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生まれ変わる

作者: mimi

12月から始めた断捨離、1日1個を目標に掲げてみると、案外進むものだ。

割とモノを捨てられる性質で、引っ越しをする度に、本や服を処分してきた。

それでも、捨てたいのに捨てられずにいたモノがいくつかあって、今回はそれを手放すことが一番の仕事だった。


ひとつは、母が古い着物をリフォームしたワンピース。

絵羽の黒羽織の羽裏に使われていた朱色の絞りを使って、サンドレス風にしたものだ。

着物のリフォームにハマっていた母が、娘に何か作ってあげたくていたところに、軽い気持ちで目に入った布を手に取って、ワンピースにしたら可愛いんじゃない?と呟いてしまった。


その時は、絹地を手縫いで型紙もなしに縫うのがどれほど大変かなんて知らなかった。


何度も補正をして出来上がったそれは、アシメントリーのフレアスカートとキャミソールを合体させたような形で、実際に着てみるとどことなく野暮ったく見えた。


私は、それを夫の家族の食事会に着ていった。場所はホテルの中にあるフレンチレストラン。クラシカルな内装には、その服もそれほど違和感がなかった。

けれど、普段に着ようと思うとどうしても手が伸びない。それきり、外に着て出ることはなかった。


2度と袖を通さないだろうと思っているのに捨てることもできず、クローゼットを開ける度、朱色の絞りが目について、胸がちくりと痛んだ。


それはまるで結婚した後も私を離さず、そばに置いておきたいと願う母の情念のようにも思えた。私の体に絡みつくような蔦。切っても切っても伸びてくるそれを根こそぎ捨て去りたい衝動と、母の愛情に背く罪悪感。その葛藤を抱え続ける重荷を捨てたのが12月の終わりだった。


1月はあっという間に過ぎた。心を重くする物をどんどん手放していった。


そして今日。ふと思い立って、リフォームした時からずっとあった、玄関の床のシミをマニキュアの除光液で拭いてみる。


シミがみるみる落ちていく爽快感。


10年間も放置していた汚れが綺麗さっぱり。


「なんだ、やればできるじゃん!」


オセロ盤の黒い駒が一気に白に変わるように、私の自己肯定感がひっくり返った瞬間だった。

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