第六話
(ぎゃあああああぁぁぁ!!!)
予想外の出来事に死ぬ気で走る。
(いや、止まったら死ぬガチで、ワームってなに回転してるんですけど!?しかもすごい勢いでスライムを吸引してますよ!!これ引き殺される前に俺も吸われる?無理!いやだ!特別な物が見えてる?馬鹿じゃん俺!?でもさ、でもさ男の子なら憧れるよね?隠し扉は1回叩いたくらいじゃ出てこないと思うよね?ワームに襲われるなんて思わないじゃんね??)
言い訳しながらも必死に足を動かして逃げる。迫りくる巨大なワーム。今度こそ死んだと思いながら気持ち的には涙を流しながら走った。すると右手に横穴を確認する。
(ここしかねぇ!!)
走りながら横穴に近づき跳んだ。ゴゴゴゴォォォォォと大きな音と地面が揺れる。間一髪なんとか横穴に逃げられたのである。
精神的に疲労して呆然と今いた道を見ていたがなかなかワームが通り過ぎない。地鳴りと轟音の中、人の声?と言っても低いウォォのようなウワァァのような今まできたことのない音?声?のようなものが聞こえた気がした。
(えっ?長すぎない?全長どんくらいあんの?人の声?風の音?わからん...気のせい?)
一瞬だけ人の声のようなものが聞こえた気がしたが、ワームが通る音が轟音過ぎて勘違いかスケルトンに声を出せるものがいたのか、出会っていない魔物があげたのか判断出来ないため無意識に考えることを放棄した。
ワームが通り過ぎないまま地鳴りと揺れが収まっていく、そして入ってきた横穴を完全に埋めてしまった。
(どんだけ長いの!?横穴は奥に続いてるみたいだからいいけど...行き止まりだったら...まぁ死にはしないか!
疲労もないし、眠くもない!お腹も空かない...あれ?これって俺すごくない?)
今更ながら自分が疲労と無縁なことに気が付いた。度重なる戦闘、死の恐怖、そして巨大ワームに追いかけられて尚、肉体的疲労が全くないのだ。これはスケルトンになった最大の恩恵かもしれない。
(しかし、美味いものは食べたいなぁ…味覚ないだろうなぁスライムに上から奇襲されたときも味とかわからんかったし、呼吸もしてないし俺...あれこれ生きてる俺?)
最大の恩恵を得る傍らに実は最大の欠点でもあった。生きてる実感が薄いのだった。しかし、魔物を倒したとき僅かだがテンションが上がっているのは快楽物質なるものが分泌されているかもしれない。まだ青年は気が付いていないようだが。
(細かいことは気にしてもしゃーなし!魔物を倒すそして進化する!当面の目標はここ!死ぬのは恐いし安全に気を付けて先に進もう。でも人の集落なんか行ったら俺はきっと討伐対象だよなぁー。進化先に人間みたいなのないかなぁ)
当面の目標、といっても先に進みつつ魔物を倒すだけなのだが進化して人に紛れても違和感のない体を得ることを目標に覚悟を決める。
横穴は奥に続いていた。普通なら暗くて見えないはずだが、洞窟内は淡く光っているため視界の確保は難しくない、奥まで見えないのでとても明るいわけではないが...
この道には分岐の道が多く存在した。勾配の道もあり、平面だけでなく立体的に入り組んでいる。
(これ、脳内マッピングでどうこうできる気がしないな、何回か曲がったらもう元の道わからん気がする。
機能するかは置いておいて石でも置いて様子をみるか)
歩くこと数分、横の壁に違和感が起こった。微かに音がする気がしたのだ。ガガガッのような岩の壁を砕くような
(なんだ?変な音が...)
一度足を止めて、音の異常を確認しようと壁に一歩近づいてみる。するとそのとき、ボコッと壁が盛り上がり
シャァァと声と共に小さいワーム(小さいと言っても肘から指先まであるので先ほどのワームに比べたらだが)
が飛び出してきた。
反射的に後ろに倒れ、頭上を飛ぶワームは岩を砕いて突撃するくらいなので当たって嚙みつかれたらどうなるか想像は容易い。しかもほぼ奇襲なのだ。次はどこから来るか焦りながら警戒し辺りを見渡した。
(四方が壁、この洞窟はさっきより狭い、音がするとはいえ反響もあって正確な位置が読みづらすぎる!危険ばっかりもうやだ...)
現在の洞窟は横並びで青年二人分、天井は3m程しかない奇襲ポイントが多すぎる。泣き言も言いたくなるのは仕方ないと言える。
しかし、相手の壁の中での速度もわからない、走って逃げても追いつかれ複数のワームに襲われる危険があるならばここで相手にしてしまいたい。
覚悟を決め、四方の壁に神経を集中する。右手に手頃な石を持って次の奇襲を待つ。
(...)
ガガガッの音の後、ボコッ飛び出して来る音が聞こえた!真下だ!重力の関係上先ほどより、速度が落ちている。
真下から来ることを飛び出し前に察知出来たため、一歩下がっていた。位置的に右足で横蹴りを放つ。
プギャァ、と気持ち悪い声をあげ壁に叩きつけられたが、致命傷とは程遠い。地面に潜ろうと体をくねらせていたためすぐに追いつき、右手の石で叩きつける。
(キモいんじゃぁ!)
小さい悲鳴を浴びながらも何度も石を叩きつけ、動かなくなった。久しぶりに淡い光が自分に入ってくる。
(おお!こいつは経験値くれるのか!嬉しい!しかし、スケルトンとスライムしか倒してなかったからワームはグロいし倒すというよりは殺すだな...少し良心が傷んだわ。いや、生きるか死ぬかなんだ諦めよう。)
体液を浴び、グロテスクな惨状を自分の手で作り出した手前、ここに来て初めて何かを"殺す"実感をした。命のやり取りをしているのでこれからも青年は同じことをするが、慣れるまでは心情は穏やかではないだろう。
気持ちを切り替え、歩き出して数分足音が聞こえた。方向は恐らく右側前方、もうすぐ曲がり角があるのだ。
向こうもこちらの気配に気が付ているとは思うが、足音の間隔に迷いはなさそうである。
(人間?スケルトン?警戒心を感じない...こちらの足音に気が付いているはずだが、余裕の足取りか?なら仕方ない。奇襲するしかない。殺られる前に殺れだ!)
この状況を奇襲というのか定かではないが、右側の曲がり角手前に張り付き足音の本人を待つ。視界に入った瞬間に石で攻撃する作戦だ。
(こえぇー、心臓ないからそこまで緊張もないのが、この奇襲が正しいのかもわからん。逃げるべきだったか?
)
直前になり怖気づいてくる青年、しかしもう遅い足音はすぐそこまで迫って来ていた。足音が角に差し掛かり、
視界に入った瞬間、左手の石で攻撃する。視界に入ったのはスケルトンだった。だが...
ガキィィィン
スケルトンは左手に持っていた盾を持ち上げ奇襲を防いできた。そして右手にある剣を振りかざす。
(やばっ!死ぬ!)
弾かれた衝撃をそのままに後ろへ飛ぶ、後転し距離を取ったが剣を振った音と地面にぶつかる音が聞こえた。
体勢を立て直し、スケルトンを見るが先ほどまで自分がいた場所に剣があり背筋が凍る。
(危なかった…武器持ちのスケルトンは聞いてないっす!戦闘素人の俺はこの後どうしたらいいでしょうか?)
気持ち的に泣きながら絶望する。武器を持つ相手に素手もしくは石だけで勝てる気がしないのだ、しかも相手はレッサーじゃない自分と同じスケルトンの可能性が高い。骨のカラカラした音がしない。
睨み合いが続く中、後ろに転がったことにより壁に近い、左手で壁を叩き続けて後ろに少しずつ後退した。
ゆっくりと確実に武器持ちスケルトンは近づいて来るが、走っては来ない。
(頼む、今思いつくのはこれだけだ。早くしてくれ死ぬ。)




