エピローグ
それから、二年。島に少しずつ人影が戻って来た。
蘭子は約束通り看護士として。島の診療所には馴染みのお爺さん医師しかおらず、しばらく文句を言っていた。
小学校は少し手入れをされ、いつでも生徒を受け入れられる状態になっている。
校門のソメイヨシノは、もうそろそろ咲く頃だろうか。校庭からは、見えないが。
奇跡は二度と起こらない。そのことを、樅の木は知っている。
「お春」という名の座敷童――元々は桜の木霊は、自分の生命力を樅の木に与えて消滅した。
人間に力を分けてもらえなければ生きていられないと言っていた。だから、座敷童は人を呼び寄せたのだろうか。
樅の木に、力を与えるために。
何となく、それだけではないような気がした。
小学校の同窓生たちが、校庭に一本の木を植えた。
十二月と四月に花をつける、二期咲きの桜の樹を。
それがでも、「お春」と名乗っていたあの少女の姿をしたものが戻って来るわけではない事は、誰だって知っている。
それでも、そうせずに居られないのが、この島に生きた人々なのだろうと、樅の木は思った。
これから先も、樅の木はここで人の有り様を見ていけるのだろう。
そう。この地に冬が訪れ、また春が来るかぎり。
〈了〉
クリスマスに向けて書いておりましたこの作品。
私の一年の総決算のつもりでおりました。
何とか年度内に終わって安堵しております。
この物語は、ある人たちへのギフトとして描きました。
解る人には解る。
そういうギフトなので、あえて誰に捧げたかは書かないでおくことにします。(って、活動報告とか見たらバレバレですが)
メインキャラ、サブキャラ、エキストラキャラ、全てに愛を込めました。
だから、みんないい人で。面白みが少ない物語かもしれません。でも、愛だけは籠もっております。(苦笑)
こんな物語を読んでいただき、本当にありがとうございました。