ローマの忙日(2)特殊攻城兵器『バンシー』の叫び
登場人物紹介
黄忠漢升 十五歳(西暦162年時点)十二月十九日生まれ 射手座 血液型AB型
装備
E 『象鼻刀』
E 『藤甲鎧』
E 『大宛馬』(六歳馬)
E 『阿爾特弥斯女神弓』←NEW
持ち物
『地理学』
『羊毛十斤』
ローマのコロッセオで華々しくデビューした黄忠はその後も絶大な戦績をあげた。
剣闘士同士の闘い 六十勝無敗
対猛獣戦 六十勝無敗
弓での野生動物の狩り 六十日で計千二十四匹(二位と三百匹以上の成果差)
闘技場に水を張っての模擬海戦 六十戦全敗(これだけは最悪)
強さの秘密は黄忠自身の戦闘力は言うに及ばず、主治医が華陀と張仲景の後の
医聖二人と血液型AB型という事で誰からも輸血して貰える事で大量出血の
大怪我を負っても次の日にはケロッと出場してしまう驚異的な回復力にあった。
そして八ヶ月あまりが経過した………
この戦績に時の共同皇帝の片割れ『マルクス・アウレリウス・アントニヌス』は
黄忠を称えて とある『楯』を授与したのである。
マルクス帝「勇士アチュー(黄忠)よ、汝の戦績凄まじい事 古の戦神ペルセウスにも及ぶ。よってこの『イージスの楯』を授与しよう!この楯は鍛冶神ヘパイストスが創りし楯でペルセウスはこの楯を持ってメドューサを退治した伝説の楯である。受け取るが良い!」
黄忠「ははー!ありがたき幸せ!」
黄忠は貰った楯をマジマジと入念に見つめていた。
黄忠(これは表は薄く伸ばした白金を貼っているな、鏡のように光を反射して眩しくて裏は木製で結構重いな…ん?裏に羅馬字が刻んである『KO SHOGEN』!?まさかコレって叔父貴の造った楯か?)
ある意味で戦慄を隠せない黄忠に、マルクス帝は怪訝な顔を浮かべた。
マルクス帝「どうした?アチュー?それでは気に入らんか?もっと上等な宝物が欲しかったか?」
黄忠「いえいえ陛下!私のような卑賎の身にはあまりにも寛大な褒賞に戸惑っただけでございます」
マルクス帝「それがガレノスが言っていたシナイ人特有の礼節、ケンソンというものか?よいよい、お主は立派な闘士よ。奴隷階級なら今頃とっくに解放もので将軍に取り立てられている所よ。そこで勇士アチューよ、そなたもまた我がローマの将軍に任命したい、どうかな?」
黄忠「あ…はい…謹んでお受け致します。」
マルクス帝「うむ、近頃我がローマ軍は宿敵パルティア軍にアルメニアを始めとした東方を占領されてな、なにぶん我がローマは数十年間、戦をしていないので全軍がダラけておる。その東方の奪還の為に目下、アウディウス・カッシウス将軍が猛訓練中でな。お主にはその訓練を手伝ってそのまま出兵してアルメニアを奪還してもらいたい。」
黄忠「はっ!心得ました!」
ローマ軍屯営
ここではアルメニア奪還の為にとある攻城兵器が五十台ほど量産されていた。
『オナガー』というカタパルト式投石機である。
中華で使われる投石機とは根本から構造が違っていた。
アウディウス「お前が例の王者アチューか?お前さん程の武勇なら鈍った今のローマ軍もピリッと引き締まるってもんよ!兵の訓練は頼んだぜ!」
黄忠「了解です!それはそうと、さっき投石機の玉を見ましたが鉛玉に小さな穴が開けられてましたが、アレは一体?」
アウディウス「ふふっ、アルメニア攻略の為の必勝の工夫さ。戦になったらお前さんも判るよ。」
黄忠はローマ兵の訓練に励んでいた。
パルティア軍時代に兵の訓練はやっていたので朝飯前であった。
亀甲戦術などの見たことの無い戦法に
新鮮さを感じる黄忠であった。
そして三ヶ月余りが過ぎた。
そして翌、西暦163年一月
いよいよアルメニア奪還の為の軍が出兵した。
その数は五万を超えていた。
例の『オナガー』五十台も投入され
黄忠も総大将の『マルクス・スタティウス・プリスクス』に連れられた
一将軍として従軍した。
しかしアルメニア侵攻前に運悪くローマ軍はパルティアの先遣部隊と遭遇した。
戸惑う両軍、その沈黙を打ち破るように先遣部隊が例の必殺戦法を
繰り出すべく弓騎兵をローマ軍の前まで怒涛の勢いで走らせた。
プリスクス将軍「アレは?パルティアンショットか?まずい!我が軍はアレにすっかりビビっている…アレを喰らったら全軍が混乱する!」
黄忠「俺に任せて下さい!」
そう黄忠が叫ぶとパルティアンショットを放とうとする寸前の一番前の将軍を
『阿爾特弥斯女神弓』の一射で射落としたのである
するとまるで玉突き事故のように将棋倒しに他の弓騎兵も
敵将軍の馬にぶつかって一斉に倒れたのである。
プリスクス将軍「今だ!かかれー!」
こうしてパルティア軍先遣部隊は壊滅した。
プリスクス将軍は「今の攻撃は何だ?」と黄忠に尋ねた。
黄忠「パルティアンショットは一番先方の射手を倒せば全体が崩壊する弱点があります。そこを狙ったのです。」
プリスクス将軍「アチュー…お主、若いのによくパルティア軍を知っているな。」
黄忠「はあ、まあ…(二年前にパルティア軍に居たとはとても言えね~)」
そしてローマ軍はアルメニアに到着した。
アルメニアの首都アルタクサタを無傷で落とすべく
例のオナガー五十台が投入される
時は夜更けの真っ只中であった。
そして五十台の『穴が空いた鉛玉』を放つ投石機は一斉に玉を飛ばした。
穴の空いた鉛玉は「ヒュ~♫」という高い音を立てて
アルタクサタの城壁前に落ちた。
黄忠「当てないのか?」
プリスクス将軍「よし!全員叫べ~!!」
「バンシーだ!バンシーが来たぞー!」
「五万ものバンシーが攻めてきた!この世の終わりだー!」
『バンシー』とはスコットランドの民話に出てくる女の妖精で
恐ろしい泣き声で死を予告するとされている。
至る所から聞こえる『バンシー』の「ヒュ~♫」という叫びと
総勢五万人もの絶叫にアルタクサタの住人は兵士を含めて吃驚仰天して
アルタクサタの街から蜘蛛の子を散らすように人々が飛び出していった。
「ひ~!バンシーだ~!」「まだ死にたくないよ~!」「助けてくれ~!」
プリスクス将軍「よし!アルタクサタはもぬけの空だ!全軍アルタクサタを占領しろ!」
黄忠「凄いですね……あんなに脅えてる……」
プリスクス将軍「実はまだ仕込みが有ってな、一ヶ月前に街に間者を潜ませて『最近バンシーが増え続けて人を喰らっている』という噂を流しておいたのよ。」
黄忠「それは……さらに怖そうですね………」
こうしてアルメニアの首都アルタクサタはローマ軍の手に落ち
パルティアのアルメニア王アウレリウス・パコルスは廃位され
親ローマ派のパルティア王子ソハエムスが新たなアルメニア王に即位した。
またプリスクス将軍はアルタクサタの近郊に新たな都市
『カイネ・ポリス』を建設した。
そのカイネ・ポリスには攻城兵器『オナガー』も置かれていた。
戦後、そのカイネ・ポリスに黄忠が赴くと見覚えのある人物に遭遇した。
黄忠「叔父貴?叔父貴じゃないか!なんでこんな所に居るんだよ?」
黄承彦「おお、漢升!お前の活躍は聞いているぞ!羅馬でもまたやらかしてるそうだな!」
黄忠「やらかしたは無いだろう…俺だって沢山苦労したんだぜ…」
黄承彦「まあいいや。それよりな、ここに並んでいる投石機を一台、俺によこしてくれ」
黄忠「そんな事出来るわけねーだろ!俺がプリスクス将軍に怒られちまうよ。」
黄承彦「盗人が入ったと言って上手く繕え。将軍のお前の言葉ならプリスクスも信じる!」
黄忠「こんなヘンテコな絡繰機械、何に使うんだよ?」
黄承彦「知れたこと!これの構造を知って俺も新たな投石機を発明して天下にその名を轟かすのよ!」
黄忠「ま~た機械狂いの性がうずいたか…」
黄承彦「『工神』の性と呼べ!」
黄忠「所でこの『イージスの楯』って、もしかして叔父貴の……?」
黄承彦「おう!羅馬皇帝に頼まれてな。俺が創った傑作だ!白金製だから火にも強いぞ!藤甲鎧は火に弱いが、火矢とかはこれで防御すれば完璧さ!じゃ、投石機の件、頼んだぞ!」
こうして『オナガー』一台は盗まれた。
プリスクス将軍も怪訝そうな顔を浮かべている。
プリスクス将軍「オナガーが敵に鹵獲されたとなると厄介だな…」
黄忠「盗人はパルティア軍では無いと思います。」
プリスクス将軍「なぜ判る?」
黄忠「闘技場チャンプとしての勘です………」
プリスクス将軍「ふ~ん………」
黄忠はプリスクス将軍と目を合わせなかった。
しかしプリスクスも些事と思って、それ以上この事を問い詰めなかった。
時に漢の延熹六年(西暦163年)三月
黄忠漢升 十六歳の出来事であった
黄忠「叔父貴と親戚である事は墓に入るまでずっと黙っていよう………」
【ローマの忙日(2)特殊攻城兵器『バンシー』の叫び・完】
今後は前書きに話の進行に合わせて黄忠のプロフィールを載せます
今回も小説を読んで頂き大変ありがとうございます
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