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去年の話 導入

「律、美月から返信返ってきたか?」


「ううん、返ってきてない。三澄の方はどう?」


「既読も付いてない」


「……あの、美月さんに何かあったんですか?」


 若菜がおずおずと、俺たちに向かってそう尋ねてくる。


 美月が一方的に通話を切ってからしばらくの後、家のリビングには律と若菜がいた。


「あぁ、実は——」


 俺は若菜へ、美月とのことでここ最近あったことをつまびらかに話していく。


 テスト勉強から始まり、美月の不調とそのお見舞い、そして、今日の昼前にした電話の内容。要所に俺たちの所感なんかも交えながら。


 正直に言えば、こんなことを相談するのはかなりの抵抗感があった。誰かと誰かが不仲であるとかいう話なんて、誰が聞いたって気持ちのいいものではないし、その当事者たちがみな自分の知り合いともなれば、不快感はより一層高まるだろう。


 それでも、外部の視点というものを取り入れたくて、若菜にはこの場に同席してもらっていた。


「今の話で、何か気になるところとかなかったか?」


 曖昧な聞き方しかできないことが、非常に申し訳ない。


「うーん。美月さんが、三澄さんと律さんに対して相当な罪悪感を持っていたっていうことはよく分かったんですが……。この辺り、お二人に心当たりはないんですか?」


「んー、俺にはないかなぁ……」


 ちら、と律へ視線を送る。


「……私も特にないわ」


「律、美月にいつも色々と弄られてたけど、その辺は?」


「あれはっ。……あれは、確かに恥ずかしくはあったけど、別に嫌じゃなかったというか……その」


 もじもじしながら尻すぼみになっていく律の声。いつだったか、美月が律の事をマゾの気があるとかなんとか言っていた気がするが、まさか。


「その?」


「な、何でもない! とにかくっ、私にも心当たりはないから!」


 律はほんのりと顔を赤らめて、反論など許さないとでも言わんばかりにそうはっきりと口にした。でもまあ確かに、美月への嫌悪感なんかは一切伝わってこない。律が本当は弄られるのがめちゃくちゃ嫌で、そのことに美月が気付いてしまった、とかそういうことではないみたいだ。


 そもそも、それだと俺も一緒に避ける理由にはならないか。


「若菜、他にはなんかない? ほんと、ちょっとした違和感とかでもいいから」


「うーん、そう言われても……。そもそも、私美月さんのことほとんど知りませんし……」


「まあ、そうかぁ。そうだよなぁ……」


 若菜にとって、美月との付き合いといえばはあの勉強会くらいのもの。俺や律にも気付けないようなことが、若菜なら気付けるかもしれないなんていうのは、希望的観測にもほどがあった。


 ああでも、俺たちと若菜に、そんな差なんてないのかもしれない。美月のことを何も知らないからこそ、ただただこうして狼狽えることしかできないのだろうし。


 関係修復は、もう難しいのかな……。


 美月のためには、諦めた方がいいのかもしれない。俺や律のいない所でなら、きっと彼女は笑ったままでいられるはずだ。


「あのっ、美月さんとのこと、もっと私に教えてもらえませんか?」


「え?」


 どうしたもんかと思案していた中での、唐突な若菜の言葉に、俺は顔を上げる。


「もしかしたら何か分かるかもっ。……あんまり、自信はないんですけど」


 少し熱の籠ったような視線が、すうっとその力をしぼめていく。でもその思いは、なんとなくだけど伝わってきた。


 冷えてしまった頭に、少しばかりの燃料が足されたような感覚。俺がもう一度動くには、それだけで十分だった。


「分かった。話すよ」


 美月とのことでは、俺には特に悪い思い出などはない。俺が知ってる限りのことを、包み隠さず伝えよう。


「まずは俺からだな」


 俺の後は律も頼む、という気持ちを込めて、ちらと律の方へ視線を送る。律と美月がどうであったかは、俺はよく知らない。


 律はしっかりと頷いてくれた。


「俺が美月とよくつるむようになったのは、ちょうど去年の今頃くらいだったかな——」

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