35. 立神
「セフィロス様!セフィロス様!!」
仕事中のセフィロスの執務室に、バーンと勢いよく扉を開けてエレノアが大慌てで入ってきた。
それをノクトがすかさずとっ捕まえると、拳骨でエレノアの頭をグリグリと押し回した。
「お前はいつになったら礼儀をわきまえるんだ」
「痛たたたたっ。だってこれは、騒がずには居られないわよ!」
エレノアはノクトの攻撃をかわして抜け出すと、今度はバルコニーに出る扉を開けてみせる。
「セフィロス様、外に出て空を見て下さい!」
エレノアに言われた通り、バルコニーに出て空を見上げてみる。真夏のよく晴れた、風光る空だった。
「……二重虹か」
外では使用人や客人たちが歓声を上げている。恐らく神殿の外でも、いや、天界中の者たちが空を見上げて歓喜の声を上げているだろう。
「無事、立神出来たようだな」
「そのようですね。それでは僕は予定を調整しに行って参ります」
ノクトはそう言うと、キビキビと部屋から出て行った。ノクトは数居る守護天使の中でも、取り分け皆から「優秀」と言われている。主がわざわざ指示を出さなくても、意を汲み的確に動いてくれる。
「エレノア、あとは頼んだ」
セフィロスは珍しく仕事を放り投げてそのまま部屋を出ると、ニキアスに跨り神殿を後にした。
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アイリスの身体を襲っていた倦怠感はすっかりと抜け、気分も一際良くなっていた。
身体付きが随分と変わったので、新しいドレスを作るために天使たちが採寸している最中だ。
「アイリス様、セフィロス様がいらっしゃいましたよ」
イオアンナのその言葉に、慌ててエントランスへ向かう。
「セフィロス様、ようこそおいで下さいました」
アイリスが挨拶をすると、セフィロスは無言のままで見つめてくる。
「あの、どうかなさいましたか?」
セフィロスが動かないので困っていると、クスクスと笑いながらリアナが後ろからやってきた。
「アイリスの美しさに更に磨きがかかって、見とれちゃってるのよ。先に私が来ちゃってて残念だったわね」
「本当にその通りだな」
「お2人とも、部屋に入ってゆっくりお茶でもいかがですか?」
何だか二人の間に嫌な空気を感じたので、恐る恐る提案してみる。
「いえ、採寸も終わったし、私はもう帰るわ。邪魔しちゃ悪いしね」
リアナは手をヒラヒラと振り、そのまま帰って行った。
セフィロスとこうやってきちんと会うのは、虹の滝で会った時以来だ。エレノアに色々聞かされるわ、会議では告白するような形になってしまうわだったので、気恥ずかしくなってきた。
「無事、立神出来ました。その……どうでしょうか?少しだけ背も伸びたんですけど……」
「ああ、リアナに負けないくらい美しい女神になった」
セフィロスはおもむろにアイリスのほうへ近づいて来ると、頬に手を添えそのまま口づけを落とした。
「立神のお祝いに、私の神気だ」
キョトンとしているアイリスにセフィロスが笑いながら言ってのける。
それはエレノアが前に言っていた通り、甘い春風のような味がした。




