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想像力×創造力  作者: 一狩野木曜日
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さぁ、想像しよう




「おーい遅いぞ河瀬」


急かすような野太い体育教師の声。僕は精一杯校庭の大地を蹴る。

そうだ。これが僕の最高速度だ。

友達も女子もみんなとっくにゴールしているが、僕には関係ない。

なんせ、僕とみんなの目標は、明確な相違が存在するのだから。

みんなは友達と競い合っている。

だが僕は、ゴールだけを見据えているんだ。

え?言い訳だって?

しょうがないじゃないか。僕はこんなにも足が遅いんだから、言い訳の一つや二つくらい言ってないとやってられないんだよ。


「早くゴールしろ!!」


体育教師の声に「そうだそうだ」と言わんばかりの生徒たちの目が僕に降り注ぐ。

そんなこと言われても、これが最高速度なのにこれ以上どうすればいいって言うんだ。

僕の進行方向を逆行する春風が容赦なく僕に打ち付けられる。

なんやかんやと言いながら僕は、無事ゴールにたどり着いた。

と同時に膝に手をつく。

限界のようだ。頭が痛む。


「おい河瀬、この間よりタイムが1分も遅くなってるぞ。本当に真面目に走っているのか?」


当たり前だ。僕だって一生懸命走っている。大体、足の速さなんて個人差があるじゃないか。

いくら頑張っても9秒台が出せない陸上選手がいると同じように、どんなに本気で走ってもこのような結果になるものも中には、絶対にいるはずだ。

僕が考えた独自の理論を、他人にひけらかす気力も今はもうなくなっていたので、みんなが規則正しく並んでいる隊列の中に潜り込むことにした。


僕の名前は河瀬夢夜。

私立高等学校「ミーリャイ法人真灯坂学園」の1年生だ。

学校の名前がおかしいという点については、きりがないので触れないことにしておく。

容姿に関しては、黒髪、中身長、顔普通。言わば普通を極めた男だ。そう言うと聞こえはいいが、友達から「お前、本当に普通だよな」

と言われた時は、さすがにショックだった。だけど、変に目立つよりはましなので今は、この容姿のことを意外と気に入っている。別にナルシストってわけじゃないからね。

友達は?と言われると今横にいるこいつが挙げられるだろう。

名前は「伊達豪太」。トップクラスの陽キャだ。

こんな陽キャが、陰に隠れた僕の横にいるかと言うと

僕は、こいつの秘密を知っているからである。


「なんだよ夢夜。そんなに俺のこと見つめて、あ、まさか俺に惚れちまった?」


それは、ないと張り切って言える。

あ、言い忘れていたが、今は下校中だ。下校中とは言ってもまだ、学校の敷地は出ていない。

帰りたてほやほやだ。

少し、脱線事故起こしたが話を戻そう。

えーと、何の話だったっけ?そうだ。豪太の秘密の話だ。

実は豪太、こう見えて根っからのアニオタなのだ。

教室では、アニメなんてくそくらえなんて抜かしてる割には、週末になるとテレビにかじりついて、どっぷりアニメの世界に浸っているというとても質が悪いタイプのオタクなのだ。

え?なんで僕がそれを知っているのかだって?

知ってるも何も豪太自ら僕に自白してきたんだ。俺は、アニオタだって。

言われた時は耳を疑った。あの豪太がアニオタ?それに豪太がアニオタだったとしても、それを僕に言う意味はあるのか?

数え切れないほどの疑念が僕の頭には浮かんだが、アニメを語る仲間が欲しかったという理由を聞いて十分すぎるほど納得した。

僕も一応アニヲタなのでその気持ちはよくわかる。

この感動を誰かに共有したい。この欲求は、時に抑えきれなくなるくらいに大きくなる。きっと、この時の豪太は人に言いたくて仕方がなかったのだろう。

ちなみに、その日語り合った作品は、「もちもちもっちの友達」というものだ。

特に若年層からの支持を多く集めている作品であり、内容としては餅に生まれ変わった主人公がもち友達をたくさん作って、仲良く暮らしていくというほのぼのとしたものだ。

この作品を語り合ったのを機に、僕たちは怒涛のペースで色々な作品について話し合っていくことになる。

朝、学校に着いたらとりあえず1作品話す。

昼、休み時間はずっとアニメのことばかり。

夜、電話でコーラ片手にアニメを語る。

豪太は、僕が横にいる時にはアニメのことだけをずっと喋っていたのだ。

だけど、どうやら豪太のアニメ愛は最近ピークに達したみたいでアニメのことををなかなか話してくれない。

今だってそうだ。昔だったら、下校の時間でさえもいとまなくアニメのことを喋っていたっていうのに。

人は、いつかは変わるもんなんだな。

そんなことを思いながら、豪太に目をやる。

あれ?

横に人が一人増えている。見たことない顔だ。


「あぁ、新城先輩。」


と、豪太が言うくらいだから名は新城というのだろう。

それにしてもこの新城って人、背が高い。背が高めの豪太でさえも新城って人が横にいるってだけで豪太がいくらか小さく見える。

これが、小顔効果のメカニズムなのか。


「よ、豪太」


新城は豪太の肩に手をポンと置く。


「あれ?部活どうしたんですか?」


と、豪太は言う。


「今日は久しぶりのオフでな」


「なるほど」


豪太は、いかにも納得したかのような顔つきで頷く。

で、誰なんだ?この人は。


「ねえ、この人誰?」


僕は、豪太の耳元に小声で囁くように言った。当然新城って人に聞かれないようにするためだ。


「知らないの?野球部のエースだよ。」


豪太もまた小声で言う。

野球部のエース?なるほど、だから坊主なのか。


「あれ?そういえば、横にいる地味めな人

誰?」


と新城は言う。

あぁん!?誰が地味めな人だって?初対面でそれはないだろ。あんた野球部のくせに、礼儀のひとつも知らないのか。

ふつふつと湧き上がる怒りを必死に堪えて、僕は自己紹介をする。


「僕は、豪太の友達の夢夜です」


「ハハッ この上なくお堅いなぁ」


そう言って新城と豪太は、同じ波調で笑う。

何がおかしいのかよくわからない。これだから陽キャとはあまり関わりたくないものだ。

陽キャ耐性がないから。

一通り笑い終えた豪太は、また口を開く


「こいつ1500 M 走、めちゃくちゃ遅いですよ。」


「ははっ 本当か?」


何余計なことほざいてんだ豪太。後で絞め殺そう。


「まあ、色白だし走れそうにもないもんな」


さっきからこいつ、新城。僕のことディスりすぎじゃねえか?。と言うかさっきからこの二人、確変が来たかのように僕を狙いすぎだ。

標的が豪太に変わんないかなと思ったところで豪太が言う。


「でも、こいつすごいんですよ」


「何が?」


新城は首を傾げる。


「こいつ、アボカド出せるんすよ。」


「アボカド?」


新城は、眉をひそめる。まだ理解が伴っていないようだ。

それは、僕の唯一の特技だ。アボカドを出す。


「だからこいつ、パッて手かざすだけでアボカド出せるんすよ」


「は?」


新城はまだピンと来ていない。まあ、当然といえば当然なんだけど。

豪太の説明が下手っていうのもあるかもしれない。


「あーもう。じゃあ、見てもらった方が早いですね」


ん?聞いてないぞ。この流れって、今から俺やんないといけないパターンだよね。


「あぁ、結構見てみたいかも。夢夜、やってみせてよ」


新城は、輝く目で僕を見る。

できないできない。そんなに急にやれって言われても無理だし。


「できないですよ。そんな急に言われても。それに、ここじゃ人が多すぎます」


僕がそう言うと、輝く目を保ったままの新城が被せる。


「じゃあ、場所変えればいいじゃないか」


「そうですけど…」


その反論はスケジュールになかった。


「確かに、その通りですね先輩。あの人通り少ない校舎裏とかいけるんじゃないですか?」


「そうだな」


うまく切り替えされた上に豪太まで賛同してきたので、に反論する余地は残されていなかった。


「ということで、夢夜、見せてくれるんだよね?」


と新城は言う。


「…はい、わかりました」


僕は、もうこれしか言う言葉が見つからなかった。

認めるよ。僕の負けだ。

ということで、僕たち3人は帰路を逆行して校舎裏に向かうことになった。

僕は、校舎裏に行ったことがない。

実際、校舎裏に着いてみると思っていたより広いことに驚いたが、それ以上にコケの匂いがすごかった。

新城と豪太は、近くの石段に荷物を置いたので、僕もそれに従う。

荷物を全て置いたところで新城は言った。


「じゃあ、早速見せてよ。」


「わかりました。」


僕はしぶしぶ手をかざす。

そもそも、この能力、豪太以外には見せたことがなかった。なんとなく見せびらかすのは良くないと思ったからだ。


「行きますよ」


新城と豪太は固唾を呑んで僕を見守っている。

僕は目を瞑った。

アボカド…アボカド…アボカド…

頭の中で何度もアボカドを反芻する。

すると、僕のかざした手の先に変化が起きた。時空が歪んだのだ。

そして、じんわりと何かの影が何もない空間に浮かび出てきた。

その影は次第に濃くなっていき、やがてその影はアボカドの形をなす。


「おぉ!すげぇ」


これが僕の特殊能力 アボカドを出すだ。

僕が出したアボカドは重力に逆らえず、ポトッと地面に落ちた。

新城は、そのアボカドを拾う。


「本物じゃんかよ。お前どんなたね使ったんだ?」


たねなんてない。いや、アボカドの中には確かに種があるんだけど。


「たねはないですけど、なんか気づいたら出来ていました。」


という僕の言葉に豪太は反応する。


「こんなのやろうと思ってできるもんじゃないだろう」


僕だってそう思っている。何もないところからアボカドを作り出すなんて、半ば神の領域だ。

とはいってもこの能力、くそというほど使い道がない。どうせなら、もっとFIRE BALLを打てるとか、蘇生魔術を使えるとか、有意義に使えそうな能力が欲しかった。


「あーいいなあ。俺もこんな能力が欲しかった」


豪太は、アボカドを眺めながらそう言った。


「なんで?」


僕は思わず聞き返してしまった。豪太からそんなことを聞いたのは初めてだったからだ。


「だってさーお前にしかできないことなんだぜ、これ。」


まあ、そりゃそうだろう。僕以外にアボカドが出せるって人を見たことも聞いたこともない。


「でも本当に欲しいと思う?だってアボカドしか出せないんだよ」


僕は言った


「能力がどうって話じゃないさ。ただ自分にしかできないという響きだけでかっこいいだろ?」


「そうかな…」


僕は初めてこの能力について少し、考えてみようと思った。

一連の会話を聞いていた新城は言う。


「俺もアボカド、出せるかもしれない。」


新城は、遠い空を真剣な眼差しで眺める

新城。お前は無理だ。


アボカドの一件も終わり、僕はやっと家にたどり着いた。

僕は、家に着くとまず、荷物を放り投げて手を洗う。

手を洗ったのと同じ足で僕は2階に上がり、自分の部屋の扉を開ける。

実に無駄のない効率的な動きだったと言えるだろう。

家に入ってから自分の部屋まで、確かに20秒もかからなかったはずだ。

そんな自分の才能にやや気分があがったものの、部屋の扉を開けた瞬間その気分は一気に地に落ちた。

部屋が散らかっているのだ。

別に、日々の生活がだらしないってわけではないが、掃除をしない故の慢性的な散らかりがここでは起こっている。


「あぁ、掃除しないとな」


と言いながらいつもしないのが恒例行事となっている。

いつになればこの部屋が片付く時が来るのだろうか。

そんなことを僕は思いながら、散乱しているものを避けつつ自分の定位置に向かった。

僕の定位置には、クッションが敷かれておりまるでそこにだけ局地的な雷が落ちたかのように、そこだけはきれいに片付けられていた。

僕のこだわり。自分の定位置だけはいつ、何時とも綺麗にしておくと決めている。

なぜかと言うと、快適な環境でアニメが見たいからだ。

それ以外に理由はない。

僕は、そのクッションに座りとりあえず一息つく。


「はぁ…」


それとなく棚の上に飾られた写真が気になった。

あれは…あの、僕が中学時代にサッカーをしていた時の写真だ。

写真には、ユニフォーム姿でチームメイトと笑っている僕が映っている。

あぁ、まだあの頃は笑顔が生きているな。

こう見えて中学生までは、バリバリのサッカー少年だったのだ。僕は。

しかし、サッカーをやっていた日々は輝いていたのかと言うと、そうでもなく、どちらかと言うと苦い思い出の方が多かった。

今はそれを思い出す気力も体力もないが、サッカー生活が決して楽ではなかったということは、今でも鮮明に覚えている。

僕はその苦い思い出から逃げるように目を離した。

母さんが洗い物をしているのか、少し遠くからぼやけた水の音が聞こえてくる。

その音を BGM に、僕には一定期間の沈黙の時間が訪れた。

ただ無心に浸っていると、ふいに悟りから目が覚めたように何かを思い出す。

そうだ。アボカド能力の使い道について研究するんだった。

僕は、家に帰ったらアボカドを出す能力について研究しようと考えていたのにも関わらず、普通に忘れていた。不覚だ。

ということで僕は、研究をするために姿勢を正す。

姿勢を正すまでは良かったのだが、何から取り掛かればいいのか全くもって分からない。

アボカドを出すことについて研究したって人を聞いたことがないからだ。

うーん。どうしましょう。

僕はあれこれ考えた結果、アニメから着想を得ることにした。

僕が知っている中で異能系のアニメといえば、やはり「銀杏蝶の魔法使い」であろう。

この作品は、主人公が元々持ち合わせていた特殊能力をどんどん強化していき、最終的には最強戦士に大成していくと言う若干テンプレートじみている作品だ。

この物語では多くの訓練シーンが登場しているが、その中で主人公が初めに行った訓練は確か、「MP 上げ」

だった気がする。

僕は、見終わったビデオが無雑作に押し込まれている箱を漁った。

必然的にその箱はガサゴソと音を鳴らす。


「あ、あった」


僕は、タイトルが「銀杏蝶の魔法使いvol,1」と書かれているDVD ケースを箱から引っ張り出した。

久々に見たなこれ。

その DVD ケースの表面には、薄い埃の層のようなものがまとわりついており、この DVD がいかに使われていないかを風刺しているようであった。

すかさず僕は、DVD ケースの中からディスクを取り出し、DVD プレーヤーに差し込んだ。

いつかに流行ったテーマソングを久々に聞いてみたいという気持ちもあるにはあったが、今は目的がそれではないので、早送りすることにした。

ピーチクパーチクと甲高い早送り音が部屋中に鳴り響く中、僕はお目当てのシーンを見つけた。

以下、アニメの場面なり。


「師匠、私の MP を上げるには、どうすればいいんですか?」


ロンネイ(主人公)がそう言うとシャンジン(師匠)は、少し間をあけてから言葉を放つ。


「あんたは、まず自分の限界を知れ」


「限界?」


ロンネイは首をかしげる。


「そうじゃ、限界も知りもせんうちに能力を上げることなんて、できないじゃろう?」


「確かにそうですね」


ロンネイは納得したような顔つきでシャンジンを、まっすぐ見つめる。

と、ここで一時停止。

なんとなくこのシーンで答えらしきことを言っていた気がする。

予想以上に即効性があったことには驚きだ。

ありがとう。シャンジン師匠。

えーと。アニメの中では、「自分の限界を知れ」と言っていた。この言葉は今の僕にも置き換えることができるだろう。すなわち、僕がまず手始めにすることはズバリ、限界を知ることだ。限界の調べ方は単純明快で、ただアボカドを出せるだけ出せばいいだけ。

目的が分かった以上、それを実行するまでだと僕は早速、手をかざした。

暗闇の世界に溶け込んでいくように僕は、ゆっくりと目をつむる。

アボカド…アボカド…アボカド

少し手こずったが、お目当てのアボカドを出すことに成功した。

これで今日作ったアボカドは合わせて2個になる。

ここからは前人未踏の3個目だ。

僕は、意気込むように大きく深呼吸をした。やったことがないゆえに、ここから先がどうなるか全く見当もつかない。

半分、好奇心。もう半分が恐怖心という心持ちで、僕はまた手をかざした。この実験は単に自分の限界を知るだけではなく、自分の可能性を見つけるという意義もある。その可能性を広げるためには、少なくとも三つくらいは出しておきたいものだ。

出来る限りの期待を込めて、僕は瞼を閉じた。

アボカド…アボカド…アボカド

実体のない影は、だんだんと実体を帯びてくる。

それを確認したところで僕の記憶は完全に途切れてしまった。


「うっ…うう…」


僕は目を覚ますと寝室にいた。どうやら気絶してしまったようだ。


「夢夜、大丈夫?部屋で倒れてたからびっくりしたのよ」


母が心配そうな顔をして、僕を見る。


「大丈夫だよ母さん、ありがとう」


「そう?大丈夫ならいいけど。じゃあ、夕飯の準備をするからここでもう少し寝ときなさい」


「はーい」


そう言うと母は、寝室から出ていった。

そう、僕は気絶したのだ。僕の読みが間違えていなければ、この気絶は「MP 切れ」を意味するのであろう。この実験で分かったことは、僕の MP が極端に少ないということだけ。可能性が広まるどころか、逆に狭まった気がする。

なんなんだこの能力。使えない上にちょっと使っただけで気絶まで追いやられるのか。こうなると本格的にこの能力の使い道がわからなくなってきた。

いや、そもそもこの能力の活路なんてないと思うんだけど。

こうやって能力と向き合っているとだんだんとこの能力に愛着が湧いてきた気もしなくもない。

そう思うとこの能力を、なんとしてでも活かしてやりたいとも思えてきた。

だが、いくら僕の思想が変わろうとも現状はそう簡単に変わるものではない。

現実は甘くないのだ。

では、今の僕は何をすべきか。そう、考えることだ。

考えることをやめなければ、いつかは真理にたどり着くはずだ。僕はそう思い、考え続けた。

すると、ある数学教師の言葉が頭の中できらめいた。


「答えが出ないのであれば、発想の転換をお勧めします」


そうだ。あの数学教師はこんな事を言っていた気がする。

よし、発想の転換をしよう。

えーとまずは根底から覆すんだ。この能力は、「アボカドを出す」というものだけど、ここで発想の転換を駆使して実は「アボカドを出す」ではなく、「何でも出せる」という能力だったと仮定することにしよう。

これで合ったら調べることも可能そうだ。

早速、調査に入ろう。と言いたいところだが、僕にはもう MP が残されていない。

なので調べることもできないのだ。仕方なく僕は学校が休みである明日に調査を持ち越すことにした。


朝9時。遮るものがない空の上から、太陽という名のスポットライトが僕の部屋に容赦なく降り注いでいた。

普段はただ眩しいと感じるだけだかもしれないが、今の僕にはその全てがモチベーションに変わる。

と、かっこつけはしたものの、実のところを言うとカーテンを閉めるのがただ面倒くさかっただけだ。

お詫びを申し上げる。

とりあえず僕は十分に寝て、光合成もして元気いっぱいになった。

今なら、昨日言っていた調査を実行することができる。

今日行う研究は、「アボカド以外の物を出せるのか」

というものなので、まずはアボカド以外の出すものを決めなければいけない。

僕は、散らかった部屋を360°見渡した。

それとなくベランダの壁に立てかけられている黒い傘が目についたので、僕は傘を出すことに決めた。

しかし、この傘を出せるのと出せないのとでは天地の差が生まれる。

万が一、この実験が成功して傘を出すことができた場合、この能力の可能性は ビックバンのように広がることであろう。

そんなビッグプロジェクトを成功させるべく僕は、手を前方に突き出した。

今までのとは訳が違う。

僕は、ゆっくりと目をつむって黒い傘を頭の中で思い浮かべた。

黒い傘…黒い傘…黒い傘

この感覚…どこかで感じたことがある。体の内側が熱を帯びてくるのだ。

そうだ。いつもアボカドを出す時の感覚だ。これは、いけるかもしれない。

僕はこれまでにないほど、力を込めて最高のないものねだりをした。すると、何か細長い影のようなものが出てきた。

これは半分成功ではないかと思われたが、虚しくもその影は虚空に溶け出してしまった。つまり失敗だ。

だが、この失敗には多くの可能性が秘められており大きな意義を持つものでもあった。


「もう少し頑張れば…確実にできる」


期待が確信に変わった僕は、これから毎日傘を出すための練習をする事にした。この能力の可能性を信じて。

学校から家に帰るとすぐに傘を出す練習を始めて、日が暮れるまで特訓を重ねる。僕はそんな生活を数日間続けた。

決して楽なものではなかったが、ここまで続けることができたのにはれっきとした理由がある。あの時、豪太の言っていた言葉が絶え間なく蠢いていたからだ


「ただ自分にしかできないって響きだけでかっこいいだろ?」


こんな何気なく言った友の言葉に、僕はばかばかしくも確実に突き動かされていたのであった。

そうだ。これは僕にしかできないんだ。

あのスポーツ選手も、あのイケメン俳優もこの能力は持ち合わせていない。その事実だけで、自分がイルミネーションの一粒のように輝いて見えた。

今は確かに淡い光かもしれないが、もし、この傘を生み出すことができて、その光を何倍にでも強大化させることができたなら、僕はいつか他人をも照らす灯台になれるかもしれない。

そんな希望があったからこそ僕は、こんなにも馬鹿げた能力に向き合うことができたのだ。

そしてついにその日が来る。来るべき日はあいにくの雨だった。

僕は目をつむり、大きな深呼吸をした。


「行くぞ…」


かざした手の先には、細長い影がいかにも具現化しそうな勢いで濃くなっていっている。あともう少し。

僕は、最後の力を全身全霊この影に捧げる。

そして!!ついに長い道のりに終止符を打つような出来事が起きた。

実体のない影は、とうとう雨を防ぐ道具に変化したのだ。


「で…できた…」


僕は不覚にも膝から崩れ落ちてしまった。いや、本当にそれくらい嬉しかった。

この瞬間無意味だった能力は、とても有意義なものになったんだから。

あの頃目指していたサッカー選手にはなれなかった。

1500m 走はダントツのビリだった。

だけど僕は誰にも真似できない特殊能力を手に入れたんだ。

並々ならぬ思いを僕は持ちながら、黒い傘を手に取った。


「うおぉーちゃんと傘だ」


僕が作った傘は、普通に使っても差し支えなさそうな丈夫な作りになっていた。もしかするとメイドイン夢夜で売りに出せるかもしれない。

不意に目頭が熱くなる。


「僕…できたよ」


その一言だけが部屋中を這うようにこだました。



あれこれあって、アボカド以外の物を出すのに成功した僕は、充実感に満ち溢れていた。と同時に、誰かに自慢したいという気持ちに明け暮れていた。

僕は我慢できなくなったので、学校で豪太にこのことを話した。予想以上に大きなリアクションに嬉しさもあったが、案の定「じゃあ見せて」ということになる。

だから今日は豪太の家に行ってこの能力を披露しないといけないのだ。家のリビングでお出かけの準備をしていると、ソファーでリラックスしてテレビを見ている母が、僕に話しかけてきた。


「ねえ、見て夢夜。この犯罪件数のグラフ」


そう言って母は、テレビに映し出されているグラフを指差す。僕は、荷物をバックに押し込みながらそのグラフを見た。


「ほら、犯罪件数が去年よりも3倍に増えてる」


「あぁ、本当だ」


そういえば、前より日本はいくらが物騒になったよな。何のせいかはよくわからないがまあ、治安が悪くなった。


「怖いわねー。夢夜も犯罪には気をつけなさいよ」


と母は言う


「大丈夫だよ。なんせ僕は地味だから、何にも巻き込まれないって」


「いやそうじゃなくて、あなたが犯罪をしないように気をつけなさいよって言ってるの」


は?僕が犯罪なんてするわけないじゃん。前科持ちですか僕は。

「しないよそんなの」と僕は呆れた顔で言い放った。


「あらそう。ならいいけど」


母さんはいつもそうだ。世間知らずとまでは行かないが、だいたい何かがずれている。まぁ、まだ日常生活に支障をきたしていないくらいだからいいんだけど。

一通り、準備が終わったので集合時間まではまだ時間があったが家を出ることにした。

母さんの「気をつけなさいよ」の言葉に一応「うん」とだけ答えて僕は玄関扉から外へ出た。

空模様は、全般的に雲が広がっていてどんよりとしている。だが、その代わりにその雲と雲の隙間に時々見られる青い空がひときわ目立っていた。

そんな空の下のアスファルトを僕は、一歩一歩踏み慣らしていく。

今は春なので、いたるところで桜が咲いておりピンク色をした花びらが鮮やかに宙を舞っていた。

そういえば、もう少しで2年生だ。

2年生になると理科の担当の先生が変わり、万人不受けの嫌な先生になる。この事を考えるとあまり2年生になりたいとは思えない。むしろ、ずっと1年のままでいいと思っている。

そんなことを考えながら無事、豪太の家に着いた。

豪太の家は白を基調としたとてもシンプルな作りになっていて、清潔感を醸し出している。

その豪太の家のインターホンを僕は、ゆっくり押したのだが家から出てきたのは豪太ではなく、豪太のお母さんだった。


「ごめんねうちの子、お父さんと釣りに出かけちゃって…」


豪太のお母さんは、そう言って両手を合わせて申し訳なさそうな顔をした。


「え…じゃあ…豪太はいないってことですか?」


「そういうことになるわねぇ」


おいおい、何約束破ってんだ豪太。


「あ…はい…わかりました」


「本当にごめんねぇ」


僕は、豪太の家を退かざるを得なくなった。とりあえず、学校で豪太は締めるとして僕は帰路に立った。


「じゃあ帰るか」


と僕が言い始めた頃に、空からポツリポツリと雨粒が落ちてきた。


「雨だ。早く帰らないと」


僕はなるべく早く帰ろうと、早歩きをしたが遅かったようだ。先刻までポツポツだった雨は、時間に比例してどんどん量が増えてきて、僕が数十メートルほど歩いた時にはもう大雨に化けていた。

雨は至る所を楽器にして、大合唱を始めた。


「やばいやばい」


僕はそう言いながら、手で頭を覆い、少し前傾姿勢を取りながら近くの屋根付きのバス停まで走った。

そこで、一時避難をするつもりだ。

ザーザーと降る雨を、全てかわすような気分で思いっきり走る。

アスファルトのくぼみには、もう水たまりができており、その水たまりを踏むたびに靴下が不快な湿り気をもたらすが、気にせず進む。

ようやく、バス停までついたところで僕は一息ついた。

これで一安心だ。

息が切れて疲れたので、バス停に備え付けられている椅子に腰掛けることにした。何か、横に憂鬱そうな目をしている男がいるが気にすることはない。

僕は濡れたベンチに座った。

容赦なく降り落ちてくる雨をぼーっと眺めながら一時の沈黙の時間を過ごしていたが、ふと横にいる男の人が気になってちらっと横目でその男を見る。

僕と同い年くらいか?見た時からなんとなく感じたこの違和感は、このシルバーの髪のせいだろう。日本でもそういう髪の人はいるもんなのか。


「はあぁ…」


その男は、ため息をついた。周囲からも明確に分かるほどの落ち込み具合だ。何かあったんだろうかとその男を見ていたら、唐突に目があったので咄嗟に目をそらした。

僕はあまり人をじろじろ見るのはよろしくないと思ったので、真正面を向いてその男を視界からシャットアウトした。

それにしてもさっきから何かを忘れているような気がする。何のせいかと思って頭に考えを巡らせてみると、案外簡単に思い出した。

そうだ。僕、傘出せるんだった。

この状況こそ能力を使うべきではないか。なにのこのこと、屋根付きベンチに避難しているんだ。これじゃあ習得した意味がないじゃないか。

自分がバカだということにやっと気付いた僕は、ベンチから立ち上がった。

偶然にも、立ち上がるタイミングがシルバー髪男と同じだったということには驚きだが、これくらいなら偶然の一致で済ませられるだろう。

だが本当にすごいのは、ここからであった。

僕は黒い傘を出そうと目をつむり、傘を脳内で意識した。

薄黒い影は傘の形に成形されていき、やがて開かれた黒い傘に変化した。

僕は、わざとその男が見える位置で能力を使った。

なぜなら、「すごい」と言って欲しいからだ。

少し得意げな顔をして横をチラッと見てみると、予想通り驚いた顔をしている。ただ一つ、計算外があった。

なんと信じられないことに、その男も陰から傘を生み出していたのだ。僕が男を見た時には、もうほとんど傘になっていたが、確実にこの男は何もないところから傘を生み出していた。


「は?」


「は?」


僕とその男は全く同じ表情をした。


「き…君、まさか想造力者?」


とシルバーの髪の男は、声を震わせながら言う。想造力者?何だそれは…そんなことより、自分以外にもこの能力を使える者がいたのか。

予想外すぎる事態に、僕はフリーズした。

僕は一時、動くことが出来なかったが、時の流れが僕を溶かしようやく僕は口を開いた。


「君…も使えるのこの能力…」


「まぁ、使えるけど…ねぇ君、俺の元についてきてくれない?」


とシルバーの髪は、急ににこう提案する。


「え…なんで?」


「まぁ、そうなるよね。初対面の人に急について来いなんて言われたら、警戒するだけか」


シルバー男は額に手をやる。そしてまた喋る。


「じゃあ自己紹介をしよう。俺は星井矛炎。『悪想造力者目には目を対策日本本部駐在隊員』で趣味はゴルフ。よろしく。」


そんな急に自己紹介されても意味が分からない上に、何だ『悪想造力者目には目を対策日本本部駐在隊員』って。もしかして、こいつ痛い奴なのか?

対応が分からずうだうだしていると、矛炎が咎めてきた。


「なぁ、自己紹介は自己紹介で返すもんだろ?ほらやって」


ほら、やってと言われてもそんな会って間もない人間に、個人情報を見せびらかしたいとは思わない。

僕は矛炎の熱いプレッシャーに負け、しぶしぶ自己紹介をした。


「えー…僕は、『ミーリャイ法人真灯坂学園1年生』の河瀬夢夜です。」


矛炎はパチパチと盛大(?)な拍手をする。


「おぉーいーねー。完璧だったけど、あえて言うなら学校の名前がおかしかったかな」


知るかよ。学校へのクレームを僕に言うな。


「ようし、これで君はもう俺の知り合いだ。ついてきてくれる?」


行かねーよ。を全面的に出した無言で矛炎に対抗する。


「ほう、なるほど。無言ってことはいくってことだね」


そう言って矛炎は僕の手を引っ張る。


「待って、待って待って待って!」


「ん?行くんじゃないの?」


と矛炎は言う。


「行くとか言ってないよ。それに行くって、どこに行くんだよ」


「え、そりゃあ、『悪想造力者目には目を対策日本本部』に決まってるでしょ」


「何なの?悪想造力者目には目を対策日本本部って」


と僕が言うと、矛炎は何かを考え始めた。


「うーん。説明が難しいなー」


どうやら説明を考えていたらしい。先程からのこいつの言動からして、説明にはあまり期待はできなさそうだ。

矛炎は何か、ひらめいたのか右の手のひらにポンと左の拳を置く。


「そうだ、こう言えばいいや…君が活躍できる場所だよ」


「僕が…活躍できる場所?」


「そうあのね、君の能力、使える人全世界の人口の1%にも満たないほどしかいないんだ。そして、そんな君の能力を唯一有効的に使うことができるのが、この『悪目対』だよ」


悪目対…悪想造力者目には目を対策日本本部の略称のことか。


「それって…例えばどんなことをするの?」


と、尋ねると矛炎は簡潔に答えてきた。


「悪い奴と戦うとか」


「は?」


さっきから話を聞いていると、どうも会話が浮世離れしている。もしかしてこいつ、特撮ヒーローから飛び出してきたのか?


「何、言ってるの?悪い奴と戦うって…ヒーローじゃあるまいし」


と僕が言うと矛炎は、顔色を変えて僕に迫ってきた。

矛炎は、ぶつかる一歩手前まで僕に近づき、言い切った。


「僕はヒーローだよ」


言っていることは馬鹿げているが、目の前で見る矛炎の顔の威圧と鋭い眼光によって、矛炎がそれを真面目に言っているということが証明されていた。

これで証明終了といってもいいほどの熱量のこもった一言を、僕は心の中で受信した。

受信したが、まだ入っている事を飲み込むことができない。


「え…ヒーローなんて…いないに決まってるじゃないか」


「本当にそう思うか?俺はヒーローがいるっていう事実より、傘を無から出せる者がいるって事実の方が信じがたいと思うけどな」


「そ…それはそうだけど…」


「これでわかったでしょ?この世界にヒーローは存在します」


「…」


アニメの中だけだと思っていた。助けを求める人がいて、それを助けるヒーローがいる。

その、アニメの当たり前はこの東京にはない。なぜなら、みんな自分に過保護だから。

いつしか人々は危険を冒すという行為を忘れてしまったのだ。でも時に、この灰色の街にも助けを求める人は現れる。

叫び

嘆き

悲しみ

苦しみ

全てを背負って助けを求める人は、どの時代にも一定数いる。

じゃあ、助けるヒーローも一定数いるということなのだろうか。否、この世界には、ヒーローなんていない。どんなに叫んでも、どんなに嘆いても、どんなに悲しんでも、どんなに苦しんでも、無情にも救いの手は差し伸べられない。僕は、この世界はそんな冷たいものだと思っていた。

だが、今の矛炎の一言。僕の思想を全て覆してきた。

この世界にヒーローは存在する。

3歳の頃の夢はみんなを助けるヒーローだった。みんなから笑われるような夢が今、僕の目の前に現れたのだ。


「ヒーロー…」


「そう、ヒーローだ。俺はヒーローだ。」


僕はなぜか分からないが報われた気がした。


「will you be a HERO too?(あなたもヒーローになる?)」


と、矛炎は唐突の英語。たぶん、アメリカでは通用しない。


「まぁ一応、見るだけ見てみるか」


「よしっ!スカウティング成功!」


僕は、こいつのスカウティング能力を買って受け入れたわけではない。ただ単純に「ヒーロー」という三文字に惹かれただけだ。

とにもかくにも、結果的に僕は矛炎について行くことになった。

自分が作った傘で雨を防ぎながら、僕は銀髪の後について行くことにした。


「あぁ、よかった悪目対の人員が見つかって」


矛炎は胸をなでおろす。

なるほど。こいつは悪目対でスカウトの役割を受け持っているのか。

それで思うように人材が見つからなかったから、あんなに悩んでいたのだろう。


「なぁ、矛炎。さっきから想造力がなんちゃらかんちゃらとか言ってたけど、あれなんなの」


「想像力はね、想像を創造する力。夢夜が傘を作る原動力だよ」


傘を作る原動力…。ここに全てのカラクリが秘められているのかもしれない。


「それ、もっと詳しく教えてくれない?」


「やだ、めんどくさい」


「…」


矛炎の足並みは心なしか早くなる。まるで、僕を振り落とすかのように。


「矛炎、スカウト向いてないと思うよ」


「えぇっ!!なんで俺がスカウトマンって知ってるの?」


「…」


わかるでしょそりゃあ。君の言動思い返してみ、じゃなかったら大分痛いやつだからね。

ていうか、実際痛い奴なんだけど。

矛炎は面倒くさそうに話す。


「詳しくはおいおいでいいと思うけれど、とりあえず想造力ってのは万人にしっかりとあるんだ」


「え?さっきこの能力使える人、1%にも満たないほどしかいないって言ってたよね」


僕は首を傾げる。


「想造力を自分の中だけで完結できる力が備わっているという人が、世界中の1%しかいないんだよ」


つまり例えるならば、誰でも50m走を走ることはできるけど、9秒台をマークすることができる人はほんの世界中の1%しかいないというようなことと同じなのだろうか。

そう考えると想造力って、意外にも身近に沢山ありふれているのかもしれない。


「実際この東京の街も想造力が生み出した産物なんだよ」


「どういうこと?それ」


矛炎の横まで僕は早歩きで向かった。


「だってそうでしょう?万物は頭の中の想像力から生み出しているものなんだもん。そしてそれを現実に持ち出す力が、創造力」


腑に落ちたような落ちなかったような。

親父ギャグの連立系のようなこの説明は、見方にとれば詭弁とも言える。


「なんか、まだ納得いかないな」


「何で夢夜が納得する必要があるんだよ」


「え?」


「夢夜が言っているのは、空の青さの理由を知らないから空を見ないって言っているようなものだよ」


そこまでいいことは言っていなかったが、矛炎はドヤ顔。


「そ…そうだね」


僕はとても曖昧な返事をした。

これからというもの特に会話もなく、気がつけば目的地に到着していた。

僕の目に写っていたのはお世辞にも綺麗だとは言えない廃ビル。どんよりとした雲のせいもあってか、ビルはいかにも侘しさというものを周囲に放っていた。


「これが、悪目対本部だよ」


元々からあまり期待はしていなかったけど、これほどまでの錆びれ具合だとは思っていなかった。想像以上だ。


「なんか…ボロいね」


ボソッと僕は言った


「まぁ、外観なんて気にしなくていいって」


そう言って矛炎はオーダーメイドの傘を閉じて廃ビルの中に入っていった。

仕方がないので、僕もそれについて行くことにした。

「あぁ、よかった悪目対の人員が見つかって」


矛炎は胸をなでおろす。

なるほど。こいつは悪目対でスカウトの役割を受け持っているのか。それで、思うように人材が見つからなかったからあんなに悩んでいたのだろう。


「なぁ、矛炎。さっき想像力がなんちゃらかんちゃらとか言ってたけど、あれなんなの?」


「想造力はね、想像を創造する力。夢夜が傘を作る原動力だよ」


傘を作る原動力…。ここにすべてのカラクリが秘められているのかもしれない。


「それ、もっと詳しく教えてくれない?」


「やだ、めんどくさい」


「…」


矛炎の足並みは心なしか早くなる。まるで、僕を振り落とすかのように。


「矛炎、スカウト向いていないと思うよ」


「えぇっ!!なんで俺がスカウトマンて知ってんの?」


「…」

わかるでしょそりゃ。君の言動を思い返してみ?じゃなかったら大分痛いやつだからね。

矛炎は面倒くさそうに話す。


「詳しくはおいおいでいいと思うけれど、とりあえず想造力ってのは万人にしっかりとあるんだ」


「え?でも、さっきこの能力使えるの全世界の1%しかいないって言ってたよね?」


「さっき言っていたのは、想造力を自分の力だけで生み出すことができる人が1%しかいないってこと」


果たして、何が違うというのだろうか。素人の僕にとってはさっぱりわからない。


「ん?どういうこと?」


「そうだなぁ。例えるなら、みんなは紙とペンがあれば思ったことを書き綴ることができると思うけど、その1%の人達は紙とペンが無くても、思ったことを書くことができるんだ。」


そういうことか。想像力を自分の中だけで完結する能力を持っているという人だけが1%に入るということか。


「なるほど」


「そうそう。んでね、実際この東京の街も、想造力が生み出した産物なんだよ」


「どういうこと?それ」


矛炎の横まで僕は早歩きで向かった。


「だってそうでしょ?万物は、頭の中の想像力が生み出しているものなんだもん。

そして、それを現実に持ち出す力が創造力。

どちらもそうぞうりょくじゃん。だから合わせて、想造力」


腑に落ちたような落ちなかったような。

親父ギャグの連立系のようなこの説明は、見方にとれば詭弁とも言える。


「なんかまだ納得いかないな」


僕は顔をしかめる。


「何で夢夜が納得する必要があるんだよ」


「え?」


「夢夜が入っているのは空の青さの理由を知らないから、空を見ないって言ってるようなものだよ」


そこまでいいことは言っていなかったが、矛炎は、ドヤ顔。


「そ…そうだね」


僕はとても曖昧な返事をした。

これからというもの、特に会話もなく気がつけば目的地に到着していた。

僕の目に写っていたのは、お世辞にも綺麗だとは言えない廃ビル。どんよりとした雲のせいもあってか、そのビルは、いかにもわびしさというものを周囲に放っていた。


「これが、悪目対総本部だよ」


元々から、あまり期待はしていなかったけど、これほどまでの錆れ具合だと思ってもいなかった。想像以上だ。


「なんか、ボロいね」


ボソッと僕は言った。


「まぁ、外見なんて気にしなくていいんだって」


そう言って矛炎は、オーダーメイドの傘を閉じて、廃ビルの中に入って行った。

仕方がないので、僕もそれについて行くことにした。

「あぁ、よかった悪目対の人員が見つかって」


矛炎は胸をなでおろす。

なるほど。こいつは悪目対でスカウトの役割を受け持っているのか。それで、思うように人材が見つからなかったからあんなに悩んでいたのだろう。


「なぁ、矛炎。さっき想像力がなんちゃらかんちゃらとか言ってたけど、あれなんなの?」


「想造力はね、想像を創造する力。夢夜が傘を作る原動力だよ」


傘を作る原動力…。ここにすべてのカラクリが秘められているのかもしれない。


「それ、もっと詳しく教えてくれない?」


「やだ、めんどくさい」


「…」


矛炎の足並みは心なしか早くなる。まるで、僕を振り落とすかのように。


「矛炎、スカウト向いていないと思うよ」


「えぇっ!!なんで俺がスカウトマンて知ってんの?」


「…」

わかるでしょそりゃ。君の言動を思い返してみ?じゃなかったら大分痛いやつだからね。

矛炎は面倒くさそうに話す。


「詳しくはおいおいでいいと思うけれど、とりあえず想造力ってのは万人にしっかりとあるんだ」


「え?でも、さっきこの能力使えるの全世界の1%しかいないって言ってたよね?」


「さっき言っていたのは、想造力を自分の力だけで生み出すことができる人が1%しかいないってこと」


果たして、何が違うというのだろうか。素人の僕にとってはさっぱりわからない。


「ん?どういうこと?」


「そうだなぁ。例えるなら、みんなは紙とペンがあれば思ったことを書き綴ることができると思うけど、その1%の人達は紙とペンが無くても、思ったことを書くことができるんだ。」


そういうことか。想像力を自分の中だけで完結する能力を持っているという人だけが1%に入るということか。


「なるほど」


「そうそう。んでね、実際この東京の街も、想造力が生み出した産物なんだよ」


「どういうこと?それ」


矛炎の横まで僕は早歩きで向かった。


「だってそうでしょ?万物は、頭の中の想像力が生み出しているものなんだもん。

そして、それを現実に持ち出す力が創造力。

どちらもそうぞうりょくじゃん。だから合わせて、想造力」


腑に落ちたような落ちなかったような。

親父ギャグの連立系のようなこの説明は、見方にとれば詭弁とも言える。


「なんかまだ納得いかないな」


僕は顔をしかめる。


「何で夢夜が納得する必要があるんだよ」


「え?」


「夢夜が入っているのは空の青さの理由を知らないから、空を見ないって言ってるようなものだよ」


そこまでいいことは言っていなかったが、矛炎は、ドヤ顔。


「そ…そうだね」


僕はとても曖昧な返事をした。

これからというもの、特に会話もなく気がつけば目的地に到着していた。

僕の目に写っていたのは、お世辞にも綺麗だとは言えない廃ビル。どんよりとした雲のせいもあってか、そのビルは、いかにもわびしさというものを周囲に放っていた。


「これが、悪目対総本部だよ」


元々から、あまり期待はしていなかったけど、これほどまでの錆れ具合だと思ってもいなかった。想像以上だ。


「なんか、ボロいね」


ボソッと僕は言った。


「まぁ、外見なんて気にしなくていいんだって」


そう言って矛炎は、オーダーメイドの傘を閉じて、廃ビルの中に入って行った。

仕方がないので、僕もそれについて行くことにした。



「あぁ、よかった悪目対の人員が見つかって」


矛炎は胸をなでおろす。

なるほど。こいつは悪目対でスカウトの役割を受け持っているのか。それで、思うように人材が見つからなかったからあんなに悩んでいたのだろう。


「なぁ、矛炎。さっき想像力がなんちゃらかんちゃらとか言ってたけど、あれなんなの?」


「想造力はね、想像を創造する力。夢夜が傘を作る原動力だよ」


傘を作る原動力…。ここにすべてのカラクリが秘められているのかもしれない。


「それ、もっと詳しく教えてくれない?」


「やだ、めんどくさい」


「…」


矛炎の足並みは心なしか早くなる。まるで、僕を振り落とすかのように。


「矛炎、スカウト向いていないと思うよ」


「えぇっ!!なんで俺がスカウトマンて知ってんの?」


「…」

わかるでしょそりゃ。君の言動を思い返してみ?じゃなかったら大分痛いやつだからね。

矛炎は面倒くさそうに話す。


「詳しくはおいおいでいいと思うけれど、とりあえず想造力ってのは万人にしっかりとあるんだ」


「え?でも、さっきこの能力使えるの全世界の1%しかいないって言ってたよね?」


「さっき言っていたのは、想造力を自分の力だけで生み出すことができる人が1%しかいないってこと」


果たして、何が違うというのだろうか。素人の僕にとってはさっぱりわからない。


「ん?どういうこと?」


「そうだなぁ。例えるなら、みんなは紙とペンがあれば思ったことを書き綴ることができると思うけど、その1%の人達は紙とペンが無くても、思ったことを書くことができるんだ。」


そういうことか。想像力を自分の中だけで完結する能力を持っているという人だけが1%に入るということか。


「なるほど」


「そうそう。んでね、実際この東京の街も、想造力が生み出した産物なんだよ」


「どういうこと?それ」


矛炎の横まで僕は早歩きで向かった。


「だってそうでしょ?万物は、頭の中の想像力が生み出しているものなんだもん。

そして、それを現実に持ち出す力が創造力。

どちらもそうぞうりょくじゃん。だから合わせて、想造力」


腑に落ちたような落ちなかったような。

親父ギャグの連立系のようなこの説明は、見方にとれば詭弁とも言える。


「なんかまだ納得いかないな」


僕は顔をしかめる。


「何で夢夜が納得する必要があるんだよ」


「え?」


「夢夜が入っているのは空の青さの理由を知らないから、空を見ないって言ってるようなものだよ」


そこまでいいことは言っていなかったが、矛炎は、ドヤ顔。


「そ…そうだね」


僕はとても曖昧な返事をした。

これからというもの、特に会話もなく気がつけば目的地に到着していた。

僕の目に写っていたのは、お世辞にも綺麗だとは言えない廃ビル。どんよりとした雲のせいもあってか、そのビルは、いかにもわびしさというものを周囲に放っていた。


「これが、悪目対総本部だよ」


元々から、あまり期待はしていなかったけど、これほどまでの錆れ具合だと思ってもいなかった。想像以上だ。


「なんか、ボロいね」


ボソッと僕は言った。


「まぁ、外見なんて気にしなくていいんだって」


そう言って矛炎は、オーダーメイドの傘を閉じて、廃ビルの中に入って行った。

仕方がないので、僕もそれについて行くことにした。




「あぁ、よかった悪目対の人員が見つかって」


矛炎は胸をなでおろす。

なるほど。こいつは悪目対でスカウトの役割を受け持っているのか。それで、思うように人材が見つからなかったからあんなに悩んでいたのだろう。


「なぁ、矛炎。さっき想像力がなんちゃらかんちゃらとか言ってたけど、あれなんなの?」


「想造力はね、想像を創造する力。夢夜が傘を作る原動力だよ」


傘を作る原動力…。ここにすべてのカラクリが秘められているのかもしれない。


「それ、もっと詳しく教えてくれない?」


「やだ、めんどくさい」


「…」


矛炎の足並みは心なしか早くなる。まるで、僕を振り落とすかのように。


「矛炎、スカウト向いていないと思うよ」


「えぇっ!!なんで俺がスカウトマンて知ってんの?」


「…」

わかるでしょそりゃ。君の言動を思い返してみ?じゃなかったら大分痛いやつだからね。

矛炎は面倒くさそうに話す。


「詳しくはおいおいでいいと思うけれど、とりあえず想造力ってのは万人にしっかりとあるんだ」


「え?でも、さっきこの能力使えるの全世界の1%しかいないって言ってたよね?」


「さっき言っていたのは、想造力を自分の力だけで生み出すことができる人が1%しかいないってこと」


果たして、何が違うというのだろうか。素人の僕にとってはさっぱりわからない。


「ん?どういうこと?」


「そうだなぁ。例えるなら、みんなは紙とペンがあれば思ったことを書き綴ることができると思うけど、その1%の人達は紙とペンが無くても、思ったことを書くことができるんだ。」


そういうことか。想像力を自分の中だけで完結する能力を持っているという人だけが1%に入るということか。


「なるほど」


「そうそう。んでね、実際この東京の街も、想造力が生み出した産物なんだよ」


「どういうこと?それ」


矛炎の横まで僕は早歩きで向かった。


「だってそうでしょ?万物は、頭の中の想像力が生み出しているものなんだもん。

そして、それを現実に持ち出す力が創造力。

どちらもそうぞうりょくじゃん。だから合わせて、想造力」


腑に落ちたような落ちなかったような。

親父ギャグの連立系のようなこの説明は、見方にとれば詭弁とも言える。


「なんかまだ納得いかないな」


僕は顔をしかめる。


「何で夢夜が納得する必要があるんだよ」


「え?」


「夢夜が入っているのは空の青さの理由を知らないから、空を見ないって言ってるようなものだよ」


そこまでいいことは言っていなかったが、矛炎は、ドヤ顔。


「そ…そうだね」


僕はとても曖昧な返事をした。

これからというもの、特に会話もなく気がつけば目的地に到着していた。

僕の目に写っていたのは、お世辞にも綺麗だとは言えない廃ビル。どんよりとした雲のせいもあってか、そのビルは、いかにもわびしさというものを周囲に放っていた。


「これが、悪目対総本部だよ」


元々から、あまり期待はしていなかったけど、これほどまでの錆れ具合だと思ってもいなかった。想像以上だ。


「なんか、ボロいね」


ボソッと僕は言った。


「まぁ、外見なんて気にしなくていいんだって」


そう言って矛炎は、オーダーメイドの傘を閉じて、廃ビルの中に入って行った。

仕方がないので、僕もそれについて行くことにした。



「あぁ、よかった悪目対の人員が見つかって」


矛炎は胸をなでおろす。

なるほど。こいつは悪目対でスカウトの役割を受け持っているのか。それで、思うように人材が見つからなかったからあんなに悩んでいたのだろう。


「なぁ、矛炎。さっき想像力がなんちゃらかんちゃらとか言ってたけど、あれなんなの?」


「想造力はね、想像を創造する力。夢夜が傘を作る原動力だよ」


傘を作る原動力…。ここにすべてのカラクリが秘められているのかもしれない。


「それ、もっと詳しく教えてくれない?」


「やだ、めんどくさい」


「…」


矛炎の足並みは心なしか早くなる。まるで、僕を振り落とすかのように。


「矛炎、スカウト向いていないと思うよ」


「えぇっ!!なんで俺がスカウトマンて知ってんの?」


「…」

わかるでしょそりゃ。君の言動を思い返してみ?じゃなかったら大分痛いやつだからね。

矛炎は面倒くさそうに話す。


「詳しくはおいおいでいいと思うけれど、とりあえず想造力ってのは万人にしっかりとあるんだ」


「え?でも、さっきこの能力使えるの全世界の1%しかいないって言ってたよね?」


「さっき言っていたのは、想造力を自分の力だけで生み出すことができる人が1%しかいないってこと」


果たして、何が違うというのだろうか。素人の僕にとってはさっぱりわからない。


「ん?どういうこと?」


「そうだなぁ。例えるなら、みんなは紙とペンがあれば思ったことを書き綴ることができると思うけど、その1%の人達は紙とペンが無くても、思ったことを書くことができるんだ。」


そういうことか。想像力を自分の中だけで完結する能力を持っているという人だけが1%に入るということか。


「なるほど」


「そうそう。んでね、実際この東京の街も、想造力が生み出した産物なんだよ」


「どういうこと?それ」


矛炎の横まで僕は早歩きで向かった。


「だってそうでしょ?万物は、頭の中の想像力が生み出しているものなんだもん。

そして、それを現実に持ち出す力が創造力。

どちらもそうぞうりょくじゃん。だから合わせて、想造力」


腑に落ちたような落ちなかったような。

親父ギャグの連立系のようなこの説明は、見方にとれば詭弁とも言える。


「なんかまだ納得いかないな」


僕は顔をしかめる。


「何で夢夜が納得する必要があるんだよ」


「え?」


「夢夜が入っているのは空の青さの理由を知らないから、空を見ないって言ってるようなものだよ」


そこまでいいことは言っていなかったが、矛炎は、ドヤ顔。


「そ…そうだね」


僕はとても曖昧な返事をした。

これからというもの、特に会話もなく気がつけば目的地に到着していた。

僕の目に写っていたのは、お世辞にも綺麗だとは言えない廃ビル。どんよりとした雲のせいもあってか、そのビルは、いかにもわびしさというものを周囲に放っていた。


「これが、悪目対総本部だよ」


元々から、あまり期待はしていなかったけど、これほどまでの錆れ具合だと思ってもいなかった。想像以上だ。


「なんか、ボロいね」


ボソッと僕は言った。


「まぁ、外見なんて気にしなくていいんだって」


そう言って矛炎は、オーダーメイドの傘を閉じて、廃ビルの中に入って行った。

仕方がないので、僕もそれについて行くことにした。




「あぁ、よかった悪目対の人員が見つかって」


矛炎は胸をなでおろす。

なるほど。こいつは悪目対でスカウトの役割を受け持っているのか。それで、思うように人材が見つからなかったからあんなに悩んでいたのだろう。


「なぁ、矛炎。さっき想像力がなんちゃらかんちゃらとか言ってたけど、あれなんなの?」


「想造力はね、想像を創造する力。夢夜が傘を作る原動力だよ」


傘を作る原動力…。ここにすべてのカラクリが秘められているのかもしれない。


「それ、もっと詳しく教えてくれない?」


「やだ、めんどくさい」


「…」


矛炎の足並みは心なしか早くなる。まるで、僕を振り落とすかのように。


「矛炎、スカウト向いていないと思うよ」


「えぇっ!!なんで俺がスカウトマンて知ってんの?」


「…」

わかるでしょそりゃ。君の言動を思い返してみ?じゃなかったら大分痛いやつだからね。

矛炎は面倒くさそうに話す。


「詳しくはおいおいでいいと思うけれど、とりあえず想造力ってのは万人にしっかりとあるんだ」


「え?でも、さっきこの能力使えるの全世界の1%しかいないって言ってたよね?」


「さっき言っていたのは、想造力を自分の力だけで生み出すことができる人が1%しかいないってこと」


果たして、何が違うというのだろうか。素人の僕にとってはさっぱりわからない。


「ん?どういうこと?」


「そうだなぁ。例えるなら、みんなは紙とペンがあれば思ったことを書き綴ることができると思うけど、その1%の人達は紙とペンが無くても、思ったことを書くことができるんだ。」


そういうことか。想像力を自分の中だけで完結する能力を持っているという人だけが1%に入るということか。


「なるほど」


「そうそう。んでね、実際この東京の街も、想造力が生み出した産物なんだよ」


「どういうこと?それ」


矛炎の横まで僕は早歩きで向かった。


「だってそうでしょ?万物は、頭の中の想像力が生み出しているものなんだもん。

そして、それを現実に持ち出す力が創造力。

どちらもそうぞうりょくじゃん。だから合わせて、想造力」


腑に落ちたような落ちなかったような。

親父ギャグの連立系のようなこの説明は、見方にとれば詭弁とも言える。


「なんかまだ納得いかないな」


僕は顔をしかめる。


「何で夢夜が納得する必要があるんだよ」


「え?」


「夢夜が入っているのは空の青さの理由を知らないから、空を見ないって言ってるようなものだよ」


そこまでいいことは言っていなかったが、矛炎は、ドヤ顔。


「そ…そうだね」


僕はとても曖昧な返事をした。

これからというもの、特に会話もなく気がつけば目的地に到着していた。

僕の目に写っていたのは、お世辞にも綺麗だとは言えない廃ビル。どんよりとした雲のせいもあってか、そのビルは、いかにもわびしさというものを周囲に放っていた。


「これが、悪目対総本部だよ」


元々から、あまり期待はしていなかったけど、これほどまでの錆れ具合だと思ってもいなかった。想像以上だ。


「なんか、ボロいね」


ボソッと僕は言った。


「まぁ、外見なんて気にしなくていいんだって」


そう言って矛炎は、オーダーメイドの傘を閉じて、廃ビルの中に入って行った。

仕方がないので、僕もそれについて行くことにした。



廃ビルの中はちゃんと裏切ることもなく廃ビルだった。

至る所で壁紙が剥がれており、周りにはいろいろなものが散乱している。正直言って僕の部屋の方がよっぽどマシだ。そんな廃ビルを目を丸くしながら見渡していると、矛炎がポッケに手を突っ込みながら言ってきた。


「夢夜、こっちだよ」


悪目対総本部はどうやら矛炎がいま、登りかけている階段を登った先にあるらしい。

どちらにせよこの様子からして上の階も変わらず汚いことなんだろう。逆に上の階だけが綺麗だったら、1階も掃除しろよって話になるし。

僕は期待せぬままに階段を登り始めた。

最近あまり運動していなかったせいか、登って5段ぐらいで早速息が切れてきた。

そんな僕の状況もつゆ知らず、矛炎は淡々とリズムよく段差を攻略していく。

さすがは自称ヒーロー。体力には自信があるそうだ。と言うか、僕が極端に体力がないだけだと思うけど。

何かと考えながら階段を登っていれば、すぐにたどり着くかと思っていたが現実はそう甘くないみたい。

階段のエンドラインが一向に見えてこないのだ。

そして、矛炎は一定のペースでどんどん進んでいく。

それにしても不可解だ。

このビルの外観は見たところ3階建てぐらいの作りになっていたはずだけれども、今の時点でもう、少なくとも5階分の階段を登っている気がする。

果たして、僕の思い違いか?それとも―。

この疑念は僕の中で解決されることはないと思うので、矛炎に聞いてみた。


「ねぇ、この階段おかしいよ」


「え?なんで?」


矛炎は快調だった足のリズムを一時停止して、息切れしている僕を少し上から見下ろした。


「だって、この建物3階建てくらいのはずなのに、もう5階分の階段は登っているよ」


「あぁ、そういえば教えてなかったっけ?」


矛炎は頭をポリポリと掻く。


「ん?何のこと?」


「あのな、この建物は半分から下が普通の建物で出来てて、上から半分は想造力によってできたものなんだ」


つまりこの建物は、通常の建築様式と想像力によってできたもののハイブリッドだということか。

未だ想像力という言葉にピンと来ていない僕にとってみれば、理解が難しい。


「え…じゃあ何で?こんなに階段多いの?」


僕は眉をひそめる。


「階段は多くないよ全然。ただ、夢夜がさっき見ていた外観は建物の下半分だけだったから、階段が多く見えたのかな?」


「え?どういうこと?」


知れば知るほどよくわからなくなっていく。まるで 、アマゾンにある底なし沼のようだ。


「あの-。この建物の上半分は想造力によって、ステルス化されているんだ」


ステルス化…。ということはこの建物の半分は、想造力というものによって外観からは見えなくされているということか。

なるほど。それであったら、階段が見た目以上に多いのにも説明がつくかもしれない。

それにしてもその想造力って力、建物を作るが愚か、その建物にステルス機能を持たせることさえ可能なか。


「そういうことなのか…」


「そういうこと。じゃあ、先に進もう。本部はこの上の階だ」


そう言って矛炎はまたリズムを取り戻して、歩いて行く。相変わらず僕も息を切らしながら、それについていった。

そして、ようやく矛炎は止まってくれた。

止まった先には少し重厚なドア。

この先に『悪目対』のスタッフ達がたくさんいるのかもしれない。本能的に出てきた胸の高まりを抑えることを僕は忘れてしまった。


「夢夜、着いたよ。ここが、『悪目対』」


「ここが…悪目対か…」


「そっ、じゃあ開けるよ」


矛炎はいかにも重そうなドアを軽い力で開けた。

ギイギイ と何かが擦れるような音が、そこら中にこだまする。

開いた扉の先を見てみると、意外にも普通めな景色が広がっていた。ホワイトボードを先頭にして、白い長机が規則的に並んでいる。

そんなシンプルな部屋にちらほらと人がいた。かずは四人。

メガネをかけてる人-。

パソコンをいじっている人-。

気が強そうな子-。

ポニーテールの子-。

一目で、キャラがバラエティに富んでいるということがわかった。


「たっだいまー!!見つかったよ!新入生!」


矛炎は場にそぐわないテンションでそう言った。うん、まだ入るとは決めてないけど。

矛炎の手招きに合わせて、僕は部屋の中に入った。ちょうど入った頃ぐらいに、メガネの人がこう言った。


「あぁ、見つかったのか」


眼鏡の人は、持っていた黒いペンをホワイトボードに置き、こちら側に向かってきた。

憶測だけれども、多分この人は頭がいいはずだ。

なんとなく、第一印象がそれを物語っている。

こういう時に、第一印象の重みというものを実感するんだよなぁ。


「名前は?」


眼鏡の人は矛炎の横に立って、そう言ってきた。


「はい、僕は河瀬夢夜です」


「夢夜か…。私の名前は、赤井康稀だ。よろしくな」


「よろしくお願いします」


僕は軽く会釈をした。本能が「会釈をしろ」と叫んでいたのだ。

康稀はしばらく僕をしっかりと見つめてから、また口を開いた。


「君は、ここで活動をしようと思っているのかい?」


僕はそんなことはまだ決めていない。そもそも、何をやるか知らないのだ。


「もしも仮にここで活動することになったとして、君は本当にここでやっていける自信はあるのかな?」


康稀は唐突に鋭い目つきになった。


「げっ、始まった」


矛炎は、苦笑いを浮かべながら小声でそう言った。僕はしっかりと聞いていたぞ、今の言葉。もしかして、今から何かが始まるのだろうか。

とここで、ポニテの女の子がこちらに向かって喋ってきた。

とても遠距離からであるが。


「いいじゃーん、康稀。久しぶりの新入生なんだから純粋に歓迎してあげよーよ」


そんな外野からの声を康稀はあからさまに無視する。


「ここの悪目対でやっていけるのかって聞いているんだ」


「え…」


僕は言葉が何一つとして出てこなかった。それくらい、唐突な出来事だったということだ。

僕がおどおどしていると、康稀は一段とシリアスな空気をまとわせながら話し始めた。


「ここは遊び場ではない。ここにいる以上、当然のことだが命の保証さえもできない。

それでも君は、ここにいようと思えるほどの思い入れはあるのか?もし、ないのであれば、すぐさま出て行ってもらいたい。仕事の邪魔だ」


矛炎は困った顔をする。


「なぁ、康稀。そこまで言わなくてもいいじゃないかよ」


矛炎の声は、康稀が無視したまま宙に舞った。

康稀の手は強く握り締められている。

なんだよ。僕は良かれと思ってここに来ているのに、なんだ?説教か?

ここの存在をさっき知ったばかりなのに、思い入れなんてあるはずがない。

それに、命の危険があるなんて初耳だ。どうせ、矛炎がここに呼び込むためにあえて僕に伝えてなかったのだろう。

いいさ、そんなに歓迎されていないんだったら僕はここにいる意味なんてない。帰って、漫画でも読んだ方が百倍マシだ。


「じゃあ帰ります」と、言いかけた時に康稀はまた口を開いた。


「私たちは君を求めている。なぜなら1%の人材だからね。

ただ、それ以上に君に後悔のある死をもたらしたくないんだ。だから、ここで決めて欲しい。逃げるか戦うか。」


求められている…。僕は小さい頃から人に求められるなんてことは皆無だった 。

なぜなら、僕ができることは大抵みんなできるから 。

ふと、僕はサッカーをしていた頃の苦い思い出を思い出した 。


中学校最後のサッカー大会。

僕は、3年生なのにベンチスタートだった。

同級生の活躍を見て僕も、やってやりたいと心から思った。その思いはどんどん大きくなって、抑えきれなくなってきた。

だから、僕は監督にこう提案した。


「監督、僕も試合に出してください!!絶対、結果を出すので!!」


監督は氷のような冷たい目で言った。


「夢夜、お前は求めていないからベンチなんだよ。おとなしく、座っときなさい」


悔しくて、悔しくて、どうかなりそうだった。

監督が心から憎いと思った。

しかし、それはただの僻みだということも自分で分かっていた。

そう、僕は求められていないのだ。

つまり僕が今、サッカー部を抜け出しても誰も困らないということだ。

これ以上に悲しいことはない。

僕はきれいな緑色をした芝生に倒れ込んで、止められない涙を誰にも見られないうちに消費した。


そんな出来事があってから、僕は全ての行動に言い訳をして生きてきた。

1500m走だって…

そうやって僕は傷つきたくないだけがために、逃げて、逃げて、逃げて、逃げて、逃げて、逃げて、逃げて、逃げて、逃げて、逃げて、逃げて、逃げて、逃げて、逃げて、逃げて、逃げて、逃げて、逃げて、本当は逃げたくなかったけど、逃げて逃げて逃げて-。

僕は自己嫌悪に追いつかれないように、必死で逃げたのだ。

でも僕はこの間、久しぶりに自分と向き合った。すると自己嫌悪の足がほんの少し遅くなった。

だから僕は今、立ち止まっている。

このままずっと逃げるべきか。

それとも剣を持って戦い始めるか。

もう、答えは出ている。

僕は深く深呼吸をして一息に言った。


「僕は、もう逃げたくないんです!!」



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