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6. 花の都(2)

 予定通り、人気の雑貨屋や老舗のアクセサリーショップなどを巡っていく。どこも人気のある店なのでそれなりに客で混んでいるが、何も言わなくてもフローラに気が付くとすぐにみんな譲ってくれるし、店主も優先して対応してくれる。


 天使からはその人が天使なのか神なのかは見分けがつかない。だからこういう時、目立つ色を持っていると一目見て誰なのか分からせることが出来るので便利だ。守護天使も主と同様の色をしているが、放つオーラで神だと分かってもらえる。



 アイリスは店の中に入っても、相変わらずフードを被ったままで品物を見ている。表情はそんなに見えないが、それでもすごく楽しそうなのは伝わってくる。


「気に入ったのなら買ったら? その色、あなたにとてもよく似合いそうよ」


 生花を使ったアクセサリーを手に取っているアイリスに声をかけてみる。


「そうですか? ......でも、やめておきます。以前リアナ様に頂いた物があるので」


 アイリスはずっとこの調子だ。フレイから貰っただの、セフィロスから貰ったのがあるだのと言って買わないのだ。

 アクセサリーや羽根ペン、置物なんていくらあったって困るものでもない。そんなに目を輝かせて見ているくらいなら買ってしまえばいいのに。よく分からない。


 結局この店では何も買わないまま出た。何店舗も回ったと言うのに、買ったのは精油をいくつかだけだった。そろそろ暗くなってきたので食事をする店へ向かう途中、気になっていたことを聞いてみる。


「ねえ、そのローブの下に着ているドレス、もしかして以前お茶をした時に着てきた物かしら?」


 ローブの隙間から見えている水色のドレスに見覚えがあった。


「はい、そうです」


「そのドレスってスカートの裾がもっと長くなかったかしら?」


 フローラの記憶が正しければ、裾を引き摺るタイプのものだったはずだ。それが今は、足首が見えるくらいの長さになっている。


「裾が擦れてボロボロになってきてしまったので、詰めたんです」


「え? 詰めた??」


「ええ、切って縫えばまだ着られるので。セフィロス様に頂いて、お気に入りなんです」


 ......切って詰めるって、庶民じゃあるまいし信じられない。

 布というのは高価なので庶民は普通、古着を買ったり、多少傷ができても直して着る。使われる布の品質もそうだが、量も少なくするために丈が必然的に短くなる。

 高品質の布を贅沢に使った服を着るというのはつまり、富と権力の象徴でもある。

 アイリスの着ている服の布地は当然、かなり上等な物だと分かる。それを直して着続けるなんて、ますます理解し難い。


 理解し難いけれど、何となくわかった。アイリスは多分、物に愛着を持ち過ぎて捨てられないタイプだ。


「それじゃあフードを被っているのは何でなの? 正体がバレたくないなら、変身すればいいじゃない」


 アイリスもフローラと同様、ひと目見れば誰なのかが分かってしまう色を持っている。先程のように便利なこともあるが、ジロジロと見られて鬱陶しかったり、お忍びで出掛けたい時には姿かたちを変えて出歩けばいい。

 自分より上級か、同程度の神気を持っている神なら変身を見破ろうと思えば見破られるが、アイリスは上・上級神だ。そうそうアイリスだと分かる神なんていないし、ましてや天使ならまず、神だとバレないだろう。


「変身して出掛けてみたら、その......うっかり術が解けてしまう事が多くて。あんまり意味が無かったと言うかですね......」


「あー、なるほど、分かったわ。アイリスなら容易に想像出来る」


「なので、外出する時は必ずローブを着ていくようにとセフィロス様に言われました」


「ふーん」


 みんなの視線さえ気にしなければ、暑い中ローブなんて着なくても良いような気がするが、言われているのなら仕方がない、と思うことにした。

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