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36. 契り

 立神して間もなく、アイリスの家にセフィロスと風の守護天使達、それからフレイとリアナがアイリスの家り集まった。

 今日はいよいよ結婚の契りを交わす日。風の天使の内8人は来てくれたので、家の中にはとてもじゃないけど全員が入り切らない。そこで、晴れていい天気という事もあって庭で行うことにした。


 立会人として来てくれたフレイが、ああーーっと大きく項垂れた。


「天使の父親が、娘が結婚する時に『娘はやっぱりやらん』とか言って号泣していた意味が全く分からなかったけど、うん、今なら分かるね」


「あらまあ。アイリスのお陰でこの歳になってもまだ新しい経験を色々と出来てるみたいね」


 ころころと笑いながらリアナがフレイの肩を叩く。


「さあ始めましょ」


 リアナの合図で虹の天使と風の天使達が、それぞれの主の後ろに並ぶと、アイリスはセフィロスの前に跪き許しを乞う。


「風の神セフィロス様。この命が尽きるまであなたに忠誠を誓い、お仕えすることお許しください」


「許す。其方に風の庇護を与えよう」


 セフィロスがアイリスの額に手を当てると、身体の中を何かが這うような感覚がした。


 天使が契約を交わす時とは違い、髪や瞳の色が変わったりもしないし、神気を直接もらえる訳でもない。それでもアイリスの中に、何かの縛りが生まれたことだけは感じられた。


「義兄弟の契りを」


 セフィロスが天使たちに向かって声を掛けると、互いの守護天使が円陣を組んで剣を抜き、刃を中心に揃える。


「互いの主の為に、身命を賭してお仕えすることを誓います」


 ノクトとジュノが声を揃えて誓いをたてると、天使たちは剣の先を上に向かって掲げた。


「これでお前たちも兄弟分だ」


 セフィロスがそう言うと、ジュノがノクトに手を差し出す。


「ノクト様、よろしくお願いします」


「もう『様』はいらないよ。義弟(おとうと)だからね」


「そっか。それじゃあノクト、よろしくね」


 そう言う適応力はやたら早いジュノは、早速嬉しそうに呼び捨てにしていた。しかもタメ口で。

 

 たったこれだけの儀式なのに、緊張でぐったりと疲れてしまった。ふぅ、と息をついていると、フレイが笑いながら話しかけてきた。


「アイリス、この位でそんなにへばっていたら、立神の儀の時は倒れてしまいそうだね。もっと大勢の神と天使の注目が、君だけに集まるんだから」


 立神の儀は立神する本人が主催するが通常だが、アイリスの場合は最上級神とその守護天使以外、誰にもその存在を知られていない。

 そこで両親であるフレイとリアナが主催者として皆に招待状を送り、太陽の神殿でお披露目を行うことにした。もちろん、何のパーティーであるかは伏せられたままで。


「立神の儀は明後日だ。しっかりと準備しておくように」


 しばらくみんなで歓談を楽しんでいると、酒に酔ったフレイとリアナがセフィロスに絡み始めた。2人ともお酒には強いのに相当飲んだらしく、完全に酔っぱらいだ。対してセフィロスの方は先程からずっと飲んでいるのにケロリとしている。


「セフィロス、いい?分かっていると思うけど、今度アイリスを泣かせたら……」


「身体中の水分を全部抜くんだろう?」


「それだけじゃないさ。その後で僕がスルメイカみたいに君をこんがりと炙ってあげるよ」


「流石に2人まとめて掛かってこられると、私でも厳しそうだな」


 ……。笑っていいのかいけないのかよく分からない会話を、アイリスはただ葡萄酒を飲んで聞いていた。

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