第四話
ゴオオォォォ
聴覚が戻ったときは大きく聞こえていた地響きのような音も少し時間が経った今では集中していれば意識の範囲外にできるほどの音となっていた。
ほぼこの音しかしないので常に聞こえてはいるのだが…
(スケルトンに関してはいい、あいつらは動きも遅いし攻撃も単調だから。しかし、犬型は怖い
いくら動きやすくなったとは言え従来の体に比べてまだまだ拙い部分が多すぎる。あのスピードで来られたら対応するのは難しい…)
その後、何度かスケルトンに遭遇したが動きは遅い、ある程度近づいて視界に立たなければ襲って来ないことを検証した。
(視界がどっちか一目ではわからないのが難点ではあるが…)
淡く光る人型に見えるのは相変わらずの為、相手のの視界に入ったかは襲い掛かって来る奴と襲い掛かって来ない奴の違いで見極めた。
どうやら最初の自分のように聴覚なるものがスケルトンには備わっていないらしい。
(比較的早めに俺が聴覚を手に入れたってことは他のスケルトンも何体か倒した奴は聴覚があると思っていいな。ほぼ動かない奴らは何体も倒して強くなるの厳しくないか…?体はすぐ壊れるし。まぁ強い奴いても困るから俺はいいいんだけどね!)
どれだけ時間が経ったかわからないが、視界についても分かったことがありどうやら淡く見えてる範囲も
とても狭いようだった。
(体感数十m先が見える程度だなこれ、進むとすぐスケルトンいるし俺が進む速度も前世で歩くより遅いくらい)
青年のいる空間は淡く光る洞窟のような場所?(質感もわからないので断定できないが)で横幅的には
自分が十人並んでも大丈夫なほどは広く天井に関しても手を伸ばしても手持ちの骨を上に上げても届かない
(天井については骨を投げて確認してもいいが、犬型をおびき寄せるのだけは危険だ、振り回しても大丈夫なのが分かればとりあえずはいいか。にしても触ってる感覚もないから持っているか手元を見て光ってない物体を確認する以外ないのが不便だなぁ)
とりあえず、辺りを警戒しつつ少しずつ前に進む、割と高頻度にスケルトンはいるので襲い掛かってこようが佇んでいようが手当たり次第に倒していく。
10体程スケルトンを倒して遭遇することもなく進んでいると
(あれ?なんか見えるな?片方は人型だからスケルトンだとしても、もう片方は丸い光?)
見えたのはスケルトンの足元にある丸い光、スケルトンの人型よりほんの少しだけ光が強い気がする。
その丸い光は少しへこんだり丸に戻ったりしてスケルトンに近づいているようだった。
(動き方からしてスライムか!スライムと言えばファンタジー的立ち位置は大体弱いのが定石だが…逆に強いものも存在する…とりあえずもう少しだけ近づいてスケルトンとの戦いを見守ろう)
良く見える距離まで近づいてスライムとスケルトンを観察した。スライムはスケルトンの左足にくっついている。近づいてきたスライムに右腕を何度も叩きつけているようだが、弾き返されているのかスライムは少し揺れるだけで微動だにしない。そんな時、不穏な音が聞こえ始めた。
ジュウウゥゥゥゥ
恐らくだが左足が溶けているのだ。体感十数秒後、左足が無くなりバランスを崩したスケルトンは倒れる。そんなスケルトンを見逃すわけもなくスライムは徐々に全身を覆っていき溶かし始めた。
(やばいやばいやばい!!ナニアレ無理ゲーじゃん!溶けてるこわい!!ジュウジュウ言ってるもの!
よし!引き返そうそうしよう!早かった俺にはここは早かったんだ)
流石に先程犬型に襲われた経験もあり後方に何もいないことは確認している。あのスライムがスケルトンを溶かしている間に戦略的撤退を考えて早々に立ち去る。
歩くことしかできないので少しずつだが…
危機管理も万全と思われたその時、歩き出したすぐ右側からベチャッとした音が聞こえてきた。恐る恐る右側を見ると丸い光…絶望である。
(噓だああぁ!?完璧だったよね!?左右確認、前後確認までしましたよぉぉぉ??交通安全大臣も夢じゃないばりの安全確認して撤退しましたけど???どこから現れましたか?ええええーーー?)
パニックである。痛みはないとは言え溶かされたくはない、攻撃は効かないであろう攻略方法謎のスライムに奇襲され、戸惑いと怒りが綯い交ぜとなり青年の心を支配した。急ぐことも出来ず、すぐ近くにいるスライムは青年の右足にくっつき始めた。
ジュウウウゥゥゥゥ溶かされている音と共に恐怖が押し寄せる。
(なんで?やめてくれ!!溶かさないで!!!)
パニック状態の青年は右腕で叩くのではなく殴り付けた。ベチャッとした音と共に丸い光の中に入る腕その途端にジュウウウゥゥゥゥと右腕も溶かされ始める。
引き抜く力もバランス感覚すら曖昧なスケルトンにその拘束から逃れるすべはなかった。
(今度こそやばい!溶けたら死ぬ!死んだらどうなるんだ!!??いやだ!!!)
パニック状態になり現実逃避を始めたが、スケルトンは瞼を綴じることは出来ないパニック状態でも視界の情報は入ってくる。右足と右腕、両方取り込まれていることから青年顔面はスライムに近い。
距離が離れていては見えなかったがスライムの中心に光が少しだけ強い小さな玉があることに気が付いた。
(まさかこれは!!)
やけくそで溶かされ始めた右手を使い小さな丸い物体を握る。少しスライムがびっくっとした気がするがお構いなし、溶け始めた右手ではギリギリ握ることができても壊すことも外に出すことすら出来なかった。
左手にまだ骨を持っていることを確認し逆手に持ち替えて右手に持っている小さな玉に向かって突き刺す。狙い通り骨の先端で突くことができ、小さい玉崩れ光が目の前を支配した。
(あぶねぇ…何とかなった…やっぱりあの小さい玉がスライムの核だったわけか…後ろのスライムはどうなった?)
右側の腕と足が解放され、一息ついたが嫌な予感がして後ろを振り向く。やっとの思いで倒したスライムだったが、後ろには先程スケルトンを溶かしていたであろう別のスライムが迫っていた。
(連戦かよ!クソッ!核を付かないと!!)
先程使用した唯一の武器である骨はスライムを倒した際に溶けてしまった。今は素手のみ、目の前に来るスライムから逃げる程の敏捷性も地面から骨を探す時間もなかった。足元まで迫ったスライム骨を溶かされるのも時間の問題だった。
(イチかバチかやるしかねぇ!痛みは無いんだ!気合いだ!)
顔をスライムに近づけ核の場所を探す。見つけた瞬間、両腕で核を掴む。ジュウゥゥと骨の溶ける音を無視して両手で力の限り核を掬い上げる。勢い余ったことと度重なるスライムの攻撃により脆くなった足は大腿骨辺りから折れた。持ち上げる力と足の折れた勢いでスライムの核を体内から出すことに成功、倒れて上半身の骨が地面に叩きつけられ折れる音が聞こえた。
(これは、流石に死んだかも…)
諦めの言葉が胸をよぎったが、スライムの光に目の前が包まれると倒れた自分の四肢が復活していることに気がつく
(ん?また治ったか?定期的に全回復するこの仕組みはもしやレベルアップで全回復?ステータス見れないの?)
素早く、立ち上がり自分の四肢を確認する。
(問題なし!しかし、いつもレベルアップするわけじゃないから特攻も考えものだなぁ。痛みはないからもう少し溶けにくくて力があればスライムはそんなに脅威じゃないか。現状逃げられないから特攻するしかないのが恐すぎる。ステータス見る方法とかないんかなぁ)
自分の現状を客観的に見られるステータスが存在していれば、かなり動きやすくなるがそんなチートのような能力は青年には皆無であった。
考え事していても撤退する方針は変わらず、常に動き前進している度重なる奇襲と窮地でその場にとどまることは危険と判断していた。
(そういえば、2体目のスライムは後ろから来たからいいとして1体目はどこから来たんだった?まさか…)
不意にそんなことを考え、天井に目を向ける。そこにあったのは淡い光などではなく光一色だった。何が起こっているか一瞬すぎて青年はわからなかったが、落ちてきたのだスライムが天井から。
(この光、スライム!?天井から??これはまずい!)
焦った青年は無意識に歯を食いしばった。青年の運がいいのか、スライムの運が悪いのかはたまた両方か
歯食いしばった時、パキッっと音が聞こえた。
今までで一番眩しい光に当てられて違和感を覚えた時、頭に声が聞こえた。
『レッサースケルトンからスケルトンへ進化しました。』




