ローマの忙日(1)闘技場での勇躍
アレクサンドリアのプトレマイオスと兀突骨と黄承彦から
『象鼻刀』『藤甲鎧』という最強装備を贈られ身に着けた黄忠
彼の冒険はまだまだ始まったばかり
漢 黄忠漢升十四歳 今日はいずこへ………
黄忠のアレクサンドリアの滞在は四ヶ月にも及んだ。
叔父の黄承彦と使用人のゴットコーと共にプトレマイオスから
ローマ語やギリシャ語など様々な事を学ぶ、その中でも黄忠が興味を示したのは
世界が天空に浮かぶ星と同じで丸いという事と黄道十二星座であった。
黄忠「へえ~…世界って丸いから世界の果てに行けば元の場所に戻ってくるんだ、何となく解るな~。そして黄道十二星座ですか?生まれた月日でその人の宿命が決まるっていう。」
黄承彦「黄道十二宮の『黄』に反応したな、漢升。まあそれが黄家に生まれた者の性か…」
プトレマイオス「うむ、カンショーは十二月十九日の生まれじゃから『射手座』に当たる。射手座は黄道十二宮では人馬宮と呼ばれ、アルテミスの弟子のケンタウロスが弓を射る姿が星座の形となっている。ちょうどローマ軍から『アルテミスの化身』と呼ばれたお主にピッタリの宿星じゃな。」
黄忠「射手座かあ…なんかカッコいいな。」
そして黄忠は再び旅に出る事を決意し、その意思を一同に述べた。
黄承彦「やはり行くのか?行き先はやはり羅馬か?」
黄忠「ああ、洛陽に居た頃から安世高先生からよく聞かされていたから昔から憧れていたんだ。叔父貴は一緒に来ないの?ゴットコーも来なよ」
黄承彦「俺はまだまだプトレマイオス先生から色々学ぶさ、何せこの方は当代世界一の学者であらせられるからな。」
兀突骨「俺、ぷとれまいおすカラ学ンデ偉クナッテ。イズレコノあれくさんどりあノ王二ナル、行ッテ来イかんしょー!」
プトレマイオス「グホホホホ、儂が世界一と見るようではまだまだ世界を知らんぞカンショー。ローマに行くならコレとコレを持って行きなさい。」
そう言うとプトレマイオスは屋敷の倉庫から羊の皮で出来た
手紙と地図を持ってきた。
プトレマイオス「この手紙をローマの医師『ガレノス』という者に渡しなさい。それからこの地図は『地理学』と言って儂が知る限りの世界を記した地図じゃ、旅の役に立つじゃろう。」
黄忠「うひょ~!地図欲しかったんですよ!今までの旅は行商人や現地人とかから目的地を聞いたりしてたんで中々、予定通りに目的地に行けなかったんですよね、でもいいんですか?地図って本来、権力を持っている高貴な御方にしか見るのを許されない物だと聞いたのですが…?」
プトレマイオス「お主の目には救国の志が見える、やがては一国を救う英雄となろう。じゃから地図はくれてやる、行って来い若人!若者は失うものなど無い!手に入れるだけじゃ!」
黄承彦「それから、これも持ってきな 『阿爾特弥斯女神弓』だ。お前がゴットコーと初めて闘った時に乗っていた象が死んだんで、その象牙や骨や革や筋で造った弓で、弓弦の張力は普通の弓の十倍はあるが、弓神『阿爾特弥斯の化身』と呼ばれたお前の膂力なら使い熟せるだろうよ。」
黄忠「(プトレマイオス先生の言葉は安先生にも言われたような…ま、いいや)叔父貴ありがとう!この弓は生涯に渡って使い熟せて見せるよ!プトレマイオス先生、ゴットコーもお元気で!行って来ます!」
こうして黄忠はアレクサンドリアを旅立ち、ローマへと向かった。
地図が有ったのでキュレナイカから船に乗り、クレタ島 アカエア
マケドニア ダルマティアからの最短距離を進む事が出来た。
そしてアレクサンドリアから旅立って四十日後に遂に憧れのローマに
到着した。
黄忠「これが憧れの羅馬か!洛陽よりデッカイんじゃないのか?」
当時、西の百万都市として栄えるローマは最盛期を迎え
その繁栄は東の百万都市洛陽に勝るとも劣らぬものだった。
黄忠「おっと、こうしちゃいられない。プトレマイオス先生の手紙をガレノスという人に渡さなきゃ、お~い、そこの人『ガレノス』という人を知りませんか~?」
拙いローマ語で黄忠が通行人に話しかける。
通行人「ん、あんた中国人か?ちょうどあんたと同じ二人のシナイ人からガレノス様の居所について聞かれたけど…ガレノス様なら闘技場に居るよ。」
黄忠「え?祖国の人が来たのですか?それはどうも…」
黄忠は胸が躍る気持ちだった、ちょうど未踏の地に漢人が居てくれる
その安心感は筆舌に尽くし難い、足早に闘技場に向かう黄忠。
そして闘技場の前の受付係のローマ人にプトレマイオスからの
紹介状を渡した。
受付係「見たところあんたシナイ人みたいだが、ちょうど同じシナイ人の二人がガレノス様に会いに行ったよ。いいぜ、通りな。」
黄忠がコロッセオの中の医務室に着くと一人のローマの医師らしき人と
確かに街の通行人が言っていた通り二人の漢人の医師?らしき人物が
なにやら話し合っていた。
ローマ人医師「しかし輸血は失敗する事が多い、確実な救済方法ではない。」
漢人医師A「ですから『血液型』さえ合えば輸血は可能なのです。」
漢人医師B「我が祖国では誰の血でも輸血できる特殊な者が一割弱ほど居るのですがね。」
その言葉を聞いて黄忠はハッとした。
この旅に出る前に安世高との修業時代に大怪我を負って大量出血した事がある
その時も安世高と近くに居た何進から血を分けて貰った事がある
その時も全く大丈夫だった。
他にもパルティアに居た時も戦で大怪我を負った時があったがその時も
他のパルティア兵から血を貰い、一命を取り止めた。
黄忠「あの~、その特殊な者って俺ですかね?」
三人の医師の中に漢語で割って入る黄忠。
漢人医師A「ん?漢語?君は漢の者か?」
黄忠「あ、ハイ。姓は黄、名は忠、字を漢升という者です。」
漢式の例で自己紹介をする様を見て二人の漢人医師も確信した。
漢人医師A「これはこれはご丁寧に、私は姓は張、名は機、字を仲景と申します。」
漢人医師B「私は姓は華、名は旉、字を元化と申します。」
華旉は中年で、張機は自分よりも年下と見られる白面の書生風の漢だった。
華旉(以下華陀)「今、貴殿はその特殊な者と仰たがどういう事かな?」
黄忠は今までの経緯を話す。
張機(以下張仲景)「間違いない!貴方は『血液型・乙型』の人です!誰の血でも輸血できる中華にも一割弱しか居ない特殊な血液型を持つ人です!ああ、血液型について説明しますと」
血液型・甲型(O型) 誰にでも血を分け与える事が出来るが、逆に血は同じ型からしか受け取れない血液型
血液型・乙型(AB型) 誰からも血は受け取れるが 逆に同じ型にしか血が与えられない血液型
血液型・丙型(A型) 乙型と 自身と同じ血液型に輸血可能 逆に血を貰うのは同じ型と甲型からしか貰えない
血液型・丁型(B型) 乙型と 自身と同じ血液型に輸血可能 逆に血を貰うのは同じ型と甲型からしか貰えない
黄忠「へえ~、俺って血を誰からも貰えるのか~。」
実は黄忠漢升はAB型だったのである、後の発掘調査で黄忠の遺骨から判明。
この発見によってAB型は千年以上前には存在しなかったという説は
覆された。閑話休題
華陀「そうだ!それを証明する為に貴殿がコロッセオの闘士になってくれんか?いずれ怪我をして出血する事もあろう、その時に輸血して、このガレノス殿に血液型を理解してもらう!」
ローマ人医師ガレノス「それはまた唐突な!そこのシナイ人の漢も納得せんだろう?あ~…所でお主、名は?」
黄忠「(ええと『カンショー』だとここでは仇になっちゃうから…)『アチュー』と申します。」
ガレノス「アチュー?どうもシナイ人の呼び名は発音しにくいな…」
黄忠「ははは、よく言われます…それから闘技場の競技は出てもいいですよガレノス様。あっ!大事な物 渡すの忘れてた!」
急いで旅の袋からプトレマイオスからガレノスに渡す手紙を出す黄忠。
ガレノス「ふ~ん、プトレマイオスの爺さんは相変わらずだな。この手紙ではお主、あのゴットコーを倒したと書いてある、まことか?」
黄忠「あ、ハイ。でもゴットコーも凄い強かったですけどね」
ガレノス「そのシナイ人特有のケンソンは要らぬ。あのゴットコーを倒した腕前ならこのコロッセオでもやって行けよう。今度の競技は弓を使った狩り競技だが『アチュー』と言ったか?弓の腕は?」
黄忠「百歩離れた落ちる木の葉を全て射当てるくらいは!」
ガレノス「ふむ、充分!では早速出場して来い!出場登録は私が済ませておく。」
黄忠「ハイ、行って来ます!」
黄忠が初出場する闘技場には観客が五万人は詰めかけていた。
相手は体長十一尺は超える大獅子であった。
因みに使う弓は阿爾特弥斯女神弓ではなく
下級の闘士用の普通の弓であった、観客から野次が飛ぶ。
「おいコラ!シナイ人!お前みたいな奴はロンゴでも読んで一生、親に媚び売ってろ!」
「俺はあのシナイ人が負けるのに100セルティウス(ローマのお金で約一万円程度)賭けるぜ」
「おいおい、それじゃ賭けになんねーよ!ギャハハハハハ!!」
黄忠「また異国人差別か…どこの国も同じだな…見てろよ………!」
ジャーーーーーーン♫
競技開始のゴングの銅鑼が鳴る。
開始早々、黄忠は弓を構えて得意の必殺技『三連射』を一閃!
三本の神箭は大獅子の額を寸分無く射ち抜き大獅子は倒れた。
静まり返る観客席、そして次の瞬間に沸き起こる声援
「うおー!何だあいつは!?」
「化け物かよ?弓の天才じゃんかよ?」
「ア…アレは弓の神アルテミスの化身だ…」
黄忠「ま~た『アルテミスの化身』と呼ばれたよ…俺ってそんなに女顔なのかな?まあ射手座だし名誉な事かな…」
時に漢の延熹五年(162年)一月
黄忠漢升 十五歳の快挙であった
黄忠「ローマでの滞在 楽しくなりそうだ!」
【ローマの忙日(1)闘技場での勇躍・完】
黄忠は射手座のAB型でした
今後の前書きにこのプロフィールを載せます
今回も小説を読んで頂き大変ありがとうございます
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