侯爵家の愛されない娘でしたが、前世の記憶を思い出したらお父様がバリ好みのイケメン過ぎて毎日が楽しくなりました
連載版も始めましたのでよろしくお願いします!
「…お嬢様!お目覚めですか!?よかった!」
乳母はそう言って私を抱きしめる。
「五日間も高熱に魘されていらしたのですよ…!」
ああ、だから。
長い長い夢という形で、前世の記憶を思い出したのか。
「マリー、水」
「はい、お嬢様」
乳母のマリーは水を飲ませてくれる。
とりあえず、落ち着いたら現状整理と行こうか。
まずは前世から整理しよう。
「私の前世は、日本の大学生。二十歳になったばかりで、残念ながら通りすがりのヤベェ奴に突然お腹を刺されて以降記憶がない。つまりはそういうことだろう」
そして、今世の記憶もバッチリある。
「今世の私は、日本からすると異世界にあたる場所の大国に住んでる。しかも侯爵家の跡取り。とはいえ子供らしからぬ悩みがあった」
私は今世の「お父様」の実の娘ではなく、平民と愛し合い駆け落ちしたらしいお父様の弟の子。
実の両親が亡くなり行くあてもなかったところ、母親親族に押し付けられた…というか売られたらしく赤子の時に養子になる。
お父様は結婚する気がないので跡取りにちょうどいいと引き取られたらしい。魔術で血縁は確認された。母親親族には手切れ金として大金が払われた。
養育は全部乳母、父親になってくれた人はネグレクト気味で愛情は一切感じず。しかも幼いうちから上記の事情を馬鹿正直に教えられる。おかげで悩んで熱で寝込んだ。それがあったから前世の記憶を取り戻せたのだけど。
でも引き取ってくれたお父様、思い返せばネグレクト野郎だけどまじイケメン。前世の記憶を取り戻した私にとって超好み。控えめにいって好き。よって推し決定。
「…まあでも、これからは悩まなくても良さそう」
前世のことはもうどうしようもない。
今世のことは、前世の記憶に性格が引っ張られた結果か「あー、そんなもんか」と思えるようになった。
侯爵家の跡取りだから将来は約束されてるし、勉強は今世の知識と日本の知識の合わせ技でチートもあるからまだ頑張れるだろう。
ならば。
「推し活、頑張りましょ!」
開き直った私はしつこいぞ、お父様。
「…なに?あの子が突然頭角を現した?」
「はい。特に数学と科学において素晴らしい知見をお持ちだと家庭教師が褒めておりました」
「ふむ。熱に浮かされて根源にでも接続したか?」
なんてな、と笑う。そんな稀有な話、我が子に起きるはずもない。陰ながら努力でもしていたか?
「いえ、あり得るかと」
「は?」
「科学界を震撼させるほどの大発見もなされたとのことで、家庭教師がお嬢様に教えを請い論文を発表したとか。その論文は大絶賛だそうですよ」
「…そうか」
「いかがしますか?」
根源への接続。稀に魂の在り処に触れて、過去の様々な人生を思い出す奇跡をそう呼ぶ。
…まさか、その奇跡が我が子に起きようとは。
「娘の知識を最大限に活かせ。方法は任せる」
「はい、旦那様」
あの子に侯爵家を継がせる選択は間違いではなかったと、少し安心した。
そして、根源に接続してしまったならきっと例に漏れず性格も変わっただろうあの子に少し不安になった。
知識チートはやはり役に立つ。今世で教え込まれた礼儀作法はもはや身体に染み付いてて生きていく上で安心だし、前世で身に付いた色んな知識は執事さんの元で実現可能なものから実用化されたりしてる。
魔法と科学の両立したこの世界。特に科学に重きを置いているこの国では、私の知識は実に有益な情報だった。
ということで、勉強は受けなくても充分知識があると判断されて自由時間が増えました。執事さんに色んな情報を話す時間も設けられたけど。
な
の
で
「お父様ー!!!」
「また来たのか。俺は忙しいと言っているだろう」
「でも、私の知識は欲しいでしょ?」
「…」
「構って!」
知識を認められて家の役に立つようになってから、これなら許されるだろうと免罪符を手に入れてお父様に毎日突撃している。
そしてとうとうお父様が折れた。
「…わかった!毎日一時間だけ、ティータイムの時間を設ける。その時は構ってやるから仕事の邪魔はするな」
「わーい!じゃあ待ってるよ!絶対声かけてね!」
「…じゃじゃ馬め」
うんうん。親子の時間は大事だよね☆
それから本当にお父様は親子の時間を作ってくれた。約束は守る人だ。
お父様のガチで好みな顔を眺めながら、好き好きオーラ全開で話しかける。
お父様はただ聞いてるだけだけど、それだけで充分楽しい。
「それでねお父様!マリーが庭に来てた猫ちゃんを撫でてて、私も触らせてもらったの!」
「ふん…」
「毎日遊びに来る子でね、可愛いんだ!」
「餌は?」
「あげてないよ。え、あげてもいいの?」
逆に聞き返せば、好きにしろと言われる。
「屋敷に入れるのは?」
「お前の部屋限定なら構わない」
「お父様大好きー!!!」
思わず椅子から飛び降りてお父様のところへ走り、お父様によじ登って抱きついてほっぺにキスした。
お父様は無抵抗というか突然の私の奇行に呆然としてた。
その後、味を占めた私はお父様のほっぺに度々キスをした。
結果、お父様は諦めて受け入れてくれるようになった。
なんか気付いたら、親子の距離は近くなっていた。
「本当はあの人の子じゃない癖に!」
暴言を吐かれて、ああこういうの久々だなぁと思う。手は出してこない辺り賢い人だ。
辺境伯家のご令嬢で、お父様の妻になりたいらしいこの人。
幼い私が邪魔だと、その後も当たり散らす。
まあ、ぶっちゃけ気持ちはわかります。
が。
「俺の娘になにをしている」
「…あ、こ、侯爵様」
いつのまにか現れて、この人の暴言を全部聞いていたお父様。
かっこいいお顔をさらにかっこよくして女の人を睨んでる。その顔素敵。
「相当殺して欲しいらしい」
「いえ、そんなっ…」
「死にたくないなら消えろ。俺の娘を傷つけることは許さない」
おお、言うようになって。
前は顔を合わせる日の方が少ないくらい関心がなかったというのに。
お父様が構ってくれるようになる前は、他の女の人とかもっと酷かったんだよと教えた方がいいんだろうか。
それでも、なんだかお父様の成長と繋いできた絆を感じて嬉しくなる。
「…っ」
そうしている間に女の人は顔を青くして逃げた。
お父様は私を抱き上げて、危害を加えられていないか全身見回す。
「大丈夫、なにもされてないよ」
「なぜ言い返さない」
「?」
なんのこと?
「お前は誰がなんと言おうが俺の子だろう」
「…パパ!」
思わず嬉しくてパパ呼びして抱きつく。
その日から公の場以外ではパパ呼びするようになったが許されている。
そしてパパは、私に対して少し過保護になった。
「それでねパパ。お部屋にお迎えした猫ちゃんがね、夜になると大運動会してるの!可愛いでしょ」
「可愛いのは良いがそれで寝れるのか」
「全然平気!」
「それならいいが」
「それで、執事さんがそろそろ私に婚約者とか言ってたけど」
私の言葉に、お父様は眉を寄せる。その顔好き。
「俺はそんなこと許していない」
「でも早めが良いんじゃないの?」
「お前には早すぎる。まだ先でいい」
あらまあすっかり過保護になっちゃって。
あんまりにも溺愛されるようになってちょっとニマニマしてしまう。
「…なんだ」
「ん?今日もパパが大好きだなぁって」
「ふん…」
口の端がピクピクしてる。嬉しくてにやけないように必死なの丸わかりだ。
「ともかく、執事には俺から言っておくからそんなことは心配しなくていい」
「はーい」
顔のいいパパを毎日眺めて、溺愛されて、今日も私は幸せです!
【長編版】病弱で幼い第三王子殿下のお世話係になったら、毎日がすごく楽しくなったお話
という連載を投稿させていただいています。よかったらぜひ読んでいただけると嬉しいです。