエロチックな太もも。遠くでケータイを構えてじと目で俺を見ている駿平先輩。


「……はっ!」


 俺は気づいた。さっきまで聖域にいたのかもしれない。全俺未踏の地!


「藍先輩。ケガ、ないっすか?」


「え? うん、特に痛いところはないと思うけど……。それよりゆーさく」


「俺はっ、大丈夫っ、ですっ!」


 死ぬ思いをしたけど、天国のようなひと時を味わわせてもらったしな!


「そっか、ならよかった」


 先輩はそういって立ち上がり、駿平先輩の方へと歩いていく。


「ほら、ゆーさく! 早く部活始めるぞ!」


「ういっす」


 俺が所属する部活。


 それは、ハント部。


「あ、さっきの写メ、お前の名前載せて掲示板に載せとくわ」


「やめてくださいおねがいします」

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