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12. 愛の説教(3)

「さすがはアイリス様だわ」


 アイリスの乗る馬車を見送りながら、ヴィーナスはポツリとつぶやいた。


 愛の守護天使長の事を、世間では『裏切り者』と罵ることも少なくない。彼は唯一、先天守護天使でありながら主との縁を切った天使だから、当然と言えば当然の言われようではある。

 でも、内実は違う。ヴィーナスにとってあの天使は、孝行者で今でも最愛の天使だ。

 それをアイリスはあの話だけで「自慢なのね」と言って見破っていた。


「ヴィーナス様、何かいい事あったんですか?」


 ひょこっと横から副・守護天使長が顔を覗き込んできた。


「ちょっとねぇ。あなたもジュノと楽しめた?」


「うーん、随分とアイリス様の事を心配していたけど、でもその様子だと、もう大丈夫なのでしょう?」


「ええ、多分ね。だってほら、見てあれ」


 ヴィーナスは遠くの空を指さす。そこには目に鮮やかな七色のアーチがかかっていた。

 

「久しぶりに見ましたね、虹」


「ふふっ、アイリス様ってば本当に分かりやすいんだから」



 最上級神の決定は、ヴィーナスも正しいと思う。アイリスが立神してから天界にはより一層、愛が増えたことを肌で感じていた。夢や希望、幸福を感じられ自分自身が満たされていると、不思議と誰かに愛を与えたくなるのだ。


 アイリスの元気が無くなってから、愛が減っている事また、ヴィーナスは感じていた。まさか元気が無い原因が他の神と交わるのが嫌だから、などとは思わなかったが、アイリスらしい理由だ。  

 

 愛が減ると言うのはヴィーナスにとって由々しき事態。新しい神が生まれることよりも、愛で溢れることの方が重要なのだ。


 それに他の神が何て言うかなんて知らないが、ヴィーナスはアイリスのワガママだなんて思わない。それだけセフィロスへの愛が特別な物である、という事なのだから。考えただけで胸がキュンキュンして顔が綻んでしまう。


「これでまた、天界が沢山の愛で溢れるわねぇ」


「やっとヴィーナス様の、愛の枯渇状態から抜け出せますね」


 2人でしばらく虹を眺めてから、仕事へと戻って行った。


***おまけ***


 アイリスが今か今かとリビングをウロウロしていると、イオアンナにくすくすと笑われる。


「アイリス様、セフィロス様がいらっしゃるまであと1時間以上ありますよ」


「そ、そうね。ええと、何をしてお待ちしてようかしら。お茶の準備は流石に早すぎるし、お菓子でも焼こうかしら」


「お菓子なら昨日、焼いたではないですか」


「そうだったわ……あぁもう、落ち着かないわ」


 先日ヴィーナスと話をしてから、すっかりと気分が晴れた。今は心に何の迷いもつかえもなくセフィロスに会えるのが、こんなにも楽しみで仕方がない。


「アイリス様、セフィロス様がいらっしゃいましたよ! 早く仕事が終わったそうで……おっと!」


 ジュノの言葉にアイリスは、セフィロスの元へと駆けていく。


「セフィロス様! ようこそお越し下さいました!」


 気持ちが抑えきれずにガバッと抱きついて顔を見上げると、セフィロスは鳩が豆鉄砲を食らったかのような顔をして固まってしまった。その後ろでエレノアが


「セフィロス様、そういう時は抱き締め返してあげるんですよー」


とアドバイスを送っている。


 昔、女性が彼に抱きついて喜びを表現しているところを見た時には、自分には絶対に出来そうもないと思ったが、実際にやってみると案外すんなり出来るものだ。まぁ出来るようになるまで1000万年かかってしまったけど。


 エレノアのアドバイス通り(?)セフィロスが抱き締め返してくれると、ラベンダーやカモミールがブレンドされたようなハーブの爽やかな香りが鼻をくすぐる。


(あぁ、セフィロス様の匂いだ)


 たまにはこうして抱きついてみるのも悪くない。だって、セフィロスが顔を赤く染めている所なんて滅多に見られないんたんだから。

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