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マグス・オルタの遍歴  作者: 山田一朗
06. VS最強
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第三一話 深き森に天魔のにおい (中編)

「オオオォォッ!」


 背中から〔熱線〕を吐いて加速、空気の壁を突き破って流星になる。白いリングを通過して、エサを待ち構える緑竜のもとへ。

 視認した次の瞬間、刃と爪が衝突した。着弾の衝撃波が森を切り裂き、大木すらを折り曲げて周囲一帯をクレーターに変える。

 拓かれた森は円盤状の舞台にも見えた。これで焦点を絞れば炎だって使える。

 拮抗はすぐに崩れた。いかに重量差があろうと、重力を得た一撃と比べればただの暴力に過ぎない緑竜の迎撃は一枚劣る。

 最初に頭上から叩きつけられた意趣返しをするように、俺は竜の頭へ刃を落とした。外骨格ブレードは鱗を貫き、筋肉まで達したがそこまで。頭蓋骨を滑って鼻先から地面へ。ぶしゅうと血が噴き出す。闇のなかでもわかる鮮烈な赤色をしている。


 しくじった。

 調子こいてあたまなど狙ったせいだ。せめて肩口ならば。そう思っても遅い。

 本来ならばいまの一撃で決めてしまいたかった。緑の竜といまの俺では絶対的なスペック差が存在する。

 重力を得てなお瞬間的に拮抗したのがその証拠だ。正面から衝突したのでは、拮抗すらせず負けるだろう。


 竜が吼えた。

 刃を振りぬいた姿の俺はその圧力だけで宙を舞う。スラスターのように〔熱線〕を吹かし姿勢制御、反転、ふたたび突進する。

 外骨格ブレードをまだ血の滴る傷跡へ向けて突き入れると、それに合わせて緑竜は爪を下から擦り上げた。刃は弾かれ、岩を削り出したような鱗をゴリゴリと削る。

 めきめきと竜の筋肉が盛り上がり血が止まった。その代わりか、目だけが異様にギラつきはじめる。

 目の端に逆の爪が下から伸びてこようとするのを捉えた。森に生える樹木よりも巨大な腕が風を切り裂き無音で迫る。

 熱風を撒きちらしながら、竜の内側へ飛び込んだ。爪が空気を切り裂いて冷風が舞い込むのを感じつつ、左の貫き手で目を狙う。

 首をかしげて躱した緑竜が、凶悪なアギトを開いた。引こうとしたが遅く、牙が左腕に食い込む。


「っぎぃ……! っでああぁ!」


 コアのちからを右腕へ通した。半径数メートルを昼へもどす輝きを放つ灼熱の刃で竜の首を狙う。

 刃が触れた瞬間、鱗は融解した。竜が牙を引き抜こうとするが遅い。潰れた左腕で牙を握る。

 じゅう、と血と肉が蒸発する。


 あと数十センチ。それだけ切り裂ければ頸椎ごと命脈を断ち切れる。そう思った瞬間、右腕がへし折れた。

 驚愕とともに目をやれば、腕よりも太く長い尻尾が鞭のように動いていた。

 折れた骨を〔炭化〕でつないで固定する。痛みは噛み潰す。

 残り二分と数十秒。まだ戦える。生き残る。


 牙がふたたび食い込んだ。左腕からだくだくと血が流れ出す。命がこぼれていく。


「〔精神破裂〕」


 あたまの中身をぐちゃぐちゃにかき混ぜる魔法を生成、流し込んだ。

 脳髄までしびれるような痛みのせいか、竜の顎が開いた。

 右腕とおなじように潰れた左腕を〔炭化〕で補強、咽喉の奥へ突き込んだ。

 生暖かい肉をずぶりと刺す感触と同時に魔法を放つ。


「〔精神破裂〕」


 かつて喰らったマインド・バーストを模造して重ねた。

 あらゆる肉体的ポテンシャルを無意味にし、痛みを引き起こす防御不可攻撃のひとつだ。

 咆哮ばかりを吐いていた竜の咽喉から悲鳴が上がった。


 空気を震わす圧力を撒き散らしていた最強にしては、あまりにも惨めったらしい。

 それも仕方がない。直接脳を握られるような痛み。むき出しにした神経を針で刺すような痛み。遠心分離機で抽出、純化した痛みを投与されたような感覚は、味わわなければわからない。

 なまじ肉体が、鱗が強靭だからこそ知らなかったのだろう。無敗のボクサーがラッキィ・パンチで沈むように、最強の竜は痛みにうろたえた。


 ギリギリと左腕が軋んだ。痛みに耐えるために竜は牙を食いしばった。補強した表面装甲は削れ歪んでいる。


 数秒もすれば貫通し、穴が開いてふたたびへし折れるに違いない。

 純粋な痛みを与える代わりに〔精神破裂〕は肉体的被害がない。すなわち、その瞬間をやり過ごせばダメージは消え去る。

 じっと苦痛に耐える(バイト・ザ・ブレット)なんて柄じゃないだろう。それは人間のすることだ。

 いいぜ、だったら我慢比べといこうじゃないか。


「〔精神破裂〕、〔精神破裂〕、〔精神破裂〕、〔精神破裂〕、〔精神破裂〕、〔精神破裂〕、〔精神破裂〕、〔精神破裂〕、〔精神破裂〕、〔精神破裂〕!」


 悲鳴と悲鳴。我慢と我慢。痛みと痛み。

 張り裂けろとばかりに叫び続けた。

 竜の顎が閉じ、ぐしゃりと左腕が潰れた。上下が合わさり、自身の生み出した圧力に耐えかねて竜の牙が砕け散る。

 圧力が消えた瞬間に腕を引き抜いた。目に映るのはぺしゃんこになった赤黒い腕だ。


 紙屑のような腕は感覚がない。補強でどうにかなる段階を超えている。

 だからどうした。最強を倒す好機を生み出すためだ。腕一本、安い買い物だろう。

 度重なる痛みは竜の意識をそこだけに集中させた。もはや目の前すら真っ暗になって見えていないだろう。


 右腕をふたたび白い炎に染め上げて、隙だらけの竜種を右肩口から切り裂いた。

 血風すら舞わぬ劫火の斬撃は、肉を蒸発させ骨を焼き焦がす。


 純粋な痛みと肉体を通した痛み。両方同時に味わってマイナスが氾濫したのか、あらぬところを見ていた竜の眼が定まる。

 烈風を伴う方向が放たれ俺の体が宙に浮いた。〔熱線〕の噴射で態勢を立て直すも、緑竜はすでに集中を取り戻している。

 もう一度だけ放たれた咆哮が空気を震わせた。周囲数十メートルの木の葉が舞い落ちる。


 千切れかけた右腕は、潰れた左腕とおなじように、ひっついているだけの置物だ。

 一肢ずつ潰れてあいこにしてこれで終わりとなればいいがそうはならない。最強に土を付けた存在を竜は許さないだろう。

 だから、一度刃を交えたのならどっちか死ぬまで戦うしかない。退路はすでに塞がれている。


 感覚のない左腕を前に伸ばした。毛細血管のようなラインを赤く塗り替え〔外骨格〕で固定、円錐型の騎乗槍にする。

 背中から熱線を放射して突撃しようとした瞬間、緑竜の全身を魔法陣が包み込む。


 ここで〔増殖〕か、という疑問が浮かんだ。厄介だが超高速域の戦闘にはついてこれないだろう。

 問題ないと切り捨てようとして〔自然〕の特性を思い出した。

 緑竜はいまだ〔増殖〕しか使ってない。なら、この場面で使うのはもうひとつのほうだ。

 〔成長〕にちがいない。


 緑竜がぶるぶると震えた。千切れた右腕の根本がめりめりと盛り上がって肩口でつながる。鱗の一枚一枚が荒々しく伸びて鎧のように変形し、短剣のようだった爪は大剣に変わった。砕けた牙が元通りになり変形が完了したが、〔成長〕したはずの全体像は逆に縮んでいる。

 とはいえ小山のようだった十数メートル級の巨体が、一〇メートル前後になった程度だ。相変わらず数倍の体長差がある。


 これは正しく退化だ。必要のない部分を切り捨て、より特化した形に〔成長〕したのだ。

 俺が人間寄りのマグス・オルタだとすれば、無駄を削ぎ落とした竜の姿はドラゴン寄りのマグス・オルタのよう。

 伸びた爪は外骨格ブレードを、変形した鱗の鎧は〔炭化〕を意識しているのだろうか。ずいぶんと評価されたものだ。

 相当な不利を強いられるだろう。相手は〔成長〕したというのに、こっちは深手のボロクズ同然だ。

 〔第二段階〕の残り時間は、九〇秒強だろう。蝋燭はすでに半分も溶けている。

 嘆いたって仕方がない。前門、後門の両方を竜が塞いでいる。生きて帰りたければ倒すことだけが唯一の正道だ。

 怒りと悲しみを左腕の外骨格槍に込め、森のことすらあたまから追い出して出力を全開にして突進した。


 加速した知覚からしてもすさまじい速度で両腕の爪が交差した。

 わずかな抵抗のあと、六方晶ダイヤモンドを上回る硬度の槍が、砕ける余地もなく断ち切られる。

 右の刃を突き入れようとするも、それを上回る速度の膝蹴りが腹に突き刺さり、ふたり分の加速度を得て体がくの字に曲がった。

 内臓丸ごと吐き出したくなるような嘔吐感をねじ伏せて、胴体を狙う。白炎色の刃が突き立つと、鱗の鎧はさすがに焦げて煙を上げた。


 しかしそれだけだ。貫き通せない。

 いまの俺に出せる、最大の貫通力を持つ攻撃が表面で止まる。

 それは戦うという段階ですらない。〔第二段階〕という最終手段を繰り出す前の関係――アリと巨象に逆戻りだ。

 〔第二段階〕と同じように切り札だったのかもしれない〔成長〕は、絶望的な溝となって差を突きつける。

 俺が使える防御突破攻撃は魔法防御を無効化する〔被覆弾〕ぐらいだ。アナスタシアの肉体的防御を無効化する〔浸透打〕は、おそらくこういう場面を想定していたのだろう。あれは〔光〕と〔炎〕で成り立つ混合魔法だ。俺には使えない。

 想像しろ。発想を変えろ。いま使えるモノだけで鉄壁を突破できるだけの攻撃を。


 思考ごと両断するように竜の爪が奔った。叩きつけられる大剣の群れを逃れるために城壁よりも強固な鱗の鎧を蹴って跳ぶ。

 掠めた爪の一本がつま先を舐めて、靴のサイズを縮めてくれた。与えられた圧倒的エネルギィは俺の身体をコマのように回す。

 遠心力ごとたたきつけるように、縮んていないほうの脚を〔外骨格〕で覆って回し蹴りを放った。ザラついた鱗の表面に突き立ち、わずかに傷跡を残す。

 即座に尻尾が打ち付けられ、ピンポン玉のように跳ね飛ばされ地面を転がった。〔熱線〕で地面を焼き焦がしながら身体を起こし、跳びかかろうとする緑竜を仰いだ。


 〔外骨格〕ならば通る。すくなくともわずかに傷をつけられる。ならばやることはただひとつ。

 〔炎〕のちからを〔水〕のちからでジャケットした被覆弾ではなく、


「〔徹甲弾〕!」


 一点に集束し、貫通力のみを追い求める火力の支配だ。

 左腕に〔外骨格〕による砲身から砲弾の生成。内部には炸薬代わりの爆発する炎魔法(ナニカ)

 ただ速く。ただ強く。鉄壁を穿て。狙いはコアのみ。


 砲弾が発射された。外骨格の砲身が耐え切れずに左腕ごと砕け散った。その衝撃で狙いがズレる。


 急造魔法のため尾翼安定などなにもない。照準はすこしズレたが、しかしわずか数メートル先の目標十メートルの範疇だ。

 緑竜は自身の防御力を信じているのか、避けようともせず直進した。二度にわたって攻撃力不足が実証されていたのだから、それは正しい。

 戦車が豆鉄砲を向けられたとして、なぜ危険を感じる必要があるだろうか。


 大剣の群れを抜けて〔徹甲弾〕が着弾した。尖った先端が突き立ち、火花を散らす。

 曲面で構成されている竜鱗は非常に硬く、侵入を拒む。

 超硬度同士をぶつければ、どちらにも傷がつくのは道理だ。ダイアモンドでダイアモンドを傷つけるように、〔外骨格〕が竜の鱗に傷をつけられるのはすでにわかっている。あとは、どれだけの威力でぶつけられるかという勝負に他ならない。

 拮抗は瞬間だった。突き立った先端が鉄壁の竜鱗を食い破る。巨体と比べれたあまりにもちいさな穴を開けていく。

 竜が吼えた。

 徹甲弾には貫通力はあってもストッピング・パワーは低い。直進する巨竜は止まらず、むしろ痛みを怒りに変えて両腕を振りかぶった。

 全身全霊を一撃に込めた俺に、それを避ける術はない。すべてが死に足りうる斬撃が振り下ろされた。

 リアクティヴ・アーマーの要領で〔炭化〕した表面装甲を爆発させて防御を狙うが、それは攻撃を遅らせるだけに終わった。右腕の外骨格刃と左腕の爪を衝突させ、わずかに間隙をつくる。

 中身まで切り裂かれる前に〔熱線〕を放射して逃げ出そうとするも、右腕の爪だけはどうしても躱せない。刃がぞろりと肩口を舐めて深々と切り裂かれる。右腕が付け根付近から千切れていくのをコンマ秒以下を捉える加速した知覚で感じながら、即死だけは免れる。


 だが致命的だ。

 左腕は使い物にならない。右腕は半ば千切れかけている。右足はつま先がない。無事なのは左足ぐらいのものだ。

 肩で息つく暇もない。竜に有効なのは〔徹甲弾〕のみで、それも警戒されただろう。行動停止も狙えない。

 実際、詰んでいる。いや、それは出会った瞬間から詰んでいたといっていいだろう。

 青竜のときは回復があった。それがないだけで、どうしようもなく殺されるしかないのか?

 チャンスはあと一撃。〔徹甲弾〕を打ち、コアか心臓か脳髄を抉るしか道はない。

 できるかどうかではなく、やらなければ死ぬだけだ。すでに腹は決まっている。


「〔外骨格〕」


 千切れかけた右腕と潰れた左腕を厚みを増した砲身とスタビライザーにして固定した。

 仕留めるつもりだった必殺を防がれて竜は怒り心頭という様子で、今度こそ決めるつもりらしく苛立たしそうに右脚で地団太を踏んだ。それだけで地面はひび割れ、クレーターになり、地震のように地を響かせる。半径数キロメートル内の動物たちはすでに逃げ出しているのだろう、鳴き声はない。まだひっついているつもりだった木の葉がばさばさと落ちていくだけだ。

 一瞬の空白が生まれた。地響きが終わる瞬間が勝負のときだとお互いが理解している。砲身内でじっくりと砲弾を生成、今度は尾翼付のものにする。

 永遠にも等しい三秒と同時に地響きが消えた。尻尾で地面を爆発させて、竜は暴走列車のごとく動き出した。

 初速から最高速に乗った竜は、あっという間に距離を無くす。


 心臓をつぶしても数秒は動けるだろう。狙うのならばあたまだ。


「〔徹甲弾〕!」


 スタビライザーを取り付けた砲身は発射の瞬間に揺れもせず、瓦解もしなかった。

 砲弾は一抱えもあるほどの竜のあたまへ向けてまっすぐに飛ぶ。ほぼゼロ距離の接射に回避できる余地はない。

 空気の壁さえ突破する超音速の砲弾は、竜を砕いた。

 ――より正確には、竜の尻尾と右腕を。


 なるほど。竜が、強者が、最強が、生まれながらにして戦うことを宿命づけられた存在が、二度もおなじ手を喰らうはずもない。

 まったく道理だ。当然すぎる。所詮、素人の浅知恵が通用したこと自体が奇跡だったのだ。


 避けうるはずのない砲弾を正面から右腕で受けることでわずかに時間を稼ぎ、肩まで粉砕されたあたりで下から尻尾が掬い上げた。跳ねあげた反動で尻尾もまた半ばから砕け散ったが、もともとあたま狙いだった砲弾はすこし軌道がズレただけで、竜のあたまを削りながら消えていく。

 暴走列車は止まらない。残った左爪が外骨格の砲身を切り裂き、その勢いのまま回った緑竜が全体重を乗せた回し蹴りを放った。


「がっ……!」


 全身よりも巨大な脚が叩きつけられ、何度目かも忘れた水平飛行で飛んだ。べきべきと森林破壊をしながら止まった頃には、全身の感覚には痛みだけがあった。


 数十メートル先には憤怒に燃える緑竜の姿が見える。そうだろう。最強の腕と尻尾を奪ったんだ、はじめて苦痛を味わったに違いない。そんな敵を見逃すわけがない。

 立ち上がらなきゃ、と思うのに身体はうまく動かなかった。全身が麻酔をかけられたように痺れている。痛いのに麻酔のようにしびれているなんておかしい、と苦笑することもできない。〔炭化〕も〔外骨格〕もない身体じゃ、あんな一撃耐えられるわけがないのだ。


 ――おい、立てよ。戦え。じゃないと死ぬぞ。


 巨竜の姿はすこしずつはっきりと、大きく、しっかりと見えてくる。近づいてきている。

 脚は動かない。


 しょうがないから森を燃やす覚悟で〔熱線〕を放って立ち上がろうとした。……うんともすんとも言わない。とうとう魔力(ガス)欠か?

 ここで終わりなのか。どこかもわからない世界に連れてこられて、勝手に身体を改造されて、人間の世界で生きられなくされて、あのくそったれのピンクに借りも返せず。


 ――それだけはごめんだ!


 砕けたはずの脚にちからが籠った。結局、人を動かすのは感情だ。そのなかでも怒りは格別によく燃える。

 ふらふらとようやく立ったが、生まれたての子羊のようにおぼつかない。だが立てた。だったら戦える。

 砕けた全身を補強しようとして、


「……あ?」


 蝋燭が燃え尽きた。赤いラインと青いラインが閉じていく。

 残ったのはただひび割れた外皮と砕けた手足、猛烈に襲ってくる眠気とかき混ぜられていく視界。


 ――おい、待てよ。待ってくれ。せっかく立ち上がったのに、そんなことあるかよ。


 なにもできないまま気づいたら死んでいるなんてひどすぎる。


 眼を見開いて、手足に力を入れて、霞んでいく意識に抵抗しながらそれでも踏みとどまる。

 膝が折れて転がった。森のなかから空だけが見える。首一本動かすこともできず、ずしん、と竜が近づいてくる地響きだけを感じる。

 せめて眠ることだけはしまいとしたが、抗いきれなかったのか視界が暗闇に沈む瞬間、天使が舞い降りるのが見えた。

 白い羽が森に落ちた。

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