セクハラ行進曲 ①
「そういうことで今日から玲子ちゃんがここで働くことになったから」
「はあ」
放課後。
その喫茶店にやってきたふたりの女子高校生のうちのひとりは唐突に、そして高らかにそう宣言すると、その相手は驚きのあまり間の抜けた声を上げる。
もちろんそれに続くのは事実に基づいた猛烈な皮肉である。
「そういうことも何も、そもそも初めて聞く話ですね。それは」
まあ、これは当然といえば当然だろう。
当事者である玲子でさえ前日どころか半日前でさえそうなることを知らなかったのだから。
だが、相手は海千山千の猛者教師を日々手玉に取っている女子高校生である。
その程度の言葉ではびくともするはずがない。
何をつまらないことを言っている。
困ったものだ。
そのような表情をオーバーアクションとともに披露する。
そして、直後こう切り返す。
「まあ、そうでしょうね。私も初めて話したのですから」
さすがに想定の範囲外からやってきたその言葉に一瞬だけたじろぐものの、男はすぐさま体制を立て直し、更なる言葉を加えて反撃に移る。
「修代さん。ちなみにこの店のオーナーが誰かわかりますか?」
「誰ですか?」
「もちろん私です」
「そして、人を雇うかどうかを決めるのもマスター兼オーナーであるこの私です」
そうだ。
マスターである男の言葉を聞いて玲子は自分の思考に完全に抜け落ちていた部分があったことに気づく。
多くのハードルがあった自分のアルバイトであるが、その最も重要なものこそ、その店が自分を雇う意志があるかどうかだ。
それがなければ、学校の許可を取ってもまったくの無用の長物になる。
しかも、この言葉から感じるのは間違いなくマスターの答えは「ノー」だ。
もしかして修代はマスターに事前相談なしにあの話を持ち出した?
終わりだ。
そして、返してくれ。
私の覚悟と勇気。
すべてを悟り玲子は失望と困惑の顔をつくるものの、それに対する修代はといえば……。
それがどうした。
まさにこの言葉がぴったりの表情を浮かべる。
そして……。
「ああ、そうですか」
「それこそ初耳。ですが、ちょうどいいです」
「では、彼女を雇うと決めてください。今すぐに」
厚顔無恥。
面の皮の千枚張り。
傍若無人。
その他諸々類似の言葉をすべて集めても足りない表情とそれにふさわしいすばらしきお言葉である。
修代のこの言葉を聞いた玲子はこう思った。
やはり、修代ちゃんは無敵だと。