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16. ステンドグラス工房(2)

 工房を出て、辻馬車を拾いに街の中心部までのんびりと歩いていく。


「ねえアイリス、さっきのピアス付けてみない?」


 はい、と返事をすると早速フローラがアイリスの耳にピアスを付けてくれる。

 フローラも自分の耳にピアスを付けると、お互いに照れくさくなって笑いあってしまった。


「フローラ様が付けると、まるでお花畑に蝶が舞っているみたいで素敵ですね」


「アイリスも、夢の中の世界で蝶が舞っているように見えるわよ」


 フローラは工房を出る時に再び変身術で姿を変えていたが、元の姿を想像してみるとピッタリのデザインのピアスだ。


 互いにそんな会話を交わしていると、どこからか耳をつんざく様な悲鳴が聞こえてきた。しかも1人では無い。複数だ。


「な、なんでしょうか?」


「来るわ。しかも結構いるわね」


 フローラが険しい顔をして辺りを見回す。


 なにがですか?と聞く前に、ゾクリと全身がが粟立つ。ドクドクと心臓の鼓動が大きく、早くなる。この感覚は



 ――魔物だ。



 フローラに抱きついてしまいたくなるのを必死にこらえ、自分の内に神気を抑え込む。

 たいていの魔物はより多くの力を得るために力の強い者を狙おうとする。なので万が一、魔物に会ってしまった時にはなるべく神気を外に出さないように、とセフィロスに言われている。


 自分が神気を抑えるとフローラが的になってしまうのが気になったが、むしろフローラの方は自分の方へ魔物を引きつけるかのように、放つ神気

を強くしている。


「さあ、隠れてないでサッサとこちらへ来なさい」


 石畳の上をカッカッと爪をかくような音が近づいてくる。


「ヘ……ルハウンド」


 自然と声が震えてしまう。

 まだ生まれたばかりの頃、喉元に噛み付かれ死にかけた記憶と恐怖が蘇る。

 現れたヘルハウンドは、以前対峙した時の個体よりも2回り近く大きい。しかも一頭ではなく、見えるだけで10頭以上。少し離れた所からも悲鳴が次々と上がっているので、姿をまだ見せていないものもいるようだ。

 すでに天使たちを襲った後なのだろう。口元や胸毛が血で濡れている。


「よくも天使たちに手を掛けてくれたわね」


 フローラが怒りを露わにして手を振り上げると、駆け寄ってきたヘルハウンドが次々と、どこからか現れた(つる)に巻き付けられていく。


 フローラの手の動きに反応するかのように蔓はキツく締めあげられ、ヘルハウンドは苦しそうに舌を出しヨダレを垂らしている。



「アイリス! 何をボーッとしているの!? まだ襲われている天使がいるのよ!!」


 

 返事をしたいが口の中がカラカラで声が出ない。足は震えていて、立っているのがやっとだ。



 助けなくては。

 天使たちが殺されてしまう。


 天使が神に仕えるために在るのなら、神は天使を護るのが責務だ。


 

 頭では分かってはいても、戦う術を持たないアイリスにはどうする事も出来ない。


 路地に植えられた木が大きくしなり、近づいてくるヘルハウンドを打ち払う。と同時にその奥で、別のヘルハウンドから逃げ惑う子どもの姿が見えた。


 アイリスにできること。

 それは1つしかない。



 アイリスは震える足にムチを打ち、子供の方へと駆け出す。

 

 ヘルハウンドが子供めがけて飛び掛ってきたその瞬間、アイリスもまた子供に飛びついた。



「アイリス?!!!」



 肩に強い衝撃が走った。

 

 鋭い痛みで悲鳴を上げると、今度は足首にも痛みが走る。


(だめ、絶対にこの子を殺しちゃダメ。殺さないで)


 必死に子供に覆いかぶさり痛みに耐える。


 キャンッと言う短い鳴き声が聞こえると、噛み付いてきたヘルハウンドはいばらの枝に巻き付けられていた。


 子供を抱いたまま顔を上げると、衛兵たちが駆け付けて来てくれた様で、残っている魔物と戦っているのが見える。


「良かった……」


「良かったじゃないわよ! なんで何もしないのよ!?」


 フローラが顔を真っ青にしながらアイリスの傷の様子を調べる。


「アイリス、自分の癒しの力を使うのよ。傷を治すの!」


 ホッとしたら一気に痛みが強くなり、傷口がドクドクと脈を打ち血が流れでていくのが分かる。

 言われた通り力を使い傷を癒したいが、痛みで上手く意識を集中できない。


「そこの赤毛のあなた!医者を早く連れてきて!それから誰かペンと紙をちょうだい、何でもいいわ!!」


 もらった紙にフローラが何かを書き付け、自身の神鳥を呼んで持たせた。

 

「今セフィロス様を呼ぶからね。とにかく血を止めるだけでもいいから、力を使って!」


 医者が来て傷を見てくれるが、触れられる度に猛烈な痛みに襲われ絶叫する。舌を噛まないようにハンカチを咥えさせられた所までは覚えているが、その後の記憶はプツリと途絶えた。

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