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 しばらくしてエレノアは、マイアからあのサボり癖のある使用人女性が解雇されたことを知った。



使えない者は容赦なく切り捨てる。



 あの噂は本当だったんだな。と思う一方で、あれじゃあ仕方ないよなぁ。とも思う。


 ここで働くようになって感じたのは、セフィロスという神は、与えられた仕事を精一杯こなし仕えてくれる者には、きちんと答えてくれるという事だ。


 セフィロスは時々神殿の中を見回りに来ては、より、その者に適した所に配置し直したり、必要であれば家族丸ごと面倒をみてやったりと、なかなか懐の深い方だと思う。

 そもそも使用人の半数近くが何かしらの障害がある者だという時点で、ほかの神より凄いと思う。

 しかも聞いたところによると、セフィロスもその守護天使達も、1000人以上いる使用人の顔と名前を全員覚えているのだという。


 それなのになぜ世間では「冷たい」などと言われるのかエレノアは不思議でならなかったが、先日その訳が少しだけわかった気がする。



 この前神殿の中に、仕事なんてろくに出来ないようなヨボヨボのおじいさん、おばあさんがいてびっくりした。しかも使用人用の服を着ている。


 失礼だと思いつつも気になって聞いてみれば、セフィロスは最期の時まで神殿に置いてくれるそうだ。普通なら神の住む処で死期を迎えるなんて有り得ない。


 そうやって置いてもらっている者は、主の恩に少しでも報いようと、裁縫でも薬草のすり潰しでも、やれる事を少しでもやろうとする。それを何も知らない外部の者がたまたま見かけたりすると、今にも死にそうな年寄りまでこき使っている様に見えるらしい。


 その事を当のおじいさん、おばあさん達は嘆いていた。セフィロス様に迷惑をかけてしまっていると。そうと分かってはいても、やっぱりここに居るしかないのだと。

 身体に何かしらの障害を抱えていると、子供の頃に捨てられてしまったり、生涯伴侶を得られず独り身のままということは珍しくない。

 歳をとって働けなくなったからと神殿の外に出されても、身寄りのない彼らは行くあても、帰る場所もない。

 それをセフィロスは分かっていて、きっと神殿に留めおいてくれるのだろう。



 セフィロスと言う神は、周りからの自分の評価など全く気にしない。よく見せよう等とは思わないみたいだ。

 それがエレノアにとっては歯痒くてたまらなかった。




 エレノアが出来上がった薬を届けようと庭を歩いていると、またもや誰かが怒っている声が聞こえてきた。今度は男の使用人みたいだ。周りには野次馬まで集まってきている。


「もうやってらんねぇ!何で俺がコイツらの尻拭いしなきゃなんねーんだよ!」


 片腕の無い男と、見るからに病弱そうな男の2人を睨み付けながら、ご立腹な様子の男は続ける。


「いいよな、体に不自由があるヤツは。ちょこっと仕事すりゃあ給金を貰えて。俺たち健常者はお前たちの何倍と仕事してんのに、何で同じ待遇なんだよっ」


 ケッ、と男は唾を吐き捨てる。


 神の住む神殿の庭に、なんて不届きな天使なんだろうか。


 そこへ、どこかで今のやり取りを見ていたのだろうか。ノクトがギャラリーの間から現れて、男に近づきながら言った。


「不満があるなら辞めていいよ」


「なんで俺が辞めなきゃなんないんですか?使えないのはコイツらの方でしょうが」


「不自由のある者が100%の力を出しても、君達の半分ほどの仕事しか出来ないかもしれない。だからと言って君達健常者が、50%の力しか出さなくていい訳じゃない。セフィロス様は結果がどうであれ、その人が持てる能力の全てを使って働いてくれれば、それでいいと思っているんだよ」


冷やかな声でノクトが続ける。


「それが分からないようなバカは、要らない」


 言われた男の顔は、羞恥と怒りで真っ赤になっている。

 それはそうだ。周りにギャラリーがいる中で、こんな風に淡々とお説教をくらってしまっては。


 男はノクトよりもずっと年上に見えるが、実際には5億歳程は年下だ。格が違いすぎる。

 ノクトは見物人達に仕事に戻るように言うと、さっさと立ち去ってしまった。


 これはあの男、立ち直れないよなーと思っていたら案の定、すぐさま辞職したのだと、後で風の噂を聞いた。

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