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勇者としての最後の戦い

長い長い闘争の日々もようやくこれで終わる。眼前に佇む異様な気配を漂わせる存在を消せば終わる。そう……これで終わる。


「エル・ヴェルス。お前を殺す」


エル・ヴェルス、僕がいた世界でその存在を表す最適な言葉は魔王だ。けれども僕が此方に呼ばれてその存在を想像したものとは、遥かにかけ離れた存在だった。


奴らはまるで不定形の蠢く立体の影、それが人型へと押し固められたモノだ。頭と胴体を切断、もしくは圧倒的な火力で塵へと還せば殺せるとされているが、真実かどうかは疑わしい。確かに奴らは塵となって消え失せるが、それが我々生物に当たる死と同義であるかは不明だ。


確かに消える。けれども奴らは無尽蔵に湧き出てくる。それの繰り返しだった、今までは。


人類は多大な犠牲を払いある結論に辿り着いたのだ。エル・ヴェルスを倒せば犠牲者が悪戯に増えるこの戦いに終止符が打てると。


それから様々な事を試み、数々の敗北の末、異世界からエル・ヴェルスを倒せる存在を招き寄せることに成功した。そう……成功してしまった。此方の言葉ではロラン。僕らの言葉では勇者と呼ばれる存在を召喚することに。


その当時の僕は何の力も持たない脆弱な人間だった。何ら特別なチカラもない平凡極まる子供だった。けれども彼らは特別を望んだ。ロランとして、勇者として。


それからの人生は激闘の日々だった。目まぐるしい変化の数々。沢山の出会いと喪失。そこには友情もあった。愛情もあった。そして憎しみもあった。立ち直れないほどの絶望もあった。だが僕に立ち止まることは許されず、振り返ることも許されず、ただ前だけを見て走り続けることを強要した。


気が付けばもうこれで終わりだ。漸く僕はラスボスまで辿り着いたんだ。スリリングな人生とはおさらばだろう。勝利で終わるか、敗北で終わるかは関係なく。だからこうして回顧しているのだろう。


僕が敗北すれば世界は終わり、僕が勝利すればこの世界にロランは不要となる。僕にとってこの闘争の帰結は何の価値もないことだが、五年にも及んだこの茶番に満ちた悲喜劇に幕を下ろそう。それが彼女との……約束だったから。


異形の体躯を震わせて魔王が咆える。エル・ヴェルスの従僕であるヴェルスたちが世界から堕ちてくる。僕は孤立無援だ。かつての仲間たちは道半ばで力尽き、彼ら彼女らの志を受け継いで、不利も承知でここまで来たんだ。


例えこの空間がエル・ヴェルスが生み出した世界で、奴らにとって十全にチカラを振るえるからといってなんだ。


どこまでも虚無色に染まった世界で僕は力の限り叫んだ。心の中の悲しみを追い出すように、恐怖を叩き潰すように。


それが引き金となり、ヴェルスたちが殺到してくる。そして僕はロランのチカラを振るった。


どこまでも色褪せた世界で、感情を失ったロランは戦闘機械の如く、戦い続けた。



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