魔王シフォンと闘う条件!
魔王シフォンに『闘いに来た』って言ってるのに『朝集会』があるとやらで、またまたほったらかしの放置プレイですよ男の娘っ!
だがしかし!
ここで引き下がるワケにはいかないのだ!
俺には、フィルフィーとポプラールさんの声を取り戻すという使命があるのだからっっ!
「まっ、魔王シフォンっ!
ちょいとお待ちをっっ!」
「ああーん? まだいたの?
このぐるぐるクソメガネがっ」
ぐぬぬ、ホントにクチ悪い娘ですよ魔王シフォンっ!
そんなに性格悪いのにアイドル志望ってどうなのさっ?
「ボクは勇者としてっ!
あなたを倒しに来たのでありマス!」
ビシ!っと凛々しく指差す俺ですよ!
「それ、さっきも聞いたんですけどー?
だったらなんなのよっ?」
えっ。
イヤ、あの、『だったらなんなのよ?』って言われても。
倒しに来たって言ってるんですけどっ?
え、俺の言い方が間違ってるのかなっ?
倒しに来てるんだから不意討ちもアリだったのかなっ?
でも、いきなり襲いかかるってのは勇者としては卑怯じゃないのかなっ?
お着替えガチャもせずにいきなり殴りかかっても、返り討ちにあうのは目に見えてるし……
うむむ、どうしよう。
アレっ!?
これって、ノープラン、ってヤツなのかしらっ?
だってだって、いきなり出くわすと思ってなかったんですものー!
ラーフィアちゃんの時みたいに最上階でラスボスバトル!的な展開になるかなー、とか思ってたんですものー!
うぬぬ、これはっ!
どうしたもんですかね男の娘っ!
「言うだけ言ってなんでフリーズしてるのよ気持ちワルい。
そうねえ。どーしても私と闘いたいって言うなら、あなたの根性を見せてもらおうじゃないのっ」
根性っ?
まさか魔王が根性論を出してくるとはっ。
「私は忙しいのよっ。これから週イチの朝集会があるから、そこであなたが私の代わりに挨拶しなさいっ!」
「あっ、朝集会で挨拶っ? ボクがっ?」
なんで俺がそんなのやんなきゃいけないんじゃいっ。
勇者vs魔王にまったく関係ないじゃないかっ。
「ラーフィアだってやったコトあるでしょー?
魔王城に勤めてるみんなの前での朝集会。
めんどくさいったらナイわよねー」
「私は面倒だなんて思ったコトは一度も無かったわよっ。城主の仕事のひとつでしょっ」
「はあーん? あんなの、大魔王様からのご命令だから仕方無くやってるだけよっ」
「仕方無くだと? ラーフィア様はイヤな顔ひとつせずに朝集会の挨拶をされていたぞっ」
「そうだねぇ♪ ラーフィア様はいつもカッコ良かったですよう♪」
レイルさんとフェイリアちゃんがベタ褒めですよ。
魔王シフォンだって、大魔王様から言われてるんだったら自分がやるべきでしょーに。
めんどくさい仕事を人に押し付けるなんてどうかと思うぞっ。
しかも魔王城の主たる魔王なら、大事な挨拶なんじゃないのかなっ?
「朝集会の挨拶なんてイヤですよっ!
なんでボクがそんなコトしなきゃいけないんですかっ!」
「ああーん?
だったら訊くけど、なんで私が無条件であなたなんかと闘わなきゃいけないワケー?」
……無条件っ?
イヤ、ちょっと待って下さいよ。
無理矢理フィルフィーの声を奪っておきながら、条件なんて言い出しましたよ魔王シフォン。
なんか、相当ねじ曲がった思考ですよ!
「ボクはっ!あなたを倒して、フィルフィーとポプラールさんの声を取り戻すのです!
勇者と魔王が戦うのに、条件なんて要らないと思いマスっ!」
「はあーん? あなた、時代遅れもいいとこねー。お土産も持たずに殴り込みにくるバカがドコの世界にいるのかしらっ?」
……おみやげっ?
イヤイヤ、ちょっと待って下さいよ。
魔王シフォンだって披露宴会場に手ぶらで殴り込みに来たでしょーがっ。
さんざん人に迷惑かけておいてナニ言ってるんですかねっ?
どこまでも自己中心的ですよ魔王シフォンっ!
「のらりくらりと話を逸らすなんて相変わらずのヘリクツ脳ね、シフォンっ!」
おっと、ラーフィアちゃんが参戦です!
ラーフィアちゃんも負けず嫌いですからねっ。言われっぱなしでおとなしく引き下がる性格じゃナイですよ!
「うっさいわねー、ペタン娘ラーフィアっ。そのでっかいおっぱいちゃんと一緒にどっか行っちゃいなさいよっ!」
言うと同時に細くて短い腕を、びゅわっ!と振ると、なんとっ!
ラーフィアちゃんとフェイリアちゃんの足元に真っ黒い大きな穴が開いたっ!
「「きゃあああああああっっ!?」」
これはっ!
落とし穴的なアレですよ!
俺も何度か経験してる落とし穴ですよー!
「なによ、こんなものっ! はっ!」
ラーフィアちゃんのかけ声と共に、ばささっ!と現れたのは、女神スキル『純白の翼』!
咄嗟の判断で翼を出すなんてさすがです!
ところがですよ!
「やだっ!? ちょっとフェイリアっ!?
あなた、また太ったんじゃないのっ!?」
「えー? 体重は変わってませんよぉ?
またって言わないで下さいよお♪」
ラーフィアちゃんの両足にしっかり抱きつくフェイリアちゃん!
その重さに耐えきれずに、じわじわと高度が下がっていきますよっ!
「あっ! やだちょっとっっ! 内ももに触らないでっっ!」
「スベスベですねぇ、ラーフィア様ぁ♡ ウフフぅ♪」
「ちょっ!! あんっっ! やだっ!?」
ナニやってんですかねフェイリアちゃん!
ラーフィアちゃんがツヤっぽい声を出しちゃってるんですけどっ!
ラーフィアちゃんは内ももが弱いんですか、そーですか。
勉強になります!
イヤ違うっ!
「ラーフィアちゃんっ! 手を伸ばしてっ!」
「ヒカっ!ヒカリちゃんっ!
あっ♡ もうダメぇっ!」
ラーフィアちゃんは重さに耐えきれなかったのか、内ももをオサワリされて翼に力が入らないのか、ひゅうううっ!と!
フェイリアちゃんと一緒に落っこっちゃいましたよー!
そのまま、しゅぱっ!と、穴が閉じてしまったっ!
「らっ!ラーフィアちゃんっ!」
「ラーフィア様っ!フェイリアっ!
おのれ、貴様っ、二人をドコにやったっ!」
レイルさんは半身になり猫足立ちの戦闘体勢!
うおお、カッコいい!
俺が同じポーズをとったら『にゃん♡』ってカンジの萌えポーズにしか見えないヤツですよー!
男の娘の俺よりも格段にオトコマエですよレイルさん!
「敷地内のオバケ屋敷に送っただけだから、心配しなくても大丈夫よっ。
元魔王のクセに落とし穴に落ちるなんてしょーもなさすぎでしょ。よくもまあ、あんなのが魔王なんてやってたわよねー」
ラーフィアちゃんを『あんなの』呼ばわりですとっ!?
魔王だった頃のラーフィアちゃんは、凛々しくて美しくてカッコ良かったんだぞっ。
大切なカノジョの悪口をポンポン言われて黙ってなんていられませんよ、男の娘っ!
「もう許せませぬっ!魔王シフォンっ!
いざ尋常に勝負っ!」
お着替えガチャで、さあ変身!
ところがですよ。
「ああん?
まだいたの、ぐるぐるクソメガネっ。
私と闘いたいんなら、つべこべグダグダ言ってないで朝集会で挨拶しなさいっ!
それが条件よっ」
やたら朝集会の挨拶を押し付けてきますよ、魔王シフォンっ。
そんなにイヤなのかっ?
ここで、ずずいっと前に出ましたよレイルさん!
「そこまで言うのなら引き受けようじゃないか、魔王シフォンっ!」
おおっ!カッコいいっ!
レイルさんが魔王シフォンの代わりに朝集会の挨拶をしてくれるのかなっ?
「朝集会の挨拶くらい軽くこなしてみせるさ。このヒカちくりんがなっ」
え。
俺ですか?
引き受けるって言ったのはレイルさんデスヨネっ?
「朝集会の挨拶くらいソツなくこなして見せろ、ヒカちくりんっ
どんなにザコでポンコツだろうが貴様は勇者だ、ヒカちくりんっ。
魔王シフォンを倒せるのは貴様しかいないんだ、ヒカちくりんっ」
勇者と言いつつ『貴様』呼ばわり!
しかも変な呼び方だし!
レイルさんたら、励ましてくれてるのかディスってるのかどっちなんデスカネっ?
「じゃあ決まりねっ!
10分後にあそこに見える広場に来なさいっ!いいわねっ!」
「えっ!? あのっ!
ちょいとお待ちをっっ!?」
聞く耳持たずで、ばささっ!と羽ばたいてどっか行っちゃいましたよ魔王シフォン。
取り残されちゃったよ男の娘っ。
ええー? なんなんだ、この展開はっ。
「朝集会の挨拶なんてビビるコトは無いぞ、ヒカちくりんっ」
「えっ、でもっ。ラーフィアちゃんとフェイリアちゃんを探さないとっ」
「ラーフィア様とフェイリアなら、おそらく大丈夫だ。オバケ屋敷に送ったと言っていただろう。そこなら私達は何度も行ってたからな」
何度も行ってたってマジですか。
社員特権みたいなヤツだったんデスカっ。
「ともかく! 仮にも勇者ならば朝集会の挨拶のひとつやふたつ、ビシっとこなしてみせろ、ヒカちくりんっ。
ラーフィア様は毎回、凛としたご挨拶をされていたからなっ」
ええー!?
ラーフィアちゃんは凛としてた、ってビミョーにハードル上げちゃってますよレイルさん!
なななんとっ!
妄想勇者のこの俺が朝集会とやらの挨拶をするハメにっ!
魔王を倒しに来たハズなのに、なんでこうなっちゃったんデスカネ、男の娘っ!
◇ 面白かったよ!
◇ 続きが気になるよ!
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