第四話 前夜
ハイチの復興を願うと共に、亡くなった方のご冥福をお祈り致します。
十二月に入ると、比較的温暖な加美手島にも寒気が到来する。
すっかり日の落るのも早くなった放課後の職員室で、カオリは生徒達から預かったカードを整理していた。
『るねちゃんへ。最初は、すごく嫌なヤツだと思ったけど、最後に仲良くなれて良かったです。クリスマスにはきっと加美手島に来て下さい。舵より』
『ゆこちゃんへ。ふたりが帰っちゃった後でね、みんなで肝試ししたんだよ。とっても楽しかったよ。クリスマスには絶対に来てね。はじめより』
半分近くが、流音とゆこに宛てられたもの。それを宛名の書かれた封筒に大切に収め、切手を貼る。
「子供達の、クリスマスカードですか?」
背後からの声と紅茶の香りに、カオリの顔は自然に綻んだ。振り返りざまに差し出されたカップを受け取ると、入れ立ての紅茶の湯気が鼻孔をくすぐる。
「明日、投函しておこうと思っています。そうだ、校長先生宛のものもありますよ」
「それは、楽しみですね」
矢木が、いつものように穏やかに笑う。
「子供達から毎年カードが届くのが、一番嬉しい」
「じゃあ、例年通りクリスマスイブにまとめて校長室に置いておきますね。赤いリボンをかけて」
「楽しみにしてますよ。カオリサンタさん」
矢木が生徒達からのカードを楽しみにしていることは、小学生の頃から知っている。
その頃から、カオリはみんなからカードを集めて、朝早くに校長室の机に置いていた。「サンタより」というメモを残して。
その頃は、自分がこの学校の教師になって、またこの儀式を行うことになるとは思ってもみなかったのだけど。
「おや、これは?」
不意に矢木が、机の上のカードを手に取る。色鉛筆で描かれた、綺麗に飾り付けられた樅の木とおかっぱ頭の女の子の絵が印象的だ。
「毎年、あるんですよね。あの子に宛てられたカードが」
『春ちゃんへ。流音ちゃんの事、本当にありがとう。追伸、そろそろ私にも姿を見せてください』
几帳面な文字で、そう書かれている。
「この文字は、蘭子くんじゃないのかな?」
「私も、そう思うんですけど」
と、カオリはくすりと笑う。そう、毎年誰かがその話を持ち出す。『お春』と名乗る、不思議な女の子の話。でもいかんせん、『春ちゃん』なる子供はこの学校には在籍していない。というか、この島には居ない。
学校の記録を調べると、学校に住む『座敷童』の噂は設立の数年後からあるが、その真相にたどり着けた者はいない。今は四年生の江口一くんが頑張っているが、樅の木に登って怪我をしそうになった事もあり、教師や父兄からきつく戒められている。それで諦めてくれると良いのだけどと、カオリもまた思っていた。
このカードはいつものように、クリスマスの飾りの一部になってしまうのだけど、本当にそれで良いのかどうか、カオリにも解らない。ただ、きっと『春ちゃん』はメッセージを受け取ってくれていると思っていた。そう、『春ちゃん』は、この学校の事は何でも知っている筈だから。
「『春ちゃん』か。そういえばカオリくんも昔、そんな事を言っていましたね」
「校長先生、覚えていらっしゃったんですか?」
矢木が窓から見える樅の木を見ながら、遠い目をする。
「まだ、開けないのですか?」
カオリも、つられるようにそちらを見る。そう、あの木の根本に眠っているものがある。カオリが小学生の時に、埋めたもの。
「鍵を持ってる人が、帰って来ませんから」
と、カオリが呟く。
「今頃、どうしてるんだろうね。崎谷くんは」
崎谷力くん。彼がこの島を去って、十……何年になるのだろう。その時崎谷くんはクラス委員長、カオリは副委員長だった。
そしてお別れの時にあの樅の木の根本に埋めたのだ。思い出を詰めた、タイムカプセルを。
越智カオリは四人姉弟の長女だった。
下には双子の弟と、妹がひとり。末っ子の陶子は体が弱く、季節が変わるたびに寝込んでいた。
陶子にかかりきりの母親と、毎日忙しく働く父親。だから他の二人の面倒はカオリが見るしかなかった。勿論、弟たちだって寂しい思いをしていなかったわけではないだろう。だが義一も創平も、やんちゃだが聞き分けの良い優等生だった。
それなのに、陶子ときたら。
どうしてあんなにわがままなんだろう。しかも、どうしてそんな我が儘が許されるんだろう。
生まれつき体の弱い陶子。両親はまるで腫れ物に触るように陶子に接していた。だからだろうか。望むものが与えられて当然だと思っている、陶子。
そんな陶子を見ていると何だか嫌な気分になった。
きっと言えば良かったのだ。義一や創平にいつもお説教しているように。「世界は、あなたを中心に回っているわけではない」って。
だが、陶子を目の中に入れても痛くない程に溺愛する両親の前では、そんなことを言い出せなかった。
カオリには、ずっと前から気になって仕方のない事がある。それは、自分の名前だ。創平も俊和も陶子もみんな漢字なのに、どうしてカオリだけカタカナなんだろうと。
母親に聞いても「さあ、どうしてだったかしら」と答えるだけ。もしかして、自分は望んで生まれたわけではなかったのかと、ついつい勘繰ってしまったりもした。
その頃のカオリは、ちょっといじけていたのだろう。
でも、学校に行くとそんな嫌な事はすっかり吹き飛んでしまう。同級生の友達と遊ぶのが楽しかった。特に崎谷力くん――リキちゃんは、特別だった。幼なじみで、色んな意味でライバルで、そして尊敬もしていた。誰より大切な友達だと思っていた。
そんな崎谷くんが、明後日にはこの島を出て行ってしまう。遠い、本当に遠い場所に引っ越してしまうのだ。寂しい気持ちを抑えて、カオリは決めた。だったらその限られた時間を、大切にしようと。
「お母さん、私の写真知らない?」
朝になって、それがないことに気がついたカオリが、母親に尋ねる。
「写真って、何のこと? それより急がなくちゃ。カオリ、ちょっと後ろ上げて頂戴」
黒いワンピースのファスナーと格闘する母親の姿に、カオリは小さく嘆息した。
そうだった。昨日、近所のおばあちゃんが亡くなったんだ。お母さんは朝からお手伝いに行かなきゃならないって、言われていたっけ。
仕方なく、母親の服の後ろのファスナーを上げる。
「ありがとう、このファスナー壊れかけてるのかしら。じゃあ、お母さんはもう行くから」
数珠と割烹着を鞄に詰め込みながら、母親が言う。
葬式ともなれば、隣保の役員も婦人会もものすごく忙しい。この島では、婚礼や葬儀は一切、隣保の人間が取り仕切るのが当たり前だった。葬儀に至っては、棺や副葬品、祭壇の手配から納棺などの主立ったものから始まり、参列者の弁当まで婦人会の面々が手作りをする。どこの家の働き盛りの父親でも同じだが、父親が隣保の用事で仕事を休んだりしないので、事あるごとに母親が駆り出されていた。
手際よく準備を整えた母親は部屋を出ようとして、そこに寝る末っ子の姿に気がついたらしい。思いだしたようにカオリの前に座った。
視線を合わせて、言い聞かせるように告げる。
「陶子ちゃんは昨日熱を出したから、特に気をつけてあげてね」
陶子が熱を出すのなんか、いつものことなのに。と、カオリは思う。
第一、気をつけるといってもカオリは学校を休むわけにはいかない。せいぜい休み時間に家に電話をして、困った事がないかを聞くぐらいなのに。
そんなことを思いながら母親を見送り、続いて布団にくるまった陶子を見る。と、
「写真って?」
いつから起きていたのだろう、陶子は布団から起きあり、カオリを見つめていた。
「ああ、去年の冬にみんなで樅の木の下で撮った写真。一枚だけ、私が持っていたやつ。覚えてる?」
「もしかして、リキちゃんが写ってたやつ?」
カオリの頬が、一瞬で紅潮した。
そう、その写真には崎谷力くんが、写っている。
セルフシャッターで撮った家族写真の真ん中に、カメラに気づかずに横断した力くんが映っているのだ。
写真は後で撮り直したので、その偶然の一枚はカオリがゲットしておいた。勉強机のカバーの下に挟んでおいた筈なのに、いつの間にか消えていたのだ。
今日、力くんに渡そうと思っていたのに。
「陶子、知ってるよ」
「な、何を?」
何故か狼狽する、カオリ。陶子がきょとんとした顔でそんなカオリを見る。
「だから、写真でしょ?」
「どこにあるの?」
「ちゃんとは、わかんない。でも、多分あると思うよ。探しておいてあげる」
いつものように、陶子の言うことはさっぱり要領を得ない。しかし、小学生だって朝は忙しい。母親がいないとなれば、なおさらだ。
写真は、また帰ってからゆっくり探せば良いと自分を納得させ、カオリは陶子の頭を撫でる。
「ありがとう。でも、陶子は熱があるんだから、今日は寝てなさい」
言われると、陶子は拗ねたように唇を尖らせた。
「お姉ちゃん、学校に行けて良いなぁ」
陶子は、具合が悪い時は月の半分も学校を休む事がある。だから、クラスのみんなともあまりうち解けていないと、そういえば創平が言っていた。
熱で少し充血した目が、カオリを見る。
「陶子も学校に行って、お友達とおしゃべりしたいよ」
そうだ、色んなものを欲しがる我が儘な陶子。
でも、神さまは陶子が一番欲しい物を授けてくれなかった。誰もが普通に持っている、いつでも友達と遊べる、健康な体を。
「早く、春ちゃんに会いたいな」
創平は陶子には友達もいないみたいだと言っていたが、ちゃんといるらしい。それに少し安心して、カオリはもう一度、陶子の髪をそっと撫でる。
「だったら、今日はお家でゆっくりして。熱が下がったら会えるからね」
うん、と。陶子が頷いた。
「元気になったら、リキちゃんの写真、見つけるから」
「力くんが写った、家族写真よ」
カオリが言い直すと、陶子は笑う。うわごとのように何かぼそぼそと言いながら、やがて眠りについた。その額に触れればやはり少し熱っぽい。隣のおばさんに頼もうにも、おばさんも婦人会の用事で居ないだろう。
やっぱり、学校を休もうかな。そんな思いがカオリの脳裏をかすめた。
先生に電話して、陶子の具合が悪いって言ったら、お休みしてもいいって言ってくれるかな。でも……。
「お姉ちゃん、遅刻しちゃうよ。朝ご飯まだ?」
義一の声に、カオリは迷いを振り切った。
お昼休み。そろそろ陶子は起きてお腹を減らしている頃だろうか。冷蔵庫にお粥が入っているからとメモを残して来たけど、食べただろうか。電話を入れておいた方が良いな。そんな事を思った時だった。
「お姉ちゃん、どうしよう」
六年生の教室に、四年生の義一が飛び込んで来る。その表情はなぜか焦っているようだった。
「どうしたの?」
「さっき、二年生の子たちが陶子がいなくなったって騒いでいたんだ。創平が、お姉ちゃんに知らせて来いって」
そんな、まさかとカオリは思う。
「陶子は、今日はお休みでしょ?」
「それが、来ていたって。誰に聞いてもそう言っていたよ」
カオリは血の気が引くのを感じた。慌てて職員室で電話を借りる。
だって、陶子は朝も少し熱があった。無理しちゃ駄目だって言っておいたのに。
コール音が何度も響くが、誰も出ない。陶子が居るはずなのに。いや、今日は早くから起きていたみたいだから、まだ寝ているのかも知れない。
「家には、居なかったよ!」
そこに息を切らせながら飛び込んで来たのは、創平。
「家には、誰もいなかった。やっぱり、陶子は学校に来たんだ」
カオリは、軽くパニックを起こしていた。
だって、陶子と約束したのに。ゆっくり休んで、熱が下がったら明日は学校に行こうって。待って、その前に何か約束しなかった?
「何があったんですか?」
担任の矢木先生の問いかけにも、カオリは答えられない。朝、陶子と交わした会話をもう一度頭の中で反芻する。
写真。
そうだ、写真を探すと陶子は言っていた。ようやっと、その事に思い当たる。
その間に、義一と創平が代わる代わる、矢木に事の顛末を説明していたようだ。
「では、職員も手分けをして探すようにします。君たちも思い当たる場所は探してみて下さい」
言われるまでもない。カオリは、動揺のままに職員室を飛び出していた。各階のトイレ、教室、屋上、念のために保健室と走り回る。でも、どこにも陶子はいない。
今頃、熱が上がっていたらどうしよう。倒れていたらどうしよう。誰にも見つけられずに……死んでしまったら、どうしよう!
昼休みの終わりを告げるチャイムも耳には入っていたが、教室に戻る気にはなれない。
どうして、学校を休んで陶子の側に居なかったのだろう。だって、カオリは残された時間、出来るだけ力くんと一緒に居たかったから……。
小さい陶子を気にかけるよりも、明後日、遠くに行ってしまう力くんと一緒に居る時間を、優先してしまった。それが解っているから、陶子を見つけるまで教室には帰れない。
「カオリちゃん」
背後からの声に、カオリは振り返りもしなかった。
振り返ったりしたら、陶子に悪い気がしたから。
「先生に聞いたよ。次の授業は自習になった」
顔を上げたカオリ。力が、頼もしそうに笑う。
「話を大きくしたくないんだろ? でも、ボクも一緒に探すよ」
こんな時なのに、どうして胸がどきどきするのだろう。
一緒に探すと言ってもらって、どうしてこんなに嬉しいのだろう。
「こういう時はね、めくらめっぽう探しても駄目なんだ。陶子ちゃんは何か目的があって学校に来た。そう思わない?」
確かに、そうだ。
だから「写真」と、カオリが答える。
「写真がなくなったの。それを陶子が心当たりがあるから、探しておくって」
力が、「写真かぁ」と腕を組んで考え込む。
「何かの資料? それによって、探す場所は違うよな」
まさか彼本人が写っている写真だとは、カオリには言えない。
「普通の写真。樅の木が写っている写真よ」
「だったら、樅の木の所に言ってみようか。何かヒントがあるかも」
そうじゃなくて。樅の木の下で力くんと私が偶然一緒に写った写真。
と、言いたかったが言えない。
駆け出した力に、仕方なくカオリがついていく。
樅の木の下に来ても、答えが出る筈がないと思っていた。だって、そこにあの写真があるとは考えられない。
だが。
「待っとったで」
樅の木の下には、絣の着物を着た少女が厳しい面差しでカオリを睨み付けた。平成の時代に着物の少女という違和感にはあるものの、何故かそれが自然な在り方のような気がした。
「あんたが、陶子のお姉ちゃんか。手を打つのが遅いって説教しようと思ててんけどな……」
カオリと力を交互に見て、やがて少女はにっと笑う。
「安心しぃ。陶子は元気やで。でも、ちょっと大変そうやから手伝ってあげたらええわ」
「陶子が、どこに居るのか知ってるの?」
「なんや、あんたお姉さんのくせに全然陶子の事を知らんのやな」
呆れたように告げる少女に、カオリはむっとなった。
だって、年中陶子のことを心配してるのは、両親。だからカオリはずっと弟たちの面倒を見ていたのに……。それすらも否定されたような気がして。
「陶子はな」
と、少女が告げる。
「ひとりで空想したり、本を読んだりするのが好きなんや」
それぐらい知っていると言いかけたカオリは初めて、自分が探さなかった場所に思い当たる。
図書室!
「気がついたんやったら、はよ行き。きっと陶子は疲れ果てて寝てるわ」
「行こう」と手を引く、力。でもその前にと、カオリが少女にもう一度向き直る。
「あんた、誰?」
少女は笑った。
「お春って、呼ばれとる……うちが、そう名乗るさかいにな」
お春……陶子が言っていた、「春ちゃん」か。
「わかったら、はよ行き。姉妹は仲良うせんとな」
お春の言った通り、陶子は図書室にいた。
「おねえちゃん、ごめんね。あの写真、本にはさんでいたのに。どの本だったか忘れちゃった」
カオリをみつけると、すぐに駆け寄って来た陶子が告げる。
「でも、みつけた」
手渡された写真を、カオリはとても大切に抱きしめ。
そして、陶子を抱きしめた。
ごめんね。
陶子のこと、ちゃんと考えてなくてごめんね。
その後、力くんのお別れ会が開かれて、「思い出を詰めたタイムカプセル」を埋める事になった。
力くんが欲しがっていたその写真を、カオリはカプセルの中に入れた。矢木先生が鍵をかけ、その鍵が力くんに渡される。
「いつか、帰って来た時に開けて下さい」
「必ず、帰って来てね」
約束。指切り。
そんな少女時代。
力くんは、それから帰って来ていない。仕方ない。北海道は遠すぎる。
でも、カオリは知っている。彼が東京の大学に在籍しており、そこでカオリと再会した。
よりによって、合コンの席で。
それから、なんとなく連絡を取るようになった。
お金がないから島にはまだ帰ってないと、いつか帰りたいとメールが来た。
今ではそんなメールだけのやりとり。
陶子は後に担当医になった医者と恋仲になり、高校を卒業するとすぐに結婚した。現在では島どころか日本を離れた異国で暮らしている。あの甘ったれの末っ子が、そんな場所で耐えられるのだろうかと最初こそ心配したが、陶子はカオリが思う程には子供ではなかったようだ。
子供が生まれたから、一度会いに来て欲しいと手紙があったので、「旅費なら出すから、あんたこそ一度ぐらい帰っていらっしゃい」と返事をしておいた。
創平は東京で仕事を見つけた。義一は大学院に進み、研究を続けている。
みんな、島には帰って来ない。そう、力くんも。
「樅の木が、やけに騒いでいますね」
校長の言葉に、カオリははっと我に返る。
「今日は、そろそろ帰った方がよさそうです」
「じゃあ校長先生。お先に失礼します」
帰宅したカオリを迎えたのは、一枚のハガキ。
クリスマスカードだ。
『メール以外では、久し振りですね。そろそろ、タイムカプセルを掘る時かな? 今年のクリスマスには、島に帰ってみるつもりです』
かっちりとした文字。力の字だ。
なんだか、どきどきとした。
約束、ゆびきり。幼い頃の記憶が蘇る。今年のクリスマスは、素敵な事がありそうだ。
そういえば、お母さんがあの話を教えてくれたのも、あの頃だった。
カオリの名前。それを巡って、両親が大げんかをしたらしい。母は「香穂里」という文字を当てたかった。だが、「越智香穂里など、五文字の名前に五文字の漢字はくどすぎる」と父親が言い、「香」にしようと言い出した。するとまた、「それでは味気ない」と母親が反発して……。
初めての子だから、どちらも譲らなくて。結局「喧嘩をするなら、儂が決める」と、祖父が強引に決めたのだと。
いろんなことがあったけど、やっぱり自分は家族が好きだと、カオリは思った。
陶子はどうしているのかな。力くんは、何日に帰って来るのかな。
なかなか寝付かれずに、時計を見る。時間は、午前二時を回っていた。
風の強い夜だった。
十二月十日未明。激震が、加美手島を揺るがした。