プロローグ
よかったら読んでってください。
昔々、あるところに、八人の男たちがいました。
その名前を出すだけで、震え上がるもの。
聞くだけで、泡を吹いて気を喪うもの。
名を繰り返しながら平身低頭するものまでいる。
そんな男たちは、互いの存在が周りに与える影響を考え、近隣の村を拠点にすることを決め、混乱を防ぐためにバラバラに暮らすることにしました。
男たちは、互いに不干渉であることを条件に各村での地位を確立していきました。
そして、各分野で恐れられる男たちは、各村で問題が起きれば、皆で助け合うことも誓いました。
不干渉であるが、無関心ではない。
そして、そんな男たちが互いの利害や村への影響を話し合う会議を、定期的に開くことを決めました。
そして、何度も開かれてきた、とある日の会議での出来事。
それは、突然始まりました。
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「おんどりゃーーーー!!!!」
会議室を揺るがすほど巨大でけたたましい雄叫びを上げた巨漢が、目の前の机に拳を叩きつけた。
ミシミシと天板が悲鳴を上げ、会議室にいた何人かがその男を睨むように見つめた。
この男、西の村を納める男。
名を“豪力のターガ”
西側に位置する最も血の気が多い者達を納める豪傑。
情に厚く、熱血漢である。
さらされている肉体は、浅黒く強固な筋肉の鎧を纏っており、着ているシャツは今にもはち切れそうである。
そんな男が会議室な中にいる、とある人物を睨み付けている。
ひしゃげてしまった机から拳を引き、そのままターガは件の男の方を指差した。
「いきなり、何抜かすか!!!もっぺん言ってみろやぁっ!!!」
吠えるターガに冷ややかな態度でもって答えたのは、彼とは真逆の方角に位置する村を納めるやせ形の男。
東の村を納める男。
名を“流技のドランツ”
東側に位置する武芸に秀でた者達を納める逸物。
その見た目こそかなりの細身であるが、その見た目からは想像もつかないほど強く、ターガと度々もめることがある。
そんな彼が、いつものようにターガの威圧もどこ吹く風と言った様子で同じことを言った。
「だから、何度もいわせないでくれ。
お前の村の奴らと思わしき奴らが、うちの村を襲おうとした可能性があると何度も─────」
「ふんがぁぁーーーーーーー!!!」
ドランツが言いきる前に、ターガは両腕を振り上げて雄叫びを上げた。
その様子に、ドランツはこめかみをつまむようにして揉みながら、手を何度か振って見せた。
「ダメだ、僕から何を言ってもあのデカブツは話を聞かない。
頼むよゲンロウさん」
「またワッシか?おぬしらも懲りんのぉー。」
ドランツが話を振ったのは、北の村を納める男。
しわがれた見た目とは相反し、あふれでる活力と落ち着いた雰囲気の老人。
名を“仙神のゲンロウ”
比較的穏やかな者たちが集まる村を納める好き好き爺であるが、その目には確かな力強さがある。
そんな彼が、見た目の割りにしっかりと伸びた背筋でターガに近づき、軽く脇腹をちょいちょいとつついた。
いかった顔で、ゲンロウ爺を見下ろしたターガは、そのまますごい剣幕でつかみかからんばかりに言い募った。
「止めるなぁ、ゲン爺!!!
うちの村のやつがコケにされてんだぁ!!!」
「まぁまぁ、落ち着きんしゃい。
別にドランツは可能性があるって言っとるだけじゃて?
真っ向から疑っとる訳じゃねーぞ?」
「し、しかしだぁ!!」
「ター坊」
少し眉を釣り上げながら名を呼んだゲンロウ爺は、なだめるように背中をポフポフとさすった。
すると、ターガは先程までの猛り狂った勢いを徐々に納め、最後には舌打ちしつつも席に座り直した。
それを見て、フガフガ笑いながら満面の笑みを浮かべたゲンロウ爺は、自分の席に戻っていった。
すると、南側の椅子に座っていた男が、ぱちぱちと拍手しながら声を上げた。
「さすがだぜぇーじっちゃん!!!
ターガのオジキを一瞬で黙らせるんだもんなぁ!!」
両足を机に放り投げ、だらしのない格好で椅子もたれながらそういった男。
彼は、南側の村を納める男
この会議に参加する8人で最も若い男。
名を“天智のザック”
商売に聡いものが多い南方の村を納める男で。
派手な上着に派手な短パンを身に纏い、指には大量の指輪、首にもじゃらじゃらとネックレスのようなものをかけていた。
そんな彼の称賛を聞き流し、ブスッとした態度でターガが身を乗り出した。
「なんにしてもだ!
何を根拠にうちのやつがてめぇの村を襲ったってことになんだ!!
説明しやがれ!!!」
「オイラが説明すっぞぉ?」
すごい剣幕でドランツに問いかけたターガに、暢気な声が呼び掛けた。
視線が集まった先には、麦わら帽子を被った一人の男がなぜか立っていた。
男は、泥に汚れた顔と、少しくたびれた手拭いを首に掛け、両手には軍手をつけていた。
彼こそ、北東の町を納める男。
名を“富農のケンド”
農耕に優れ、何時もにこやかかつのんびりした態度をとっている。
彼が手拭いで顔を拭き、1つため息をつくと、ゆったりとした語りで話し始めた。
「オイラもたまたまだったんだがな?
畑見にいったとき、たんのしそうにしてる奴らがおってな??
手ぇー振って挨拶したんだ。
そしたら、あわてて逃げるもんだから何してる~って聞いたらよぉ?
なーんかわめき散らしはじめてな?
とりあえず落ち着かせて話し聞いたらな?
東の町を襲うように西の奴らに脅されたってな?
オイラもびっくらこいてなぁ~?
嘘こくでねー!って叱ったらな?
出てきたんだべ、西の奴らが」
「あ”あ”ん”?」
ターガが、ケンドを射殺さんばかりに睨み付けるが、ケンドは止まらない。
「オイラ思わず呼び止めてまってな?
そうしたらよ?西の奴らオイラに襲いかかってきてよ?
そりゃ、返り討ちだわな?
そしたらよぉ?ちょうどドランツがオイラんとこ来て、事情話したら今回の会合になったって訳だ。
…………んで、なんでターガとドランツ喧嘩してんだ??」
頬をポリポリかきながら、二人を交互に見るケンドを見て、ターガは額に血管を浮かべ、ドランツは空を仰ぎ見た。
そんな様子に、とてとてと何者かがケンドに近づき、肩をトントンと叩いた。
「ケンド兄ちゃん?さすがにそれは無いんじゃないかなぁ?
どう考えても、発端ってケンド兄ちゃんだよね?これ?」
困ったような笑みを浮かべながらそう諭すのは、南東の町を納める少年。
年若い見た目で、少し鋭い目付きをした男で
名を“不滅のケイ”
ここにいる誰よりも根性があり、一度も地に背中をつけたことがないなどの逸話がある。
そんな彼が、今すぐにでも爆発しそうなターガを見て、これまた困ったような笑顔を浮かべた。
「ターガ兄ちゃんも、そんなに怒らないでよ?
ドランツ兄ちゃんも別に西の人達がやったって決めつけてる訳じゃないんだし、ね?」
小首を傾げながらそういうケイに、ターガは唸り声を漏らし、ドランツは再びターガの方を見た。
「ケイもこう言ってる。
私もお前の所の奴らがやったって決めつけたい訳じゃない。
だから、ここで事実を明らかにしなければならない。
理解してくれ、ターガ。」
「うっ、ぐぐぐぅっ……」
歯をギリギリならしながら、ターガは椅子にドカリと座り込み、フンッ!と鼻をならした。
その様子に、安堵の息を漏らすケイと、相変わらずなにもわかっていない様子のケンド。
ケンドはとりあえず、ケイにお礼だけを伝え、再び話し始めた。
「まあ、オイラが知ってるのはそんくらいだ!
後は何も知らねーし、うちのおっかぁにも聞いてみたけんど、それ以外なさそうだっていっとった!
後は話つめといてくれな?
悪いけんど、まだベコたちにエサやってねーから戻るわ!!
ほいじゃ、またのー」
麦わら帽子を被り直し、傍らにおいていた鍬を担ぐと、後ろ手に手を振ってケンドは部屋を出ていった。
その様子に、ドランツはため息を吐き、ターガは手元のコップを握りつぶした。
「ドランツ、念のために聞いてやるよ?
本当に、あのホラ吹きの村で、うちの村の奴らが捕まってたのか?」
「気持ちはいたいほどわかるが、本当だ。
僕がケンドの奥さんに呼ばれて、村にたどり着いたとき、彼は畑にその襲撃犯を埋め終わって、おにぎりお食べてたよ。」
「それが信じらんねーっての!!
うちの村のやつが、あんなトロクサイのに捕まるかよ!!
さらにいやぁ、そんなことするくらいなら、俺が直々にテメェのとこに殴り込ゆでんだよぉ!!」
青筋を浮かべながら、口汚くそういってのけたターガに、ドランツはうなずいた。
「無論、お前ならそうするだろうと僕も理解してる。
だから、なおさら信じられないんだよ。
たしか、捕まえた男達の名を聞いたはず。
おい、ドク!見せてくれ!」
「は、はひっ!たたただいまっっっ!!」
ひどく慌てた様子で手にもっていた紙を机に広げる男。
かれは、ケンドの村の村人で、村長の役職についている男だ。
ケンドはいつも途中退場してしまうため、毎度このドクが会議に参加し、後でケンドに話が持ち込まれる。
そんなかれが広げた紙には、ズラリと文字が羅列されている。
そして、今回ケンドに捕獲されたもの達の名前の部分をみて、ドランツ以外の全員が目を見張った。
「……おいおい、捕まったのって、兄者かよ」
ヤクザとか、あんまり詳しくないんですが、一生懸命やらせていただきます!!