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行動決定

「クラスの子たちにも聞いてみる? 美月のこと、私たち以上に知ってるかもしれないし」


「それは……それは、止めておいた方がいいと思う」


「どうして?」


「ん……なんていうか、今回のこと、美月も隠しておきたいんじゃないかと思うんだ」


 あの通話の中で聞いた美月の謝罪は、今までずっと溜め込んできたものが一気にあふれ出たような、彼女自身、意図したものではないような、そんな印象を受けた。


 それに、俺たちを避け始めてからも周囲に見せ続けていたあの笑顔。今ではもう、含みのないものとは思えない。


 そんな諸々を無視してしまえば、きっと巡り巡ってまた美月を傷つけることになる。それじゃあ意味がないのだ。


「それにさ。友達のこと、裏で詮索して回るのはちょっとな」


「じゃあ、どうするの? 三澄だって、美月のこと諦める気はないんでしょ?」


「ああ。だから、美月に直接会うよ」


「……大丈夫なの?」


 不安そうな律の瞳が俺を捉えた。きっと、目の前の彼女と同じような顔が映っていることだろう。


「大丈夫じゃ、ないかもしれない」


 今回の件。解決しようとすれば、まず間違いなく美月の精神的な急所に触れることになる。


 だからそのための準備は、本来なら念入りに行われなければいけない。


 あらゆるところから情報をかき集め、精査し、そうしてやっと臨まなければいけない。


 必要な手順を飛ばすということは、言ってしまえば博打だ。それも、負債のほとんどを他人に負わせる類の。


「でも、それ以外なくないか?」


「……そうね。じゃあ私も行くわ」


「……え、律も?」


「だめなの?」


 不安定な精神状況にある人間へ、複数人で押しかけるというのはどうなんだろう。余計にプレッシャーを与えてしまうことにならないだろうか。


「……まあ、前科があるものね」


「ぬぐっ!? い、いやそういうわけじゃ……」


 それに触れられると非常に弱い。が、律は意外にもあっけらかんと、


「分かったわ。三澄に任せる」


 そう口にした。


「いいのか?」


「いいのよ。……正直、今の美月に会うの、怖かったから」


 そう言って向けられた自嘲気味な笑みに、俺はいよいよなんて返せばいいのか分からなくなる。と、そんな俺の様子に、律は俯いてしまった。


 気まずい沈黙が二人の間に下りる。


 ふと、若菜が立ち上がる気配がして、視線を向く。若菜は俺を一瞥もすることなく前を横切り、そして——


 俺と律の間に割り込むように、しかし、そんなスペースもないため、俺と律の太腿の肉を押し潰すようにして腰を下ろした。


「「え?」」


 戸惑いながらも、若菜がちゃんと座れるよう隙間を空ける。律も同様にしていて、すぽっ、と若菜が間に収まった。


「えっと……あの、ごめんなさい……」


「い、いや別にいいけど、どうした?」


 謝って俯いてしまった若菜へ、そう尋ねる。


「……私、結局何もできませんでしたから、せめてもと思って」


 そう言って力なく笑う若菜。なるほど、俺と律の間にあった空気を一新させようとしての行動というわけか。


「いや別になんにもできなかった、なんてことはないぞ?」


 実際、彼女にも、主に精神的に助けられている。が、若菜は首を横に振った。頑なである。どうしたもんかな。


「あー、若菜は隣にいてくれるだけで有難いっていうか、助けられてるっていうか……」


 本心ではある。本心ではあるんだけど、この言い方だと、遠回しに何もしてないって言ってるようなもんか?


「ほら、頑張ってる姿を見るだけで勇気づけられるって、あるだろ? スポーツとか」


「……」


 明らかに納得していない様子。なんだろう。言葉を重ねていく度に、墓穴を掘っているような気がする。


「若菜」


 続きの言葉に迷っていると、律が若菜へと呼び掛けた。


「大丈夫よ。これからだって、三澄を助ける機会くらいいくらでもあるから」


「……え?」


「それに、一緒にいるだけでいいとか、なに? 愛の告白?」


「「っ!」」


 むすっとした顔の律が、とんでもない単語を口にした。


「お、おい律、急に何言い出すんだ」


「はあ。三澄、思わせぶりな言動、そろそろ気を付けないと痛い目見るわよ。例え本心で、他意がないとしても」


 結構大きな溜息まで吐かれた。


 一度、先程俺が言った言葉を思い出し、反芻してみる。


 うん。色んな勘違いを生みそうな、素晴らしい発言だった。


「気を付けます……」


 とはいえ、今さら取り消すことはできないし、偽らざる本音であるからして、否定もできない。ならせめて変な誤解だけはないようにと、


「あー、若菜? さっきのは、その……」


 そう、律の方を向いたままの若菜の顔を窺おうとした瞬間、顔面に伝わる少々強めの衝撃と共に、視界が真っ暗になった。


「だめです今はこっち見ないでください」


「……若菜?」


「いいんです大丈夫ですわかってますから……!」


 それ以上何も喋るなとでも言わんばかりに、矢継ぎ早に発される言葉の数々。視界が塞がれているようと、その必死さがはっきりと伝わってくる。


「お、おう」


 結局、俺は両目を塞がれたまま、若菜が落ち着くまでしばらく黙って待つことになったのだった。


 ……本当に、分かってくれたのかな?

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