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5.

「ねえ、エレノア。私やっぱりローブでも被って歩いた方がいいかしら?」


「何故です?」


「だってみんな、私が通る度に手を止めて頭を下げてくれるんだもの。なんだか申し訳なくて……」


「何をおっしゃいますか! ここに住んでいないとはいえ、アイリス様は風の神殿のもう一人の主であることには変わりないんですよ。堂々としていればいいんですよ!堂々と!!」


「は、はいっ」


 どうしたらこんなに腰の低い神が出来上がるんだか。特殊な生い立ちと元々の性格が相まってこうなったのだろうけど、それにしたってアイリスは自己評価が異様に低いのだ。下級神の方が余程高飛車で偉そうにしているって言うのに。



 広い庭園をプラプラと歩きながら見て回っていると、アイリスが「あら?」と足を止める。


「ここ、なんだか随分とだだっ広い感じがするけど、なにかあった場所なの?」


 アイリスが足を止めたのは、ただ草花が広がる敷地の前だ。他の場所は木やオブジェなどがあるのに対して、ここは綺麗に雑草の手入れはしてあっても何もない。


「ここは前回神殿があった場所ですよ。そして、次に神殿が建てられる場所でもあります」


「次に?」


「どんなに丁寧に手入れをして使っても、建物は徐々に朽ちていきますからね。なので定期的に神殿を建て替えるんですよ。多分あと200年くらいでしょうかね、ここに新しい神殿を建てて今の神殿から引っ越すんです」


「へえぇ。他の神殿もこうやって交互に立て替えるの?」


「多くはそうですね。近くないと引っ越すのが大変ですし、五門の場所もいちいち変わると厄介ですから」


「多くは、という事はそうじゃない事もあるの?」


「例えばネプチューン様の海の神殿は、毎回違う島に建て替えてますね。五門の場所もその度に変わるので、移動したての時はうっかり前の場所と勘違いしないように注意が必要なんです」


 ネプチューンの管轄地は海が多く、小さな島が点在している。次にどこの島に神殿を移すかは、ネプチューンがダーツの矢を地図に投げたり、クジ引きをして決めているらしい。大変迷惑な神だ。


「逆に全然建て替えない方もいらっしゃるんですよ。ペトラ様の岩の神殿は山の下にありますから」


「山の下?!」


「ええ、山を中をくり抜いて作られているのでそう簡単に朽ちたりしませんし、作るのも偉い大変ですから。地下と言っても風の神殿の庭園まですっぽりと入ってしまうほど中は広大で、薄暗くてジメジメした洞窟みたいなのじゃなくて、上手く風が通るように工夫されていて居心地がいいんですよ。多分場所を変えたのは私が生きている15億年の間に、片手で数えられるくらいだと思います」


「色々な神殿があるのね」


 アイリスと駄べりながら庭を散策していると薬草畑に出た。露地栽培の他にも温室がいくつかあるのが見える。


「ここが薬草畑ね。本当に凄い数!」


「ここで栽培された薬草は風の病院で使われたり、余った分は町医者や薬屋に卸しているですよ」


「そういう事なら、私も少しは役に立たなくちゃ!」


「ちょ、ちょっとアイリス様?!」


 エレノアの呼びかけも虚しく、アイリスは薬草畑の手入れをしている途中だった少年に声をかけて雑草を抜きはじめた。

その様子を他の天使たちはポカンと見ている。


「さあさあみんな!ぼーっとしていないで早くやりましょう!!」


 アイリスが元気よく周りに声をかけると、我に返った天使たちも作業の続きを始める。新しいドレスが早速泥だらけになってしまうのは、まぁ仕方ないか。


「アイリス様、手袋くらいははめて作業してください」


「あ、そうね。ありがとう」


 これまた天使たちとお喋りしながら雑草をひたすら抜くアイリス。自分だけ突っ立って見ているのもなんなので、エレノアも手伝うことにした。


 

 日が暮れてきて神殿内に入ろうとしたところで、病院から戻ってきたセフィロスに出くわした。


「アイリス、その格好はどうしたんだ?」


 裸足で土汚れが付いたその姿を見て驚くのも無理はない。裸足なのは靴が汚れるからと脱いで作業していたからだ。


「薬草畑のお手入れの手伝いをしてきたところなんです。あの……頂いたドレスを着ていたことをすっかり忘れていて……申し訳ありません」


 しょんぼりと上目遣いにセフィロスを見やるアイリスは、叱られないかビクビクする子犬のようだ。そんなアイリスをセフィロスがヒョイっと横抱きにしてすくい上げる。


「ひゃあっ! あの、えっと……?」


「その足で中を歩き回ると、使用人たちの掃除が大変だ」


「え、あ、そうですね。それではその辺の水をお借りして洗ってきますので下ろしてください」


「このまま部屋に行って湯浴みをした方が良いだろう。エレノア、準備してくれ」


「はい、かしこまりました」


 アイリスが横抱きにされたまま部屋へと運ばれて行くのを、エレノアはつい、ニヤニヤしながら眺めてしまった。

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