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必殺戦法ダブルパルティアンショット

安息への旅の最初はそう難儀するものでは無かった。


涼州からの西域への道は既に班超によって


漢王朝の支配地域化していたので言葉にも困らなかった。


問題は疏勒(そろく)を越えたあたりからだったが


黄忠は安世高から異国語を習っていたのでそんなに苦労はしなかった。


丁度、大宛に着くと、かの有名な『大宛馬』を購入した。


黄忠「デッケエなあ!これが歴代皇帝が欲しがってた大宛馬か~、これで旅もスイスイ進むな」


そしてそのまま康居、大夏へと進み 貴霜(クシャーナ)に到達したが


急いで安息に向かわねばならぬので、ここは飛ばした。


そして洛陽出発から百十日を経て遂に安息へと到着した…が


そこに待っていたのは古今東西、必ず遭遇する異国人差別の洗礼だった。


首都のクテシフォンの街に入ると早速、住人たちから


「ありゃあ中国(シナイ)人だ」「野蛮人が何の用だ?」と(ささや)かれた。


黄忠「こりゃ早い事、安息王に合った方が良さそうだ」


パルティア王ヴォロガセス四世宮殿


パルティア門番兵「何のようだ?シナイ人。ここはお前のようなのが来ていい所ではない」


黄忠「この硬貨をヴォロガセス王に見せて頂きたい。」


パルティア門番兵「ふん、いいだろう…(このコイン、どこかで見たような…)」


ヴォロガセス四世「こ、これは!かのパルタマシリスのコイン!その(かた)を直ちにお連れしろ!」


宮殿内を通される黄忠。


ヴォロガセス四世「おお!そなたが我が甥、パルタマシリスから『将来性があると見込まれた者にのみ与える』という『パルタマシリスコイン』を授与された者か!?名はなんという?」


黄忠「(パルタマシリス?確か安清世高先生の本名だったな)はっ、黄忠漢升と申します。パルタマシリス先生に弓馬と言語学を習い、このパルティアの危機と聞き馳せ参じた次第でありまする。」


ヴォロガセス四世「コウチュウカンショウ………? どうもシナイ人の名前は難しいな…ま、そんな事はどうでも良い。我が一族は代々ローマに煮え湯を飲ませたパルティアでも名将の家系でパルタもその例外では無くてな。弓馬の腕前はパルティアでも一、二を争う程でパルティア王の王位継承者筆頭と目されていた人物であった。そんなパルタが急に中国(シナイ)に行って仏教の訳経がしたいと行って出ていった時はワシも驚いたものよ。しかしこうして『パルタマシリスコイン』を持ってきてくれた。パルタは元気か?」


黄忠「今も訳経に勤しんでおります。弓馬の腕も衰えること無く健在です。」


ヴォロガセス四世の目に涙が浮かんだ。


ヴォロガセス四世「それは良かった…パルタから事情は聞いてると思うが、現ローマ皇帝のアントニヌス・ピウスの容態が良くないらしい。そこで我がパルティアは奴の崩御次第、攻勢をかける予定なのだ。お前にはそれに参加して欲しい。え~と『コウチュウカンショウ』と言ったか?」


黄忠「『カンショー』とお呼び下さい、心得ました。その時が来れば必ずや武功を立てて参ります。」


ヴォロガセス四世「アントニヌスがクタバるまでにまだ時間が掛かりそうなので。その前にパルティアでは軍事訓練を実行している。お前にはまず百の兵を与える、それでお前の用兵力を確かめてみよう。お前の教練役は現在、パルティア一の将軍であるオスロエスに担わせる。おーいオスロエス!この小僧の面倒を見てくれ!」


オスロエス「お前がシナイの将軍か?随分と若えな、歳は?」


黄忠「今年で十三になります」


オスロエス「シナイでは十三のガキに将軍をやらせてるのか?噂では『ローマ軍より強い』と言われているが眉唾(まゆつば)だったか?」


黄忠「我が祖国の武が嘘か真か、やってみれば判りますよ」


オスロエス「いい度胸だ、練兵所に来い!」


パルティア首都クテシフォン郊外練兵所


オスロエスと黄忠はそれぞれ百の弓馬兵を率いて練兵所の隅に置かれた


巨大な藁人形に対して、馬で目前まで駆けて弓を射る


『かの射法』を訓練しようとしていた。


オスロエス「お前に『アレ』が出来るかな?」


黄忠「パルタ先生からは散々習いました、いつでも大丈夫です!」


オスロエス「では行くぞ!!」


二つの弓馬部隊が左右に分かれ藁人形に駆け寄り目前まで迫った時に


一斉に(きびす)を返し矢を放った


それはまるで二匹の龍が目前まで迫って炎を吐いたかのようであった。


二百本の放たれた矢は一本も外れずに藁人形に突き刺さった。


オスロエス「これぞ我がパルティアが誇る新戦法!その名も『双安息射法』ダブルパルティアンショット❗❗❗❗❗」


黄忠「『双安息射法(そうあんそくしゃほう)』は安先生と共に日頃から修練していたから、初めてでも出来たけど…こうやって部隊で行うと凄い威力だな………敵はさぞ仰天して混乱してしまうだろうな。」


それを壇上で見ていたヴォロガセス四世曰く


「ふむ ()(おとこ)が来てくれたは!これで平和ボケしていたローマの腰抜け共を皆殺しに出来るというものよ!ガッハッハッハッハッハ!!」


それを見ていた黄忠は安世高の事を思い出していた。


(安先生は浮屠(ふと)の慈悲の心を人々に説く事に腐心していた、叔父のヴォロガセスがこんな好戦的な(おとこ)では家を出たくなるのも解る気がするな………)


パルティアとローマとの間に暗雲が込み上げていた………


時に漢の延熹(えんき)三年(西暦160年)五月


黄忠漢升 十三歳の事であった


黄忠「何思(かし)(何進の妹)は今、何してるんだろう?」


【ダブルパルティアンショット・完】

今回も小説を読んで頂き大変ありがとうございます

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