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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。

自殺のススメ

作者:
掲載日:2013/11/17

この作品に自殺を助長する意図はありません。

「間もなく、T駅行きの最終電車が参ります。本日最後の電車となります。これ以降はございませんので、ご注意ください。」


何度も繰り返す駅員を改札越しに眺めていた。

十数人の乗客が駆け足で改札を通っていくのが、視界の隅にぼんやり見えた。


電車が来るまで残り二分。

これを逃すと、もう家には帰れない。


「間もなく、1番ホームに、T駅行きの電車が参ります。危ないですから、黄色い線の内側まで、お下がりください。」


駅員とは違う、時間帯関係なく流れる女性の定型文が聞こえた。

私は踵を返し、駅を背に歩き出す。


──もう、家には帰れない。



靴音が響く階段を上って鍵がかかっている扉を乗り越えると、暗闇が広がる。

地上からは見えない星が、はっきりと見える。

満月が煌々と輝いている。


転落防止の柵の上に座ると、心臓の動きが速くなる。

身体は生きたがっているのかもしれないと妄想する。

未練がましい自分が可笑しかった。


もう何も考えなくていいと言い聞かせ、目を瞑って思いっきり前に跳んだ。

四十キロの身体が宙に舞う。


空を飛んだと思ったのは一瞬で、背中に激痛が走った。

息ができない。

痛くて、苦しくて、情けなくて涙が出た。


私を避けるように人々が行き交う。

その足を視界の隅に捉えて、無関心なことを有り難く思った。

もしも人に囲まれていたらと想像するだけで、顔が火照るのを感じた。


手足が冷えきっていることに気づいたのは、呼吸が落ち着いた頃だった。

相変わらず、足に力が入らない。

まるで、身体が動くことを拒否しているようだった。


面倒くさくなって目を閉じた。

人々の視線も随分気にならなくなった。

考えてみると、道端で酔っぱらって倒れている人は、この辺りでは珍しくない。


それにしても、と思考を巡らせる。

人は意外と死なないらしい。

勇気を振り絞って飛び降りたんだけどなあ。


首を吊ったら死ねるのだろうか。

明日、ロープを買って試してみよう。


そんなことしなくても、今ここで寝たら凍死するかもしれない。

しかし、ホームレスの人は地面で寝ていても生きている。


布団代わりの新聞紙は、どのくらい温かいのだろう。

あれがなければ死ぬのかなあ。


ぼんやりと考える時間は長くは続かなかった。

地面の冷たさを感じなくなった頃、私は意識を手放した。


──明日も生きていたら、その時に考えよう。

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