表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

ショートショート集

作者: ひもしめじ

「未来の春子より」



「なんだろ、このメール」

春子はここ一か月、時々送られてくる妙なスパムメールに困っていた。普段ならすぐに受信拒否をするところだが、なぜかそれはまだできずにいた。その理由はスパムメールの内容にある。


件名:未来の春子より

本文:今日は好きなアイドルの誕生日だよね。その子は6年後に引退するから、

今のうちに応援しときなよ!


たしかに、その日は推しの誕生日だった。たまたまだとしても、なんとなく無差別的に送ってる感じがしない。それが引っかかって、春子は受信拒否せず、様子を見ることにした。そうしているうちに、不定期で届くこのメールを怖がりつつも、どこか楽しみにするようになっていった。

ある朝、こんなメールが届いた。


件名:未来の春子より

本文:今日大学に登校するときはいつもの道を使わないようにね!私のときは通行止めで通れなかったから!


気にはなったが、その日は寝坊して急いでいたこともあって、メールの内容はスルーしていつもの道をそのまま進んだ。

「うそ、マジで…」

駅へ向かう道の途中で、交通事故が起きていて通行止めになっていた。しかたなく遠回りして登校する羽目になり、この出来事以降春子はすっかり「未来の春子」を信じるようになった。

通行止めの件から2週間ほど経ったころ、また新しいメールが届いた。


件名:未来の春子より

本文:今日は3丁目にある喫茶店に、夕方の5時にいってみて!そこにいる黒い帽子の男性が私の運命の人だよ。


正直半信半疑ながらも春子は、指定された時間に喫茶店のドアを開けた。

店の奥、右側のテーブル席に黒い帽子を被った男性が座っていた。春子より4歳ほど年上に見えた。

正直、あまりタイプじゃなかった。でも、「未来の春子」の言葉が頭に浮かび、思い切って話しかけ、連絡先を交換した。

それからもメールは届き、どんな話をすればいいか、どんなタイミングで会えばいいか、こと細かに指示が書かれていた。春子はその通りに動き、自然な流れでその男性と付き合うようになった。

不思議なことに、それ以降「未来の春子」からのメールはピタリと来なくなった。

そして、大学を卒業した春子はそのまま彼と結婚した。


結婚から数か月が経った頃から、春子たちはよく喧嘩するようになっていた。

春子の気が乗らない日でも、夫は構わず関係を求めてくるようになっていた。春子が嫌がっても、夫は強引だった。

ある晩、春子はついに限界を迎えた。

「もう関係を求めてこないで。このままなら、私は離婚する」

そう言うと、夫は「……あぁ、そう」とだけ言い残し、自分の部屋に閉じこもってしまった。

突然の態度の変化が気になり、春子は夫がトイレに行った隙に彼の部屋に入った。そこには開いたままのパソコンがあり、メールソフトが立ち上がっていた。

画面には、見覚えのある件名が並んでいた。


件名:未来の春子より

本文:夫と喧嘩してると思うけど、関係を持つことが夫婦円満の秘訣だよ。がんばってね、過去の私。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ