初陣・神か悪魔か弓神の化身『カンショー』
黄忠とパルティア将軍オスロエスは時のローマ皇帝アントニヌス・ピウスの死を
待ちながら軍事訓練に励んでいた。
特に黄忠の弓の腕はパルティア軍内部でも一目置かれていた。
黄忠もパルティアの将兵から『カンショー』の愛称で呼ばれ
すっかり溶け込んでいた。
その一方でパルティア王ヴォロガセス四世は地図を眺めながら
要所での作戦を練っていた。
それから九ヶ月が過ぎ、遂に『アントニヌス・ピウス崩御』の報が
パルティアにもたらされた。
新帝はマルクス・アウレリウス(漢名・大秦王安敦)とルキウス・ウェルスの
共同皇帝となった。
この共同皇帝という統治のグラつきに付け込んでヴォロガセス四世は
アルメニアに侵攻した。
現アルメニア王ソハエムスを廃立し、パルティア王家のパコルスを
擁立しようと企んだのである。
俗に言う『第六次パルティア戦争』の勃発であった。
黄忠にとっては初陣である、しかし黄忠には迷いが無かった
むしろ自分の力が試せる日が来たことに武者震いしていた。
黄忠はオスロエスの兵一万の内の一千を与えられた。
初陣にしてはやや多めの兵である。
一方、ローマではカッパドキア総督を務める
マルクス・セダティウス・セウェリアヌスという者が二万に及ぶ
一個軍団を率いてアルメニアへと向かっていた。
彼は長い事、戦争をしていないローマの人間にしては珍しく軍務経験豊富で
またギリシャの戦神に憧れるロマンチストでもあった。
セウェリアヌスの軍は北進してアルメニアに向かった。
その途上でオスロエスの軍と遭遇した、両者は戸惑ったが
そこに颯爽と馬を駆け奇襲をかける将軍が居た、黄漢升である。
黄忠「オスロエス将軍!敵は迷っています!『アレ』を!」
オスロエス「お、おう!そうだなカンショー!全軍カンショーに続け!いくぞー!!!」
必殺❗双安息射法❗❗❗❗❗
総勢一万に及ぶ弓馬兵の一斉射撃の矢がローマ軍に浴びせられた
ローマ軍は仰天の極地を味わい、そのまま撤退した。
黄忠「双安息射法…練兵の時から感じていたが、一万もの軍でやるとやはりもの凄い威力だ!一撃で二万の敵が撤退したなんて………」
オスロエス「グズグズするなカンショー!追うぞ!」
這々の体で逃げ惑うローマ軍をパルティア軍は
容赦無く追撃し、ユーフラテス川源流にあたるエレゲイアまで追い詰めた。
しかし、ここでローマ軍は立て直してパルティア軍に抵抗を開始した。
そこは歴戦の名将セウェリアヌスであった。
思わぬ抵抗を受けて対処しかねるパルティア軍だが
その夜に黄忠は一計を案じた。
敵将セウェリアヌスはギリシャの戦神に憧れていたという豆知識は
戦端が切られる前の軍事訓練中にパルティア兵から黄忠も教わっていた。
そしてギリシャの戦神達の神話もよく聞かされていた。
そこでちょうど満月の今夜にユーフラテス川の小高い丘に黄忠が自らが立ち
川の水面に映える月を背に、そこから弓でセウェリアヌス軍の兵を
三人ほど射殺したのである。
その様子を見てセウェリアヌスは驚嘆した。
セウェリアヌス「ア、アルテミスだ…!あれは弓神アルテミスの化身だー!」
ただでさえ双安息射法のショックが消えていない所にこの『演出』である。
そして実は若き日の黄忠は故郷、荊州南陽の中でも
『東の黄家 西の何家』と呼ばれるほどの何進と同じ美形の家系であって
黄忠もその例外ではなく見た目は女に見紛うほどの美童だったのである。
セウェリアヌスが月の弓神にして女神アルテミスと勘違いするのも
仕方の無い芸術的とも言える光景であった。
セウェリアヌス「私は神と逆らって戦うほど愚かではない………」
セウェリアヌスはそう言うと自害して果てた。
そしてパルティアのオスロエス将軍の号令でローマ軍は虐殺され全滅した。
始めの遭遇からわずか三日の出来事であった。
そこからパルティア軍の快進撃は続き、ユーフラテス川の下流域の
都市シリアではローマへの反乱の同調者の動きも有り、シリアは大混乱に陥った。
黄忠の部隊はシリアでもその弓の腕前を発揮して
可燃物に集中的に火矢を放ちシリアは大火災に陥った。
シリア総督ルキウス・アッティディウス・コルネリアヌスは
抵抗を試みるも時、既に遅く、彼もローマ軍を恐怖に陥れた
黄忠の姦計の話を聞いていたので黄忠を指して
ルキウス「あれは…敵将カンショーは太陽の弓神アポロンの化身だ!」
と叫んで、更にローマ領を恐怖に陥れた。
そしてパルティア軍はシリアを通過してパレスティナに至り
ローマ東方のほぼ全域を襲撃した。
これら一連の黄忠の活躍はパルティア全軍に伝わり
黄忠がシナイ人だという偏見は完全に拭い去られ皆、彼に驚愕した。
しかし一番驚愕していたのは初陣を大勝利で飾った
黄忠本人であった。
時に漢の延熹四年(西暦161年)七月
黄忠漢升 十四歳の初陣であった
黄忠「俺…こんなに強かったの………?」
【初陣・神か悪魔か弓神の化身『カンショー』・完】
今回も小説を読んで頂き大変ありがとうございます
皆様の忌憚の無い 評価・いいね・ブックマーク登録・感想・イチオシレビューをお待ちしてます
インスタグラムで『三国志芸術館』を催しているので良ければ御覧下さい
https://www.instagram.com/kohata_toshihide/