表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
44/47

調達(暢達)12

 最後に買うのは……、まあ、態々言うまでもないが、塩である。

 塩を買う店も決まっている……と言うか、そもそも、売っている店が一つしかなかった。


 この店に向かうのを、一番最後にしたのには、理由がある。

 なんというか……、見た目、入りにくそうだった。というのも勿論あるが、少し中を覗いて見たところ、興味深いものが、見えた気がしたのだ。





「ここ、本当に大丈夫なのか……?」


 過保護なフェデルくんは、不安そうである。

 まあ、確かに。他の店舗は、前の世界で言う、祭りの時の屋台の様に、オープンな感じの店構えだったのに対し、ここだけ、何故かしっかりとした個店舗なのである。

 風貌は、怪しい……骨董品屋、と言えば伝わるだろうか。


 私でも不安になるのだ。保守的を極めてらっしゃるフェデルさんが、不安にならない訳がない。


 ただ、確かに怪しくはあるが、こんなに治安の良い通りでやってることなんて、たかが知れてるし、前の世界の、貧困国のスラム……なんかと比べたら、全然綺麗だ。

 それに、意外とこういう怪しいお店が、穴場だったりするのである。


 茫然と立ち尽くしているフェデルを放置し、私は店内に入った。



 ・



 店内は……、まあ、外観から受ける印象と、そう大して差はない。

 埃は、食品を扱ってるからか、流石にない。……が、物が雑然と置いてあると言うか、ごちゃごちゃしていると言うか……。然も、置いてある物自体も、綺麗な色合いではなく、どちらかと言うと、……汚い部類の色の物が殆どである。その所為で余計に、清潔感が削がれているのだろう。

 尤も、店内が原色で溢れてたら、溢れてたで、毒々しいと思っていただろうが。


「か、帰りませんか……?」


 私が店内に入ったことで、慌てて追いかけてきたのであろうフェデル。


 いや、引き止めるなら、店に入る前にするべきでは?本当に危ない店だった場合、入った時点でアウトなこともあるだろう。

 例えば、商品を買うまで、店から出して貰えない……とかな。


 そもそもここらで、塩が売ってそうなのは、この店しかない。つまり、塩を買う為には、ここに来ざるを得ない訳だ。ただのお使いすら、満足に熟せないとなると、ヤニックからの評価もダダ下がりであろう。最悪、塩を買えなかったことを口実に、キッチンの出入り禁止になるかもしれない。


 それに、ここが唯一の店なら、ヤニックも恐らく来ていると思われる。

 それなら、そこまで警戒する必要もない。……筈だ。

 仮定に仮定を重ねた結論なので信憑性はイマイチだが……まあ、最悪、フェデルを盾にして逃げれば良い。

 世話を命じられた人の為に死ねるなら、彼も幸せだろう。いや、知らんけど。


 そんな心持ちで、店内を物色して見ると、やはり、なかなかに興味深い。


 岩塩はもちろんの事、チーズや、干し肉、魚の干物?のような物まである。ドライフルーツや、乾燥野菜、果てはパスタまで。

 ここは、乾物屋?のようなものなのだろうか。


 我々が前の世界で普段食べていたような塩がないのは、技術的な問題だろうか?

 海水から塩を作るのは、手間と技術が必要、と聞いたしな……。岩塩が取れるなら、わざわざ作る必要性もないのかもしれない。


 この岩塩の大きさからして、客自ら、カウンターに持ち運ぶシステムではないだろう。

 カウンターに目を向けると、これまた、怪しげな風貌の男が、ニヤニヤ笑ってこちらを見ていた。


 茶色の髪に茶色の瞳。白い肌と、この世界では珍しくない色彩を持っているが、健康状態が不安になるような、痩せぎすな体に、顎を不清潔に色取る、無精髭。極めつけは、本心から笑ってるとはとても思えない、その笑み。

 正直、商売をするのに、そんな風貌でやっていけてるのだろうか?と、関係もない私が、不安になってくる程だ。そんな見た目だから、客から怪しまれ、満足な利益も得られず、栄養失調になり、痩せているのではないか?という邪推まで浮かんでしまう。

 ……まあ、この店の雰囲気とマッチしていることに間違いはないのだが。


 あくまでも、兄弟設定で通したい為、本当はフェデルに、話しかけて欲しかったのだが、私から見て、店員に近い位置を陣取り、警戒したまま、動こうとしない。

 職務を全うしている点は尊敬するが、何というか、今じゃないだろう。

 出そうになる溜息を飲み込んだ。


「すいません!塩、ください!!」


 ずいっと、カウンターに、体を乗り出す。本当はこんなことしたくないが、この方が子供っぽいだろう。止むを得ない。


「おや、お嬢ちゃん。元気だねえ。どれくらい必要なのかな?」


 瞬間、フェデルの体が強張った。


「……何故分かったのですか」


 聞いた事も無いぐらい、低い声である。

 ……いや、何故そこでそんな反応をするんだ?

 店員が、どういう思惑があって発言したか、不明な以上、肯定してしまうのは悪手だろう。対した根拠がない場合は、否定してしまえば、それまでだしな。

 前に本で読んだ、スキル?だか何だかで特定された可能性も考えられるが……。少年のような見た目で歩いていたのが、女だとバレたからと言って、特に大きな支障はない。流石に、黒髪がバレてしまったら、ヤバいかもしれないが……。

 それよりも、この過剰な反応の所為で、店員に不審がられる方が、致命的だろう。


「い、いや、そりゃ只の勘だが……。何となくそう思っただけだから、そんな警戒するなよ……」


 なあ。と此方に同意を求める様に、困惑した顔で見られた。

 そりゃあ、何気なく発した一言で、あそこまで敵意を向けられたら、動揺もするだろう。

 そして不用意な言動で、立場的にこちらが上にあることも、露見した……と。


 まあ、そこまでこの店に警戒もしていないから、別に構わないのだが、それにしたって、融通が効かない男である。

 相手に情報を与える事は、それだけ、危険な行為だと言うのに。


「そんなことより!塩だよな?確か……30ポンド必要なんだ」


 結果、ありとあらゆる反応を放棄することにした。私は別に言い訳しても構わないのだが、同行している輩が、どう動くのか、予測不可能だからな。


 思考停止とも言う。


 重さの単位は、前の世界で聞いたことはあるものの、ポンドが何グラムだったのかは、知らない。そもそも、前の世界のポンドと同じものなのかどうかも怪しい。

 つまり、どれくらいの岩塩を買うことになるのか、分からないのだが、まあ、フェデルが何とかしてくれるだろう。

 ヤニックが、そこまで非常識な量を指示するとも思えないし。


 店員は、天秤?のようなものを取り出し、岩塩を運んできた。

 透き通るように透明なそれは、まるで宝石のようだ。小さな欠片くらいの物なら、見たことあるけれど、ここまで大きな塊は初めてだ。なんだか食べるのが、もったいない気がしないでもない。


 デジタルのはかりがないのは予想出来たが、どうやら、置くだけで重さが分かる……昔の体重計のような……、ばねはかり?というのだろうか?みたいな構造の物はこの世界には、浸透してないのかもしれない。


「うん。30ポンドだとこれくらいだね。他に欲しいものは無いかい?」


 天秤の片皿には、多くも、少なくもなく、まあ、妥当だろうな、と思うような量が乗っていた。

 ただ、南瓜と合わせると全体質量はかなり重い気がする。

 ヤニック、あんな見た目をして、結構な力持ちなのか?それともやはりこの世界の基準がおかしいのか?



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ