選ばれし者、拒絶されし者
召喚された男の名は、レイヴン。
ステータスは最強クラス…だが、たった一つの“ゼロ”が、すべてを狂わせた。
勇者と呼ばれたその瞬間から、彼の運命は転落を始める――。
...すべてが変わった。
気づけば、レイヴンは豪華な広間の中央に立っていた。まるで英国の貴族の屋敷にあるような荘厳なホールだ。さっきコンビニで買ったエナジードリンクは、跡形もなく消えていた。
彼の周囲には、見知らぬ者たちが取り囲んでいた。香水の匂いが漂い、気品あふれる装いに身を包んだ人々。なかには、神官のようなローブと帽子をかぶった者もいる。その中で、特に目を引いたのは、金髪で青い瞳の少女だった。
「この者が、予言された勇者……?」
「想像以上に…ハンサムじゃない?」
貴族風の女性が隣の友人に囁いた声が、レイヴンの耳にもしっかり届いた。
レイヴンはただ茫然と立ち尽くし、周囲を見回す。理解が追いつかず、思考は混乱していた。
その時、先ほどの神官の少女がそっと近づき、優しく彼の手を取った。
「勇者様。ステータスの確認をさせていただいてもよろしいでしょうか?」
その笑顔はあまりにも温かく、目元までやさしく微笑んでいた。レイヴンは思わず頬を赤らめた。
少女は手のひらに青いクリスタルを取り出し、それをレイヴンの手にそっと触れさせた。
すると――
空中に見知らぬ言語の数字と文字が浮かび上がった。
だが、なぜかレイヴンには意味が理解できた。
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パワー :100
知力 :150
スピード :100
耐久力 :200
「この数値…聖騎士クラスのステータスだぞ!」
ホールのあちこちから感嘆の声が上がった。
しかし、すぐ後に表示されたのは――
マナ :0
その瞬間、場の空気が凍りついた。
「な、なんだこれは!?」 「マナがゼロ!?」 「これじゃあ…役に立たないじゃないか!」 「魔物に対抗できるわけがない!」
嘲笑と怒号が一斉に響いた。
レイヴンは呆然と立ち尽くし、胸の奥に冷たい現実が突き刺さる。
そのとき、一人の老王が玉座から立ち上がった。
「全員、黙れ!」
重々しい声がホールに響き渡る。
「神官よ、召喚に失敗はあったのか?」
「い、いえ…陛下。儀式はすべて正常に完了しました…」
「ふむ……ならば、これは――失敗作だ。」
老王は冷酷に言い放った。
「この者を、都市から遠く離れた最も危険な地へ送り捨てよ。精霊と魔物が徘徊する森にだ。もし生き残れたなら、それでよし。死ねばそれまで。」
「はっ! かしこまりました!」
すぐに数人の兵士がレイヴンを拘束し、ホールから引きずり出した。
黄金の彫刻が施された大扉を抜けると――
まぶしい日差しが彼の目を射抜いた。
「……昼間?」
さっきまでは夜だったはずだ。だがこの世界は、まるで時間が違うかのように明るかった。
空気は軽く、どこか魔法の香りが漂っている。異質で、しかしどこか心地よい温もりを持っていた。
目の前には、金で縁取られた巨大な柱と、美しいステンドグラスのある城がそびえ立っていた。壁にはこの世界の歴史を語るような、勇者やドラゴン、神々の彫刻が刻まれていた。
あまりの変化に、レイヴンの思考は限界を迎えようとしていた。
だが、それよりも――
「おい、離せよ、このクソ野郎ども!」
彼は怒鳴り、腕を振り回すが、兵士たちはびくともしない。いくらレイヴンが格闘技の達人でも、五人がかりで押さえつけられては身動きが取れない。
そのときだった。
先ほどの神官少女が、小さな袋を抱えて駆け寄ってきた。
「待って! これだけでも彼に持たせてください!」
その袋の中には、金貨10枚、小さな短剣、そして回復ポーションが入っていた。
「な、なんだお前は!? 近づくな!」
兵士が制止しようとするが、少女は懇願した。
「…お願いです、一度だけでいいんです。これだけは…!」
「ふん、交渉の基本は金だ。50枚でどうだ?」
兵士の一人がにやりと笑う。
少女は迷わず金貨を差し出した。
「……いい取引だな。」
金貨と引き換えに、袋はレイヴンへと手渡された。
そのすぐあと、彼を乗せた馬車が、森へ向かって静かに出発した――。
ここまで読んでいただきありがとうございます!
勇者として召喚されたレイヴン、しかし彼を待っていたのは“祝福”ではなく、“追放”。
次回、未知なる森でのサバイバルが始まります。果たして彼は生き延びられるのか…?