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調達(暢達)11

 

 いや、正直、そこまで熱を込めて伝えたい訳では無いのだが、前置きが長すぎて、必死に否定したいように見えるな……。自分の中では割と反射的に思っただけなんだけども。

 そもそもの話、袋を用意し、持っていけ、と言ったのはヤニックなんだよな……だから、いくら褒めても、フェデルの心には届かない、と言う。折角必死に褒めているのに、実際に褒めているのは、顔も名前も知らない、使用人の料理人……。


 滑稽すぎて笑えない。寧ろ同情の念さえ湧いてくる。とか言いつつ、盛大にざまあ、と思っているのは、さておき。


「ええ……と、ありがとうございます?袋はあるんですけど、これ、入れるの重いですよね?私が入れましょうか?」


 そこは、何食わぬ顔で、微笑んでおけば良いものを、何とも言えない表情が、出てきてしまっている。然し、あまり人を誑かすのに慣れていないなら、まあ、仕方ないか。寧ろ、普段から人を騙していない証拠にもなっているので、これが態となら、天晴と言わざるを得ないだろう。

 それを向けられた彼女は、一目惚れはする物の、状況はしっかりと理解できるらしい。


「い、いえ、大丈夫です!私が入れます!」


 別に入れると言ってくれているので、厚意に甘えて入れて貰えばいいものを。まあ、アタックしたつもりが、逆効果だったので、焦っているのかもしれない。

 だからと言って、ここで南瓜を入れた所で、フェデルの好感度が上がるとは思えないが……。

 まあ意味が無くとも、好きな人には、少なくとも嫌われたくない物なのかもしれない。


 明らかに彼女の細腕では、無理があると思うが……、本人が大丈夫と言ったからには、それ以上、止めようもないのだろう。心配そうな顔をしつつも、フェデルは彼女に袋を渡した。


 彼女は、と言うと、意外なことに力があったらしい。……少なくとも、私よりは。

 その証拠に表情を崩しながらも、片手で南瓜を持ち上げて見せた。少々不安になる動きではあるが、流石、この店で働いている……と言うべきだろうか。


 いや、もしかしたら、この世界の人間そのものが、前の世界の人間より頑丈な造りなのかもしれない。

 まあ、フェデルが心配していた時点で、この世界の人間も、前の世界の人間も、そこまで大差があるとは思えないが……。



 そんな現実逃避をしていると、すべての南瓜を入れおわったのか、彼女はこちらを見る。


「では、4000ヴァロです」


 流石の彼女でも、南瓜五個は片手で持てなかったのだろう。それでも危なげなく、持ち上げている訳だが……。


 何も言わずに、そのまま支払おうとするフェデル。その腕を掴んで、冷たい目で見てやる。

 本当は、思い切り罵倒してやりたがったが、店の前だからな……。ただ言い争うだけならまだしも、何故値切らないのか?と、ここで言う訳にもいかないだろう。

 言いたいことをはっきりと言えないのは、ストレスが凄まじいが、仕方がない。


 目線だけで真意が伝わるか、聊か不安だったが、問題はなかった。と言うか、必要以上に怯えているような気はしなくもないが、伝わらないよりは良い。普段から、目つきが悪いだの、不機嫌そうだの言われる、この顔が役に立ったわけだ。


「……あの、無理だったらいいんですけど、出来れば、値段を下げる事って……」


 言ってて、恥ずかしくなったのか、申し訳なくなったのか、もしくはその両方か。最後の方は最早音になっていなったが、それに被せる様に、救いの神?が現れる。……いや、フェデルにとっては、救いでもないのかもしれないな。


「勿論!!任せてください!!」


 満面の笑みで即答。

 それは、救いの……神と言うよりは、天使と表現した方がしっくりくるだろう。


 これだけ、キラキラした表情で見てくると言うことは、全然諦めてないし、今後、それなりにしつこくアプローチしてきそうだ。

 そう考えると、フェデルにとっては、悪魔のように見えたかもしれない。

 まあ、私の知ったことではないが。


 彼女も彼女で、そんなに、直ぐ値下げに応じていいのだろうか?

 店の主人のようには見えないし、主人が近くにいるようにも思えない。普通に考えて、主人の許可なく、商品の値段を変える従業員はいないだろう。そんな事をしたら、一発で首だ。

 まあ、主人と親戚だったら、多少は融通してもらえるかもしれないが、それでもなかなか厳しい気がする。

 もしかしたら、自腹で負担するつもりなのかもしれないな……。それなら、納得できるけども。そこまでする必要が分からないというか、そこまでして、口説きたいのは、流石にフェデルが可哀想というか……。

 いや、よく考えたらそうでも無いな。


 呆然としていたようだったフェデルも、漸く立ち直ったのか、


「じゃ、じゃあ、3980ヴァロとか……?」


 と、震え声ではあるものの、言葉を発する。


 いや、3980って……、かぼちゃ1個に換算して、5ヴァロしか値引きできてないじゃないか……。

 その値段だと寧ろ、大金値切るより恥ずかしくないか?確実に断られない線を狙ってるみたいで。

 それに、そういうチマチマしたお金を気にする方が、ケチなように思える。


 ……然し、値切り交渉の基本として、初めは驚くぐらいの安値を態と言うと聞いたな。

 そうすることで、次に言った金額が定価から、かなり値引きされた金額でも、そこまで安いように感じないのだとか。

 つまり、本当に値引きしてもらいたい分よりも低めの値段を言うのが、定石、ということだ。


 この話を踏まえると、この値引かれてるんだか、値引かれてないんだか、判断しにくい程の金額設定は、値引きし慣れてない、という観点から見たら、ケチでは無いように見えるのか……?


 ……いやいや、何にせよ、意味のわからない値引きである事実は変わらない。

 どうせ値引きしなければならないのだから、そんな中途半端な値段にしずに、ガッツリ値引いて貰えばいいものの……。

 これは、ちゃんと値段まで指示しなかった私が悪いのだろうか……。


「え?!3980ヴァロですか?!も、もっとお値引できますけど……」


 流石に口を出すべきか、と思案していたところ、店員さんの助け舟?が入る。

 まさかの売る側からの値引き提案。なんというカオスな状況。


「ええと、どれくらいがいいと思います?」

「あ、そ、そうですね……、3500ヴァロくらいなら」

「じゃあそれでお願いします」


 なんというか、どちらの心情も想像はできるものの、理解はできないような会話がなされ、フェデルは戻ってきた。


「買ってきま……たよ。南瓜」


 まるで蒸かした南瓜の如く、ホカホカした表情を浮かべるフェデル。

 いや、見てたし、そんな、満足気な表情を浮かべるような行程だったようには思えないが。

 まあ、言わぬが花と言うやつなのだろう。


「うん……お疲れ」


 そう言って生暖かい目で見守ってやることにしたのである。

 ……傍から見たら、冷たい目線だったかもしれないが。

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