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調達(暢達)13

 何となく思考がいやーな方に行きそうだったので、頭を切り替える。

 そういえば、店の入口付近に、気になる物があったのを思い出した。


「すいません。あれってなんですか?」


 黒く薄い、長方形の物体を示す。


「あー。あれね。それがよく分からないんだ」

「はあ?」

「あ、いや、食べ物であることは間違いないし、何かを干したものだ、と言う事も聞いたんだが……。その調理法が分からないんだ」


 思わず口を衝いて出た声は、店員を怯えさせたらしい。まるで言い訳するかのように、早口で言葉を並べたてた。


 いや、というか、そんな調理法も分からない謎の物体を仕入れて、何がしたかったんだ……?物を売る時に、それが何なのか、分からなかったら、売りようが無いだろう。寧ろ、仕入れる前に、その商品について、調べておくものなのでは?


 私が、疑惑の表情を浮かべたのが分かったのか、さらに続ける。


「それに、これは買った訳じゃなくて、オマケとして付いてきたものなんだ。

 ええと、アハシマ、という遠い国があってね。その国は基本的に、他国と交易をしていないんだけど、個人的に付き合いがあってさ、たまーに商品を仕入れてるのよ。その時に貰ったんだ。勿論タダでね。


 然し、タダで貰うとは言え、売る時は商品として売るだろう?だから、これはどうやって使うんだ?って聞いたのよ。そしたら、はぐらかされちまったんだわ」


 曰く、アハシマでは、交易は行っていないものの、他国に、旅に出る者は、少なくないのだとか。

 しかも、アハシマは長いこと他国と文化交流をしていない為、独特の文化が栄えているらしい。

 その為、故郷の味が恋しくなる旅人も多いのだとか。


 そんな旅人達のために、少しでも故郷の味を楽しんで欲しいと、オマケをつけているらしい。

 だから、敢えて、なんの説明もせず、その使い道を知っている人にだけ、売って欲しいのだとか。

 利益は勿論、受け取って欲しい。それが手間賃の代わりだ。だと。


 なんともまあ、利益度外視な話である。そんなことをしても、そのアハシマとやらの商人になんの得があるというのか。

 と言うか、ホームシックになるなら、さっさと帰って来れば良かろうに……。


 その、アハシマの商人とやらは、全くもって信用出来ないが、この店の店員が言いたいことは、まあ、分かった。


「で、これを置いていたけど、買う人がいなかったと、そういう事?」

「そうそう。3年は持つらしいけど、もうそろそろ1年経つから、不安なんだよね……」


 なるほど。だから、さっさと処理したくて、あんな出入口近くの目立つ所に置いた、と。


 ……つーか、これ、昆布だよね?

 さっきは黒と言ったが、よく見たら、緑掛ってるし、皺がよってるその外観といい。

 それに、アハシマは知らないけど、交易を拒んでるとか、独自の文化を築いているとか、どっかで聞いたような話である。


 もし仮に、この世界を作った神様的な奴がいるとしたら、そいつのセンスは、残念ながら、ないと言わざるを得ないだろう。もう少し色々勉強して考えてから、出直してきて欲しい。


 まだ、確実に昆布だと言える訳では無いが……、店員がさっさと処分してしまいたいのなら、丁度良い。


「じゃあ、これ貰える?」


 話の流れからして、買って貰えるとは思ってなかったのだろう。目をぱちくりとさせた。


「ええと、調理法は分かるのか?」

「想像してるのと同じだったらな」


 それから、さらに何かを尋ねようとして……。こちらをじぃっと見て、何かを納得したように頷いた。


 ……いや、何に納得したんだ?こいつは。


 まあ、アハシマの旅人とでも思ったのだろう。その勘違いをされる分には問題ない。

 むしろ、その、アハシマとやらの独自食材を、優先的に分けて貰えるかもしれないしな。


 こちらを見て、納得されたことを考えると、もしかしたら、私の顔つきが、アハシマに住んでいる人種に、似ていたのかもしれない。


 髪は見せてないが、それでも周りと比べて、顔の造形が、平たい自覚はある。……これは私に限った話ではなく、転移してきた奴ら、ほぼ全員に当てはまることだけども。


 その、アハシマ、とかいう国は、日本と対応していて、転移者達は、アハシマの人々と、顔つきがそっくり……なんて、如何にもありがちな話だ。

 ありがちだからと言って、現実がそうとは限らないが。やはり、ただの可能性の話に過ぎない。


「じゃあ、塩と合わせて、少しオマケしておくよ」


 昆布の代金を、多めに差し引いても、それなりのお値段になった。やはり、この世界の塩は高いのだろう。

 ここまで綺麗な塊だと、宝石の代わりに使えるんじゃないか?普段は宝飾品として身につけ、遭難等の緊急時は、非常食代わりとして、利用できる……って、流石にそれはないか。

 いくら綺麗とは言え、所詮塩だしな。


 値切ったり、一番安い店を選んだり、と苦労をした甲斐もあり、ヤニックから貰った金額内に、収める事が出来た。まあ、態々そんなことしなくても、余裕で足りるくらいの金銭を貰ってたのはさておき。


 ほら、節約しておけば、もしかしたら、余ったお金を貰えるかもしれないし。……あんまり期待はしてないけども。

 思わぬ収穫ではあったが、昆布らしき物を入手出来たのは僥倖だった。



 ・



「本当にそれ、食べられるのか……?」


 フェデルは、袋に入れてもらった昆布(仮)を凝視している。

 そういえば、前の世界でも、外国人は海藻を食べる文化がないんだったっけな。


「えーと、海藻、食べた事ある?」

「……かいそう?」


 ……今まで普通に言葉が通じていたから、急に海藻に対してだけ、翻訳が壊れた訳ではなかろう。

 食べた事ある、ない、以前の問題で、どうやら、フェデルくんは海藻をご存知ないらしい。


 思い返せば、いつか見た本で、この国は内陸国である、と記載してあったな。普通にここで暮らしてたら、海藻を知らないのも、無理はないのかもしれない。


「んー。まあ、前いたとこで食べてたのと似てるんだよね。詳しい話は聞けなかったから、一緒かは分かんないけど」

「なるほど?」


 納得はしてないだろうが、こんな公衆の面前で話すことではないと、気が付いたのだろう。腑に落ちない表情をしながらも、黙ってくれた。

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