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12. パーティー@火の神殿(2)

「アイリス、あなたも来ていたのね。セフィロス様、ごきげんよう。ご無沙汰しておりました」


「先日は色々な所へ案内して頂き、ありがとうございました」


 アイリスとセフィロスに挨拶を交わしていると、主催者のロキがパーティーの始まりの挨拶を始めた。と思ったら終わった。



「じゃあみんな、今日は好きなだけ飲んで食って踊って楽しんでくれ! 以上!!」


 

 究極に短い挨拶を終えたロキがこちらにやって来くる。


「よう、フローラ。地上から帰ってきたんだってな」


「ロキ様、本日はお招き頂きありがとうございます。半年ほど前に戻って参りました」

 

「お前、アイリスとはもうダチになったのかよ。さすがだなぁ」



 ……ダチ? 友だち?? わたくしとアイリスが?


 皆からはよく、顔が広くて社交的だと言われる。実際、パーティーやお茶会などにはよく呼ばれるし、天使の知り合いも多い。

 でも、損得感情抜きで本音を言い合えるような『友だち』と呼べる仲だと思っているのは、ほんのひと握りだ。


 アイリスとはまだ数回しか会ったことがないし、友だちどころか、謎の生命体でも見ているような気分になるって言うのに。


「そうだ! フローラ、お前今日はアイリスをみんなに紹介しろよ。こいつが一緒だとみんな怖くて近寄れねーんだよ」


 ロキが親指でクイッとセフィロスを指しながら、妙な提案をしてきた。

 でも確かに、フローラも思っていた。みんながアイリスの方をチラチラと見て話したそうにしているのに、声を掛けてこないのを。アイリスには話しかけたいけど、横にいるセフィロスが怖くて躊躇っているようだ。


「そう言う事ならフローラに任せるとしよう。アイリス、何かあればすぐに私に言うように」


「はい。フローラ様、よろしくお願いします」


 いつの間にか話はまとまってしまった。仕方なくアイリスを連れて、数人で話している輪の中へ話しかけてみる。


「デメテル、久しぶりね。こちらは虹の神のアイリスよ。初めて会うんじゃないかしら?」


「フローラ様、ごきげんよう。アイリス様とは初めてお会いしますわ。豊穣の神・デメテルと申します。お目にかかる事が出来て光栄ですわ。それにしてもさすがはフローラ様。もうアイリス様と仲良くしてらっしゃるのですね」


「え……、ええ、そうね。アイリスとわたくしは同じ階級ですもの」



 こんな調子で神や天使に次々と、アイリスを紹介してやる。


(これじゃあ完全に子供のお守りじゃない。まったく)


 でも不思議と嫌な気分にならないのが、このアイリスという生き物だ。


 2時間近くあちこちにアイリスを連れて紹介していたら、セフィロスが声を掛けてきた。


「アイリス、そろそろ疲れてきたのでは?あちらの席で少し休もう」


「はい……ヒールのある靴は慣れなくて」


 そう言えばアイリスは、いつも高さのない靴を履いていた。歩き疲れたのか、足がカクカクしているようだった。


 (それにしても……)


 セフィロスはこういう気遣いをする神だっただろうか。そんな事を思ってセフィロスの顔を見ると、不覚にも一瞬、ドキッとしてしまった。



 ――笑ってる。



 20億年近くの付き合いがあるけれど、こんな風にこの神が笑うところを初めて見た。


(今ので何人か悩殺されたな。)


 もともとセフィロスは三大美神の中でも、取り分け綺麗な顔立ちをしている。それなのに人気がないのは一重に、彼の醸し出す冷たく硬い雰囲気のせいだ。

 それがこんな風に笑顔でいるところを見たら、女のみならず男でもイチコロにされてしまう。    

 実際目の端に、衝撃を受けたような顔をした者が何人か見えた。



 なんだろう、このモヤモヤ感は。



 アイリスはセフィロスにエスコートしてもらいながら、会場の壁際に配置されている席に着いた。

 フローラも後に続いて2人の向かい側に座ると、葡萄酒の瓶をテーブルに次々と置く者がいる。誰だこの無作法なやつは! と見ると、そこに居たのは髭面のおやじ、ではなく神だった。


「いやぁ、美男美女がそろい踏みで。目の保養になりますなぁ」


 クシャッと笑いながら言うこの男は、酒の神・バッカスだ。美形が多い神には珍しく、モサモサとした茶色の髪と髭、ずっしりとした体つきをしていて、完全に酒場のオヤジにしか見えない。


「申し遅れました。ワシは酒の神のバッカスと言うもんです。アイリス様の事は色々と聞いておりましたが、ふむ、ウワサに違わぬ美しさをお持ちで」


「バッカス様、初めまして。今日のお酒は全て、バッカス様がご用意されたと伺いました。どれも美味しくて、つい飲みすぎてしまいそうですね」


「はっはっはっ! そうでしょう!! 今宵の宴のために、よりすぐりの酒を持ってきましたからな。中でもこの葡萄酒はワシが丹精込めて作った代物でしてな」


 バッカスがみんなのグラスに次々と葡萄酒を注いでいく。


「酒は酔ってなんぼの物。まさかワシの用意した酒を飲んで、酔わないようにする。なんて『無作法な事』はしませんよなぁ?」


 パーティー前にイオエルがしてきた忠告とは真逆の事を言いながら、バッカスがセフィロスにニコリと笑ってみせる。


「そうだぞ、セフィロス。今日はセトの奴は居ないんだから気にすんな! 例え酔っ払ったって、お前なら癒しの力で一発だろ」


 いつの間にかやって来たロキがセフィロスの肩に腕を回して、更になみなみと葡萄酒を注いでいく。それを少しだけ嫌そうな顔をしながら、セフィロスはグラグを空にしていく。


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