第四章「発作」 ー初秋ー
『そんなこと言われたら、また「発作」がでそうだよ』
そんな表現が適切なのかどうかはわからないが、たとえて言うなら(飲酒をする人なら経験があると思うが)、お酒を呑み過ぎてしまった時の気持ち悪さ…アレだ。
(もちろん、一滴も飲んでなどいないのだが)。
あの症状を指して「発作」という言葉を使っているが…昨日は午前中、一週間ぶりで例の症状が出てしまい…父同伴で、近くにある別の病院へ。すると…「徐脈」ではないか?…とのこと。
(つまり、脈拍が遅くなってしまう症状)。
先にも述べたように、心臓に持病と言うほどではないが、トラブルを抱えていたので、三度「循環器内科」にかかっていたわけだが…「心電図」と、飲み始めた「血栓」予防のための、血液をサラサラにする薬の適応を調べるための「血液検査」程度で過ごしたこの一か月間が、まったく無駄になってしまった。
(詳しく書けば…脈が乱れると血流に滞りが起き、「血栓」と呼ばれる血の塊ができやすくなる。それが脳や心臓の血管を詰まらせれば「脳梗塞」や「心筋梗塞」の原因となる)。
仕事が忙しい時は、「真夏か真冬に、空調の効いた病室で、しばらくノンビリしたい」なんて語っていたものだが…通院だけで、手術も入院も無いのでは、保険も下りない。
(身体の事はもちろんだが、かさむ医療費に、生活費の方だって、そろそろ心配だ)。
いっこうに埒が明かないので、病院のハシゴをする事になったわけだが…最近では、「セカンド・オピニオン」も認知されているご時世。しかし、それ以上に、症状が出ている時の救急病院ばかりでなく、一か月間、原因もわからず、不安や苦痛に耐えている身にもなって欲しい。「溺れる者は、ワラをもつかむ」思いだった。
なにしろ三年前に他界した母の死因は、「大動脈解離」という循環器系のトラブル。
(「大動脈乖離」とも書き、三層構造の大動脈の膜が裂けてしまう症状だ)。
もともと「高血圧」などの持病のあった母。運動神経と、持病に関しては、すっかり母親似な上に…「出たがり」「目立ちたがり」は、父母両家系や、我が一家の家族の多くに共通するもの。
(満州生まれの母は、スピード・スケートをやっていたが、戦後、内地に引き揚げてからは、諸般の事情により…彼の地で早くに病気で父、つまり私の祖父を亡くし、それでなくとも、敗戦で貧しかったであろう当時のニッポン…高価な道具を必要としない、布切れ一枚の水着でできる水泳に転向し、高校の時は背泳で「国民体育大会=国体」に出場したそうだ)。
父も母も「自己顕示欲」が強いのは、元教師というせいもあるのだろうか?
(そんな性格だから、教師になったのかもしれないが…教師ばかりの家系。片方が教師だと、連れ合いも教師となる可能性が高いので、数は倍になって増えてゆく。それで主に伯父・叔父&伯母・叔母などの一族郎党、教師ばかりなのだが…元来のヘソ曲りだからか、教師だけにはなるまいと思っていた)。
おまけに、特に母は、「仕切りたがり」でもあった。地区の婦人会や市のボランティアの先頭に立ち、フラダンス教室を主宰するなど、三つや四つほどの地域活動を掛け持ちして数年、ある日突然、自宅で倒れた。
(ついでに、父が「アキレス腱断裂」で入院などした直後だ)。
一言で言うなら「過労」が原因だろう。
(先にも述べたように、「やりすぎ」なところも受け継いでいる)。
父は父で教員時代、教師的出世には目もくれず、部活の顧問や、そちら方面の役員などの活動ばかりに精を出していたものだ。
(我が県の元『高校体育連盟=高体連』サッカー部・部長。それで、「国体」や「インターハイ」の時期には、いつも家を留守にしていた)。
そして、そんな両親の性格が遺伝したのだろう、中学の時から、スピード競争の世界にいそしんできた。だいたい、スポーツを本気でやっている人間なんて、多かれ少なかれ目立ちたがり屋に決まっているが…。
(雑誌のレース結果などに、自分の名前が載るたびに、優越感にひたっていたものだ)。
ただ、どちらかと言えば、性格は父親譲りで、関心の無い事で注目を集めるのは嫌いだった。むかし従事していた仕事で、「特進で役職になる」という噂もあったが、管理職なんてものには、まったく興味が無く…むしろ、そんなものはお断りだった。辞職した一因に、そんな理由があった事も否定できない。
それに、人と接する仕事をしていた両親とは違い、多分に「人間嫌い」なところがあった。それで、機械相手の職種に従事し続けていたのだが…どんな仕事でも大抵そうだが、最終的には人と人とのつながりだ。機械を整備したからといって、機械が代金を払ってくれるわけではないし、たとえ故障が直らなくても、言葉たくみに相手を納得させられれば、新しい機械だって売れるかもしれないが…。なんでも「作家になるのは、教師の子弟に多い」という話を聞いた事がある。しかし、「話を創る」なんて、ウソつきなだけだ。「虚言癖」があるくせに、口下手な奴が小説なんてものを書く。口がうまかったら、きっと詐欺師になっていた事だろう。
(頭の良し悪しはともかく、「ズル賢いガキ」だった。それに、いったんシラを切るとなったら、とことん切り続けた。「性悪説」。もちろん、「性善説」的生まれながらの善人というのもいるだろうが、少なくとも、自分はそうだったし…「人間など皆◯◯」…この「◯◯」に当てはまる言葉が、『その人の本性』だと今でも思っている。そして、そんな「性悪」を討ち消すには、まず経済的な余裕。次に「教育」…つまり「美意識」の問題だろうが、この歳になると、今度は「体力」が重要だ。「善行」なんて、「超人」以外、まず金と力があっての行為だろう)。




