14. パーティー@火の神殿(4)
先程からずっと続いているモヤモヤがイライラに変わってきたところで、楽器の音が耳に入ってきた。
「アイリス、気分転換にわたくしと踊りましょう」
フローラはアイリスの手を引き、みんなが舞い踊る中へ連れていく。
まだまだ踊りが未熟なアイリスが踊りやすいようにフローラがリードとフォローをすると、硬かったアイリスの動きが次第にリズムに乗ってくる。
フロアにいるみんなの視線が自分たちに釘付けになるのを感じる。
当然だ。三大美女神と呼ばれる2人が手を取り踊っているんだから。
「フローラ様、すごく楽しいですね」
フローラはアイリスに微笑み返したところで気がつく。
さっきのモヤモヤやイライラは多分、嫉妬と言うやつだ。――セフィロスに対しての。
ひとしきり踊り終えると、セフィロスが再び声を掛けてきた。
「フローラ、それ以上やると其方達の神気に皆が酔ってしまう」
「酔ったところで何だというのです?」
セフィロスが珍しく困ったような、何とも言えない表情を見せる。
フローラの神気は酔いやすいと言う。それは花の蜜に虫が吸い寄せられるように、花の香りに魅了されるように。
アイリスの神気にも似たような性質をフローラは感じていた。夢の中にいるような、ふわふわとした幸福感。それを何故だかアイリスは、いつも自分の内に押さえ込もうとしていた。ダダ漏れだったけど。
酔いたければ酔えばいい。たとえフローラやアイリスの神気に当てれ襲ってきたところで、痛い目をみるのはあちらの方と言うものだ。
肉体の強さだけで言えば男に叶うはずも無いが、神の強さは性別とは関係ない。美しく華奢な身体付きをしていようが、強さとは神気の強さだ。
上・上級神の自分たちに手を出せる者なんてそうそういない。指一本触れることだって叶わないのだから。
「アイリス、ちょっと疲れたし今度は庭でも散歩しましょう」
何か言いたそうなセフィロスを置いて、アイリスを外へと引っ張っていく。
手頃なベンチを見つけて2人で座ると、フローラは相変わらずの庭だな、とため息をつく。
「ここの庭は殺風景ね」
火の神殿の庭にはほとんど花は植えられておらず、申し訳程度にオオゴチョウの木が広い庭にポツンと立っている。初夏の花の神殿なら、競い合うように花が咲き乱れるというのに。
オオゴチョウの花は橙赤色の艶やかな色合いに蝶に似た花姿が美しく、その花言葉は
「自分らしく生きるのが一番」
「輝く個性」
にしたはずだ。正にこの城の主にピッタリの花言葉だが、当の本人は花言葉を知るなどと言う趣味は持ち合わせていないだろう。おそらく、庭師がシャレだかブラックジョークだかで植えたのかもしれない。
「でもさっきの広間にあったバラ窓は美しかったですね。昼間に見たらきっと、もっと綺麗なんでしょうね」
「ああ、あのステンドグラスね。あのバラ窓を作った工房のステンドグラスなら、わたくしの神殿の窓にもあるわ。見せてあげれば良かったわね」
そうだ、とフローラが手を叩く。
「今度そのステンドグラス工房を見に行く?」
「良いのですか?」
「もちろんいいって言うに決まってるわ。時々わたくしの城に手入れをしに来てもらっているの。決まりね!」
フローラは満足気に微笑むと、アイリスとの会話をしばらく楽しんだ。




