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24. 神獣と神鳥(5)

 アイリスがエルピスをギューッと抱きしめていると、後ろから声をかけられた。


「アイリス、おめでとう。まさかユニコーンを神獣にするとはな」


 エルピスとふたりの世界に入ってしまっていたので、セフィロスの事をすっかり忘れてしまっていた。


「セフィロス様、ありがとうござっ……」


 立ち上がろうとしたらフラフラとして倒れそうになってしまった。セフィロスが受け止めてくれた。


「力を使い果たしてしまったのだろう。少しここで休んでから帰ろう」



 休むのにちょうど良い石があったので2人で座ると、セフィロスに先程エルピスから流れ込んできた記憶について話してみる。


「ユニコーンが捕えられる……。もしかして、あのユニコーンのことか...…?」


「なにか心当たりがあるのですか?」


「ユニコーンについてどのくらい知っている」


「ええと、不老長寿で1度(つがい)になるとパートナーを変えることなく一生を添い遂げると本で読みました。それからその血はどんな死の淵にあっても、飲めば生き長らえることの出来る薬にもなると」


 アイリスは昔に読んだ本の内容を思い出しながら答えると、セフィロスはそうだと頷く。


「今から10億年ほど前だったか、ユニコーンの血が闇取引されていたのを摘発された事がある。もともと闇取引される事はあったんだが、その時は取引量がかなり多かったのだ。それで調べてみると、闇取引をしていた(ぬし)の家から1匹のユニコーンが見つかった」


 闇取引……。ヒュドラの抜け殻もそうだが、取り扱いを1歩間違えると非常に危険なものは、そうやって裏でこっそりと取り引きされるのか。何に使うのか全く想像がつかないけれど、ろくでもなさそうな事だけはわかる。


「その捕らえられていたユニコーンは何百年もの間少しずつ、血を抜かれていたらしい。不老長寿だからな。発見された時にはやせ細って衰弱しきっていた。保護してみたが、残念ながらすぐに死んでしまった」


「…………」


 あまりに残虐な行いに絶句してしまった。そのユニコーンがエルピスのパートナーなのだろうか。


「ユニコーンの血を何度も飲んだ事で身体が穢れきり、堕天使となった天使も多い。死の淵を逃れることは出来ても堕天してまでその血を飲むとは愚かだが、それが生き物が持つ『強欲』と言う感情なんだろう」


 天使はその心や身体に穢れをきたすと、背中の羽根の色が徐々に濁ってくる。ごく軽いものなら聖水を飲み祓うことも出来るが、手遅れになればその羽根は真っ黒な色に変わる。そうなれば天界にいることは許されず、地界に落ちるより他ない。


「血を取引をしていた主と言うのは一体誰なのですか」


「フォスフォロスと言う光の神だった者だ」


「『だった』と言うと……」


「自ら堕天して、今は闇の神・サタンと名を変えている。その守護天使達もその後を追い堕天使になった。まさか取り引きの主が高位神だとは思わず、摘発するまでに随分と時間がかかってしまった」


 アイリスがずっと疑問に思っていた謎が解けた。神の系譜を見ている時に、太陽の神・フレイと月の女神・ルナの子が空欄になっていた。にも関わらず、空欄の子と他の神との間には子がいるのを不思議に思っていたのだ。

 誰かに聞いてみようかとは思ったが、あまり良くない事情がありそうな気がしたのでそのままだった。

 多分そのフォスフォロスと言う神がフレイとルナの子供なのだろう。


 サタンは地界を作った創世神7人を従え、地獄の王として君臨していると以前本で読んだ。もともと地獄で生まれた神ではなかったということなのか。



「エルピスはそれでは、随分と長い間独りだったのですね」


 1度番を決めればパートナーを変えることは無い。にもかかわらず不老長寿と言う身だ。生の終わりが見えない。どれ程孤独だったのだろうかと思うと、胸が抉られるように苦しくなる。


「ユニコーンが神獣になるとは誰も思っていなかったから、随分と驚いた」


「そうなのですか?」


「神と契約を結ぶ最大の利点は不老長寿の身になれることと、神気を貰えることの2つ。だからもともと不老長寿のユニコーンは、余程魅力的な神気を持っていなければ神獣にはならないだろう。それにその血が闇取引されると言う事くらいユニコーンの方も分かっている。ユニコーンは天使や神を警戒して寄ってこないからな。私も久しぶりにその姿をこんなに近くで見た」


 それなら自分は随分と幸運だったのだろう。姿を見る前に、足音や気配で逃げられてしまっていたかもしれない。


「其方は他者を傷つけることを極端に嫌い、肉を食べる事すら受け付けない身体だ。アイリスなら自分を絶対に傷つけない。そう思ったからこそ、神獣になる事を了承したのだろう。」


 まさか自分のダメな部分を、そんな風に捉えてくれる者が現れるなんて思ってもみなかった。何だか凄くうれしい。

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