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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

おっさん死体回収人はダンジョン配信者を救いたい

作者: 羽柴

 俺の名前はラルド、37歳独身。職業、ギルド所属の死体回収人。

 ギルド備えつけの大きな配信鏡で複数の中継を一度に覗きつつ、死んでいる冒険者がいないかチェックするのが日課だ。


「うぃ〜す! リューヤでぇっす! みんな〜!配信来てくれてありがとー! これから俺の成り上がりストーリーが始まるからよろしくね〜!」


 あーぁ……またか。

 ダンジョン一階だからって大声出すなよ。安いのに仕事が増えるだけだ。


 ――あっ、ホーンウルフが集まって来た……。

 あぁ、首を一撃でね。痛みもなく即死。いやはや、脇が甘すぎる。


 世は大配信者時代。ダンジョン攻略から魔王軍との戦争まで、すべて配信水晶でリアルタイム中継され、娯楽扱いされている。


 そんな中、俺の仕事――死体回収――は日に日に減っていた。

 露出が増えるとスポンサーがつき、装備や回復薬を潤沢に用意して無茶はさせない。全滅しても専門チームが出動。


 つまり、金もコネもない冒険者の「後始末」くらいしか仕事が回ってこないのだ。


 ――昔は良かった。配信水晶なんてない時代は、死体回収の技術が重宝された。経験とマッピング能力が命だった。

 今の給料? 全盛期の1/10。37歳のロートルの再就職は厳しい。


 配信鏡の魔力を切りリューヤくんの回収のため、裏の詰所から黒隕鉄製の鉄板みたいな大剣を担ぎ、ダンジョンに向かう――その時だった。


「あっ! ラルド、いた! よかった! ごめん、17階にも回収お願いできる?」


 ギルドのベテラン受付嬢、マリエッタ32歳(独身)が仕事を持ってきた。


「17階? 企業チームがいるんじゃないの?」


「臨時メンバーよ! 滑落したらしいの。回収チームは契約的に無理って泣きつかれたの!」


 うわぁ、世知辛い。契約と人命、どっちが大事かって? そりゃ契約だろうな……。

 でも俺も18時定時のサラリーマン。現在14時。残業をするとギルド長が煩いのだ。

 俺へのギルド長のあたりは強い。俺の仕事は斜陽、 解雇の理由をいつも探している。


「次、勝手な残業があれば首だ、首だ、首だ!」

 と怒鳴られたばかりだ。今は大人しくしていたい。


「定時過ぎそうだから、明日にしてもらうしかないな」


「まだ生きてるかも知れないでしょ? あんた、生存者を見殺しにしたくないでしょ?」


「そうだな……まあ、死体さえあれば教会で復活できるけど……一人で助けを待つのは……、……嫌だな。ちっ!」


 俺は首を一回し、舌打ちする。


「ギルド長には言っとけよ!」とマリエッタに伝えて、ダンジョンへ向かう。


 俺は大急ぎで、ダンジョンを下った。

 飛び、走り、跳ね、落ちる。

 ショートカット、落とし穴、抜け道。全ては頭に入っている。


 俺は戦闘は嫌いだ。臭いし危ないし、何より毒がいやだ。戦いに勝っても死ぬ。死体回収人の方がよっぽど楽だ。


 全速力で17階層に辿りついた時には16時近かった。恐らく残業確定だ。

 17階層は滑落事故が頻発する危険エリアだ。15層から続く崖、滝、吹き抜け……油断すればすぐに落ちる。

 そんな場所だからかギルドも厳しく立ち入り禁止エリアを指定している。


 俺はロープとピッケルを使い、崖をスルスルと降りる。

 落ちたと目される座標へ最短距離でつくと、そこは大瀑布の近くだった。

 俺は嫌な予感に、地図を取り出す。

 すぐに嫌な予感は当たりだと解った。


 ここ、立ち入り禁止エリアだ。


 動画映えを意識して滝に近づいたのだろう。

 結果は滑落。

 俺は谷底へ視界を移す。水飛沫で霧で地面が覆われていた。地面に落ちて死んでいるならまだ、いい。滝壺に落ちたら最悪だ。予想が付かん。


「クソ! 水に落ちたか?」


 すぐに水晶端末でマリエッタと連絡。


「最悪! 大瀑布付近だ。立ち入り禁止エリアで痕跡なし!」


『通りでやりたがらない訳ね……ごめんなさいハメられた。生きてるかも知れないってのもブラフかも……』


 マリエッタは、消沈した声を見せる。

 どうやら立ち入り禁止エリアに入った事を含めペナルティを恐れてギルドにも責任を分けようと画策したらしい。最悪だ。しかし――。


「んなこたぁどうでもいい! あとでお前がなんとかしろ! 俺は探すからな! 少しでも情報手に入ったら連絡くれ!あと、リューヤくんはその辺の新人捕まえてやらせとけ!」


 俺はそれだけ言って通信を切ると、生存者を見つけるため、霧の中を這うように進む。

 そこから二時間後、何も痕跡がみつからないまま俺は辺りを這い回っていた。その時、マリエッタからようやく連絡が来たのだった。


『どうやら、落下時に15層から落ちて来たブラウンシーサーペントに食いつかれ、滝壺に落ちたらしいわ』


「ちぃ! それを先に言えよ! 18階じゃねーか!」


『どういうこと?』


「シーサーペントは15層の魔物だが、18層から15層へ戻るルートがある。本能的にそこへ向かうはずだ。冒険者のレベルは?」


『45よ』


「そこそこ高いな……なら倒してる可能性は高い。俺は下に向かう!」



 マリエッタの情報により、俺は18階に当たりを付け駆け出した。

 川沿いを駆け下り、目線を常に下へ向け痕跡を探した。脇目も振らず走る俺は魔物共を置き去りにし続けた――これが死体回収人の誇りだった。


 滝壺の濃霧に負けず、やっとの思いで血痕を見つける。やはり、川から自力で這い上がってくれていたようだ。

 俺は血痕の跡を追う、数分後――。

 大量の魔物に襲われ、今にも崩れ落ちそうな女の子を見つけた。

 どうやら装備のほとんどを失ったらしい。

 爪。牙。刃。それらを致命傷を避けながら、ナイフ1本で凌いでいる。

 ……。しかし、彼女はもう間もなく倒れるだろう。もう足取りがふらついていた。

 本来ならば、俺はもう逃げて後で回収しに来てもいい。


 死体体回収人としてはそれでいいのだ。


 しかし……。

 一人の冒険者として、助けないという選択肢はなかった。

 俺は戦闘は嫌いだ。大っきらいだ。でも、人が死ぬのはもっと嫌いだ!


 俺は大剣を掲げ大声で唸りながら彼女の前に立つ。彼女は最初きょとんとしていた。


「かぁぁぁぁぁがぁぁぁぁぁめぇぇぇ! うぉぉぉぉぉぉぉぉ!」


 そんな彼女に俺は大声で怒鳴り、辺りを大剣で薙ぎ払う!空間にぼっかり孔が空いた。

 俺はそのまま壁沿いに彼女を誘導し、その前に立ち前方180°からくる魔物達を斬り伏せ続けた。


 ――どのくらい経っただろうか?


 もう血で視界がふさがり、疲れで意識は朦朧としていた。感覚だけで剣をふりつづけていると、不意に背中に柔らかい物を感じた。


「もう大丈夫です! 魔物はいません。ありがとうございました!」


「ははっ良かった。じゃあ……帰ろっか?」


 そう言って俺はその場に倒れこんだ。

 流石に疲れた。実は怪我はなかったが、体力はもうおっさんだ。しょーじきしんどい。

 1時間ほど休憩していると、企業の回収班が現れて俺達を回収した。

 どうやらマリエッタがブチギレたらしい。


 助けた女の子は病院へ、俺はギルドへと帰った。

 時間は夜の23時。もう少しで午前様だ。

 マリエッタは俺の顔を見ると、「ごめんなさい」とすぐに謝ってくる。

 俺は「助かったからもう良いよ」と笑顔でそう答えた。


 死体回収人として良い仕事が出来た。だから気分がいいのだ。俺はクタクタの身体を、気合で立たせギルドから帰ろうとする。マリエッタはずっと黙ったままだ。そんなに気にやまなくて良いものを……。

 マリエッタは俺から目線を外し何かの紙を寄越す。まさか……。もうお互いラブレターという歳でもあるまい。しかし、少し旨が高鳴った


「開けていいのか?」


「えぇ」


 マリエッタは俺とは頑なに目を合わせない。恥ずかしいのだろう。俺はからかうことはせず紙を開く。


















 その中身は俺のギルドからの解雇通知だった。


「なぁ」


「ごめん」


「ちょっ……」


「ごめん」


「ふざけっ」


「ほんとにごめん」



 最後までマリエッタは俺の事を見なかった。



 この日俺はラルド、37歳。無職。になった。







 ――翌日。

 俺はいつもの癖でギルドの来ていた。

 俺の机はキレイさっぱり消えて、ギルド長は俺と目線が合っても無視し続けた。


 俺は半泣きでギルド前に座りこんでいたら、「おーじさん!」と声を掛けてくる女性。見上げると昨日の女の子。


「ね? ギルド、クビになっちゃったんでしょ? なら」




「――一緒に配信しない?」


 俺はこうして、ルール無用の迷惑配信者となり

 いつしか勇者と呼ばれるようになったのだった。


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