セクハラ行進曲 ②
「はあ~」
それ以降も修代のマシンガンのごとき言葉で一方的に押しまくられたその男は大きくため息をつく。
観念したかのように。
そして、諦めの表情で口を開く。
「わかりました。彼女をアルバイトに採用します」
「ですが、今日から働くにはひとつ問題があります」
当然ですね。
玲子は心の中で呟く。
そう。
彼女は思い当たるものがあった。
履歴書。
それから、学校からのアルバイト許可書。
まあ、後者なら持参しているからすぐに提示できるが、前者となった場合は、履歴書を購入し、写真も撮って来なければならない。
そうなると、今日から働くことは難しい。
ここに来る前に百均ショップで履歴書を買って、その辺で写真を撮ってくればそれもクリアできたのに。
何事も抜かりない修代ちゃんらしくもない。
玲子は隣に立つ同級生に心の中で少しだけ文句を言う。
だが、マスターの言う問題とはそれとはまったく別のものだった。
「聞きましょう」
腰に手をあて、そんな些事を持ちだすのはけしからんと口を尖らせた修代からやってきた言葉に応じてマスターが示した問題。
それは……。
「制服です」
一瞬後。
「なるほど。たしかにそうですね」
ここまで相手の意見に一ミリグラムも妥協する様子がなかった修代がなぜかそこでは大きく頷き、同意した。
「さすがに今すぐは無理ですね」
「そうでしょう」
これは後に判明することなのだが、修代のコスプレ風ウエイトレスの制服であるが、実は高級素材を使った完全オーダーメイド。
それが夏冬あわせて六セット。
それこそ通販ショップで売られているコスプレ商品とは桁ひとつ、いや二桁違う。
一瞬後、修代が口を開く。
「では、正規なものを手に入るまで学校の制服でいいでしょう」
「いや」
「さすがにそれは伝統と格式を重んじるこの店の沽券にかかわる」
「でも、玲子ちゃんが今日から働くという部分は絶対に譲らない」
「それはこちらも同じ」
「困りましたね」
「馬鹿々々しい」
「その程度のことに何を悩むのだ。愚か者どもが」
ふたりの会話に割り込むように入ってきた声。
その声の主。
それは例の黒猫だった。
「そこまで言うのだからよいアイデアがあるのでしょうね」
「むろんだ」
疑わしそうな目で疑わしそうに問うた修代の言葉に自信満々に答える黒い猫。
そして……。
「聞きましょう」
「言うまでもない」
「全裸だ」






