18. 命令違反
セフィロスにダインとの交流を断つように命令をされてから2週間程がたった。
モヤモヤとした気持ちが積もってきてどうにもならない。
これはセフィロスに対する不信感――?
何で指名してきた事くらいでそんなに神経質になるのだろう。セフィロスだって指名を受ければ応えているじゃない。
もちろんアイリスとしては他の神となんて絶対に嫌なわけだけれど、それにしたって何も急に縁を切れだなんて……! アイリスの傍には必ず虹の天使だっているし、滅多な事なんて起きるハズないのに。
――何を考えているの?
セフィロスは私のことを心配して下さっている。ただそれだけの事でしょう? 何故それを疑うの? 私よりもずっとずっと長く生きているのよ?
いつまでたっても私は、セフィロス様にとってみれば子供みたいなものね。
ふっ、と笑いが込み上げてきた。
自分だけがセフィロスを必要としている。
子供は親が居なければ生きていけない。でも親は子供が居なくても――私が居なくても生きていける。
頭の中がぐちゃぐちゃになってきた。
「アイリス様? どちらへ行かれるのですか」
外の空気を吸いたくなってテラスから外に出ようとした所でジュノに呼び止められた。
「ちょっと散歩に出掛けてくるわ。付いてこなくても大丈夫、虹の滝を見に行くだけよ。何かあったらエルピスに飛び乗って逃げるから」
「……分かりました。あまり遠くへは行かないでくださいね?」
「ええ、すぐ戻るわ」
虹の滝を見ていれば少しは気持ちが落ち着くかもしれない。
そんなことを考えて来てみたけれど全然ダメだった。
この淀んだ気持ちを何処にぶつけたらいいのか分からなくて叫び出したくなる。
「ダメね……」
こんな気持ちのままで次にセフィロスに会ったらきっと、ロクな事にならない。
誰に相談しよう……。フローラ、セリオン、それともやっぱりヴィーナス?
「リアナ様かなぁ……」
リアナなら花の門をくぐれば直ぐに水の神殿へ行ける。
エルピスを心の中で呼ぶと、直ぐに茂みの向こうから美しいユニコーンが掛けてやってきた。
「リアナ様に会いに花の門へ行きたいの」
『御意』
近くの町までエルピスに送ってもらうと、アイリスは辻馬車に乗って花の門へと向かった。
御者に運賃を支払って降りると、花の門をくぐって水の門へと出た。少し先には見慣れた淡い水色をした水の神殿が見える。
リアナ様いるかな……
特にアポは取っていないので居るかどうかは分からない。居なければ帰ってくるまで神殿で待たせてもらおう。
神殿の方へと足を向けたその瞬間、不意に誰かに腕を掴まれた。
「ひゃっ……!」
「アイリス様、驚かせてしまって申し訳ありません。俺です、ダインです」
「だ、ダイン様……?!」
今一番、会ってはいけない人に会ってしまった。
ダインに会っている所など風の天使にでも見られたら大問題だ。早く話を切り上げて水の神殿に行かなければ。掴んでいる手を早く離して欲しい。
「ちょうど水の門をくぐろうとしていた所だったんですよ。アイリス様にお会い出来て良かった。手紙をお送りしたんですけどなかなか返信が来ないのでどうしたのかと思っていたんです」
「それは、その……」
「今日はローブを着ていないのですね」
「え? あっ……」
そう言えばちょっと家の周りを散歩をするつもりで出掛けたから、ローブを着ていなかった。通りで皆からジロジロと見られるわけだ。
「良ければこれから俺と出掛けませんか? アイリス様をお連れしたいところがあるんですよ」
「いえ、私その……これからリアナ様に会いに……ひゃぁ?!」
掴まれていた腕をぐんと引かれて、ダインの傍にいた大きな鹿の様な生き物の背に乗せられた。恐らくはダインの神獣なのだろう。ダインが乗るや否やもの凄い速さで駆け出した。
「あのっ、ダイン様。降ろしてください。私、リアナ様に用事があって……」
必死にダインに訴えてみても聞いているのかいないのか。
風の音で聞こえないのかな……?
ダインは時々強引なところがあるけれど、今日のは少しおかしい気がする。
少し……?
いや、違う。
目が据わっている。
――其方の神気に当てられているかもしれない。
そうセフィロスは言わなかっただろうか?
セフィロス様……!! 違う、エルピスだ! エルピスを呼ばないと。
焦る気持ちを抑えて、心の中で必死にエルピスを呼ぶ。
いつも花の門を使って出掛けた時に待機していてくれる森の中に居るだろうか? それとも家の近くの森へと帰ってしまったかな……。早く来て、早く……!