プロローグ
この小説は、誰かさんに捧げられたギフト小説です。
キャラの名前を見て、「もしかして、自分?」と思ってくださったあなたへ、捧げます。
また、この季節がやってきた。
雪など降ることのないこの島にも、十二月という月は必ず訪れる。そして「彼」は、そんな「十二月」という季節が好きだった。
「彼」と呼ぶのも変な話だ。「それ」は樹齢百年ほどの、樅の木。とうの昔に廃校となった小学校の校庭に根を張っている。それは、学校が作られた時からずっとそこで、子供達の成長を見守って来た。
春には真新しい運動靴を履いた子供達が廊下を走り、桜の木の下でスケッチをしている姿を。夏には日差しを避けて樅の木の根本で昼寝をするする姿を。秋には運動会の練習にはげんでいたり、冬には枯れ葉を集めて芋を焼いたり。一年を通して樅の木は子供達の成長を見守っていた。
そんな中でも、やはり「十二月」は特別だった。
なぜなら、その月には樅の木は綺麗に飾りたてられ、島中の人々がそれを見に来るからだ。皆が樅の木の前で歌い、祈りを捧げる。「来年も良い年でありますように」と。
樅の木は、そんな島の人たちが大好きだった。
今はいない。
誰も、いない。そう、事あるごとに樅の木の周りをちょろちょろしていた、あの小さな変なのも。
『先生、さようなら』
『はい。また、明日ね』
当たり前に繰り返される声が、今も樅の木の記憶には残っている。その「明日」が来なくなった日の事も、覚えている。でも、それがいつだったのかは解らない。長いゆったりとした時間を生きる樅の木にとっては、十年前なのか二十年前なのかも解らなくなっていた。
人が絶えて久しい校庭で、樅の木は回想する。樅の木の年輪に刻みつけられた、思い出。その思い出の中に居る人々が、子供達が、樅の木は大好きだった。