セクハラ行進曲 ④
「まったくひどい目に遭った」
「……女子高生はもっとお淑やかに願いたい」
「顔は地味なくせにやることは胸とパンツ並みに派手だ」
怪しげなワードを含むものをブツブツと口にしながら、右手、いや右前足で尻を撫でながら二足歩行で去っていく黒猫を眺めながら、玲子はこの店はすべての点で店の外とは違う異空間であることを理解した。
「修代ちゃん。私、初めて聞いた。これだけのセクハラ発言」
「だから、言ったでしょう。あの黒猫もマスターもセクハラという概念がなかった昭和の遺物だと」
自身のぼやきに応じて口にした修代の言葉を聞き、玲子は今日の出来事を巻き戻す。
そして、自分が軽く聞き流した修代のある言葉を思い出す。
思考もモラルも昭和のおじさん。
「あれはこういうことだったのね」
「そういうこと。困るよね。学習能力がなくて」
「うん」
猫はともかくマスターのほうはそのイケメンぶりとは盛大なギャップがあるセクハラ発言に違和感と失望に崩れ落ちる玲子だったが、納得しがたいものを納得してから口を開く。
「とりあえず、それは脇に置くとして……」
「結局どうなるの?私の制服」
「まあ、学校の制服がダメで、今日は私の着ることになるのでしょうね。もちろん玲子ちゃんが全裸でやる気があるのなら別だけど」
修代はそう言って玲子の顔を見る。
もちろんこんなところで裸を披露する気はない玲子は首を横に振る。
「その……裸になるというのはスペシャルな時だけでしょう」
もちろんこれは諸々のことを配慮した玲子なりの気配り発言である。
だが、その表現は必要以上に隠すつもりであったものを強調する結果となる。
「スペシャル!スペシャルねえ」
復唱し大笑いする修代と、それを聞いて顔を真っ赤にする玲子。
言葉の一部、そのセレクトが盛大に間違ったことを証明する一瞬だった。
大笑いしたところで、咳払いで仕切り直しをしたところで、修代が言葉を続ける。
「さて、どういう時がスペシャルなのかは非常に興味深いけど、まあ、普通はそうだようね」
「だけど、そうなると多分相当ぶかぶかだよね」
「胸の辺りが……」
そう言って修代はまた笑う。
当然言われた方の表情はその逆である。
「修代ちゃん。それセクハラ」
「いやいや、これは事実だからセクハラではない。まあ、敢えて言うのなら……」
「パイハラかな」
「パイハラ?」
玲子は大急ぎで頭の中の辞書でその言葉を探すものの、見つからない。
「無知」と修代に揶揄われるのは避けたいところなのだが、如何せん仕方がない。
渋々口を開く。
「……そういう言葉は聞いたことがないけど……」
上目遣いの表情からやってきた玲子の言葉に修代はクスリと笑う。
「パイというのは……ここ」
そう言って、修代は自分の胸を両手で押さえる。
それから、黒味を加えた笑みを浮かべながら玲子の胸を見る。
当然釣られて自分の膨らみというものがない寂しい胸を眺め、もう一度修代の、比較対象にしたくないような大きな胸を見る。
「やっぱりセクハラだよ。それは」
「いいの。女同士は」
「女同士でもよくない。セクハラは。それで傷つく人もいるのだから」
「パイハラでしょう。そこは」
「修代ちゃんの馬鹿」
修代のあたらしい一面をまた発見した喜びを感じながらも玲子はそう言った。
劣等感に打ちのめされながら。
そして……。
だが、同じ高校生なのに、これだけ違うというのはどうもおかしい。
そう。
修代ちゃんのあれは本当に中身が詰まっているのか怪しいものだ。
嵩増し。
場合によってはハリボテの可能性だってある。
これは是非確かめねばならない。
十分にセクハラ要素が詰まった心の声を玲子は口にした。
目の前に聳えるその巨大な膨らみを睨みつけながら。