嫌味は癪だが役に立つ
思い付き短編です。
……今度はちゃんと短編にしたから大丈夫……。
どうぞお楽しみください。
「あら、ダゴネスさん。必死ですわね。明日の試験に向けて追い込みといったところかしらぁ?」
ぐ……!
ティグレス……!
面倒くさいのに絡まれた……!
図書室のあちこちから嘲るような含み笑いが聞こえる……!
「大変ですわねぇ。次の試験で学年で十位以内に入らなければ、退学するとまでアン先生に仰っていましたものねぇ」
「……」
いくら『平民の家でまともな教育などありえない』と侮辱されたからって、担任のアン・フィトネス先生に対して退学まで口にしたのは浅はかだった。
だからってあの貴族至上主義女め!
地理の試験範囲を私にだけ教えないとか、そこまでやるか普通!?
とにかく考えうる範囲を全部覚えないと……!
でも明日までにどこまで覚えられるか……!
「退学されたらどうされるのかしら? 期待されて学園に来た以上、お家には帰れませんもんねぇ。どこかで農民にでもなられるのがよろしいのでは?」
「……」
うるさい!
勉強の邪魔をするな!
「南東のハベスト地方なんてよろしいのではないでしょうか? 国内での小麦の生産量が二番目に多いんですもの。きっと仕事がありますわぁ」
「……」
「それともハベストの南にあるリシヒ地方に行かれます? 最上級小麦である黄金麦を国内で唯一生産している場所ですから、きっとお金を儲けられますわ」
「……」
「リシヒ産黄金麦にカウミル地方の最高級バターを使ったお菓子をいただいた時は、天国を感じましたわ。あなたの口には入る事もないでしょうけど」
「……!」
腹立つ!
あと腹減る!
「小麦のハベスト、酪農のカウミル、それに卵のツァマゴ地方を加えてパンの三角なんて呼ばれますわね。ダゴネスさんにはお似合いじゃありませんこと?」
「……?」
「リシヒ、カウミル、ツァマゴに砂糖の産地シュガル地方を頂点とした場合は菓子の四角などとも言われますわね。まぁダゴネスさんとは縁が薄そうですけど」
さっきから何なんだ?
いつも貴族同士で自慢話をする時は、服だの紅茶だのの話をしてるのに……。
何で今日は地理の授業みたいな……。
!?
「そうそう、ハベストとカウミルの間を流れるイノセンティ川は、国内でも有数の透明度を誇りますから、ダゴネスさんのお肌も白……、いえ、無理ですわね」
こいつまさか、今回の試験範囲をこっそり教えようとしている!?
周りの目があるからって嫌味に乗せて!?
わ、罠か?
……いや、放っておけば退学になる私を罠に嵌める理由がない……。
「まぁその周辺をよーくお調べになれば、退学なさったとしても生活は成り立ちますわ! おーっほっほっほ!」
「……」
そう言い捨てて、ティグレスは去って行った。
……物凄く性格が悪くて、単に退学になるだけではつまらないと、罠にかけてきた可能性もなくはない。
でももし私を助けようとしてくれているなら……!
どうせ退学になるなら、信じて騙されてやる……!
「ひ、い、一位……!? そ、そんな馬鹿な……!」
アン先生が順位の貼り出しの前で顔面蒼白になっているのを尻目に、私はティグレスへと歩み寄った。
「……二位の私に何の御用ですの?」
「……いやー、試験前に散々煽ってくれたからさぁ」
私は紙包を差し出す。
「……何ですの?」
「平民の味を貴族様にも味わってもらおうと思ってね」
「……?」
「ハベスト産の安い小麦で作った、我が家に伝わる簡単お菓子だ」
「!? ……そ、そんなもの、いただく謂れは」
「だってあんたは二位だろ?」
「……?」
「一位の私が『食え』って言うものを、断る理由があるのかよ?」
「……!」
目を見開くティグレスの襟を掴んでぐっと引き寄せた。
「……ありがとな」
「っ」
周りには、貴族を破った平民が、調子に乗って傍若無人に振る舞ったように見えるだろう。
別にそれで良い。
きっとティグレスには伝わると思うから。
読了ありがとうございます。
『ス◯夫が自慢する時のテーマ』が流れた貴方!
僕と握手!
さて恒例のお名前紹介。
まず嫌味な令嬢のティグレスは、最初愛する我が子を千尋の谷に突き落とす獅子からライオネスかリオーネと思っていたのですが、主人公と対等であってほしいなーと思った結果、
ティグレス(tigeress・雌虎)
ダゴネス(dragoness・雌竜)造語
となりました。
龍虎相撃つ!
……予測変換で『愛鬱』と出たのは見なかった事にして……。
貴族至上主義の担任アン・フィトネスは、不適格を意味するunfitnessから。
この後学園からどう詰められるのか、楽しみですね(暗黒微笑)。
お楽しみいただけましたら幸いです。




