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調達(暢達)7

 そんな事よりも、そういう環境って……言い方よ。彼なりにオブラートに包んでいるつもりなのは分かるが、逆に皮肉の様に聞こえるのは面白い。面白いのだが、彼の私に対する印象に関しては、疑問に思わざるを得ない。

 前々から、いや、ずっと思っているのだが、なんか、勘違いされてないか?

 いやいや、確かにな、勘違いと言うか、ちょっと、そう見られるといいなあ、と思いつつ、行動していた節はあった。……のだが、そこまで本気でやってた訳でもないからなあ……。お遊び半分でやったのに、ここまで効果が出ているとなると、逆に怖くなってくる。

 私の演技力が素晴らしいあまりに、力を制御していても、周りに大きな影響を与えてしまう……的などこぞの少年漫画の主人公でもあるまいし……。


 ……いや?よくよく考えてみたら、私たちが元居た世界とは、環境が違うのか。……ん?いや、それでも……、どうなんだ?前の世界だと、口が悪いことと環境の悪さは……、まあ、直結しない……事もないのか?然し、我が家は口は悪かったが、環境は普通だったように思う。多分。

 そう思うと、貴族で口が悪い、と言うのは想像できない。そうでなくても、学者とか、商人、宗教関係の人間も言葉遣い良さそうだし、割とそこそこの地位を持っている人間ってのは、悪い言葉遣いはしないのかも?

 ……まあ、騎士は悪いかもしれないけども、どう足搔いても、騎士……と言うか、体育会系関係者に見えないのは、自覚してるからな……。


 ただ、治安が悪い民は兎も角、農民くらい……いや、くらいって言うのも可笑しいけども、農民だと口の悪い人間も少なくないんじゃないだろうか?

 つまりは、農民ではない、と思われている……?まあ、農民ではないけども、地位があるかと言われたら、そんなことはないんだよなあ。


 うーん、成程。つまり、フェデル的には、少なくとも私が農民ではない、と思っている訳だな?

 しかし、私的には、地位が高いと思われている、と言うか、今も思っている節があるので、イマイチ納得できない、と。そういう事か。

 気が付いてしまった以上は、最早、地位が高いと思われていた、と勘違い?していた事自体が、傲慢な気もしてきて、まあ、そんなものなのかな、と認める気にはなんて来たけども……。

 まあ、すっきりしない事には変わらないのだが。


「まー、文化が違うからな。多分、にーちゃんの想像してるような感じではないと思う。こまけーこと、説明するのは、難しーけど」

「うーん。まあ、確かに、見たこともない世界を想像するのは、難しい気がする。説明してくれても、僕が理解できない可能性も全然あるし……。そうなっちゃうと、申し訳なさすぎるからなあ。それなら、このままでもいいような気はする。うん。僕の中では、この世界とは勝手が違うんだな、って事は忘れないようにしとこうかな」


 ふむ。いや、私が言葉足らずだった割には、良くこちらの言いたいことが理解出来たな、と。その読み取り能力と、言葉の選び方は素晴らしいと思うが、そこまでの能力があるなら、もう少し……こう……。普段から、その能力を発揮していただきたい。何と言うか、うん。

 まあ、執事と言う仕事をしている以上は、これくらい気が利いてても可笑しくはない。ただ、普段の言動からすると、違和感があるというか……しっくりこないと言うか……。もやもやしたところで、本人に聞いても、理由は分からなさそうだが。だから、聞きはしない。そしてモヤモヤも、暫くは晴れない、と。


 ……ま、忘れよう。


「うん。それなら助かる。ってか納得してくれたなら、他の買いに行きてーんだけど」

「あ、ああ。ごめんね。うん、行こうか」


 物凄く申し訳なさそうな顔をされた。恐らくだが、彼的には、いつものように、敬語で謝りたい所なのだろう。

 それを持ちこたえた所は、良いのだが、その分のやりきれなさを表情に出されてもなあ、と言う。まあ、どうでも、いいけども。無視するし。


「そう言えば、次はどこに行くんだい?」

「次は南瓜だなー。買う所は決めてあるから、まあ付いてきて」


 説明するのも面倒なので、話もそこそこに歩き出すと、フェデルも黙ってついてきた。

 目的の店の近くに来たので、手で彼を止める。


「ここから、まっすぐ正面に見える青い屋根の店があるだろ?あそこで買いたい」

「若い女性が店番している所?」


 他の店の前に立っているのは、おじさんとおばさんだらけで、若い女の子が店番をしているのは、ここから見える範囲だと、私が示している店以外にはない。

 青い屋根の店は、他にもあるから、私の使った言葉よりも、適切だと言えるだろう。

 それは分かるのだが、個人的には、あまり言いたくなかった使いまわしなので、代わりに行ってくれた点は感謝している。意思疎通が出来ている事が分かったからな。


「そう。そこだな」

「……え?なんでわざわざ手前で止まったんだい?」


 頷いたまま、動こうとしない私に、痺れを切らしたのか、混乱気味に聞いてくる。

 別に焦らしたかった訳ではなく、言葉を選んでいるうちに、時間が過ぎてしまっていただけなのだが。

 ふむ。


「まあ、ハッキリ言っちゃうと、店主に聞かれると不味いことを、今から相談する為だな。作戦会議って奴?」

「それは流石にハッキリ言いすぎなんじゃ……」


 フェデルが心配そうに、キョロキョロと辺りを見渡す。そんなに警戒せずとも、これだけの距離があれば、流石に彼女には聞こえないだろう。彼女も接客で忙しそうだしな。

 それ以外の人間には、別に聞かれたところで、どうってことはない。別に犯罪を犯そうとしている訳でもないんだからな……。


「ついでに、もう一つハッキリ、そして端的に言わせてもらうと、あの店主を誑かして、南瓜を買いたたいてほしい訳だ」

「いや、えぇ……」


 何か反論しようとしたが、何も思いつかなかったのか、呆れてしまったのか、はあ。と深い溜息を吐くだけに終わった。そんな反応をするような程、可笑しなことを言ったか?まあ、倫理的かと聞かれたら、違うかもしれないが、これくらいの事は、誰だってするだろう。

 と言うか、さっき、割引に過剰反応して、無駄な物を買おうとしていた癖に、そこは抵抗あるのか、と。

 貧乏性なら貧乏性で、得することだけ考えてくれれば、此方としても、すっきり納得できるのだが。


「と言う事で、頼んだ」

「え、ちょ、ちょっと待って。まず何でそういう結論になったか、説明して欲しい」

「説明も何も、安く買えた方がいいに決まってるじゃん」

「それはそうだけど、いや、でも、誑かすって……、言い方があれだし、その、そんな事いきなり言われても……」


 ふむ。割と自分の事イケメンだと自覚してて、それを意図的に武器に使っている人種だと思っていたのだが、違うのか。

 だとすると、私に対する態度は、なんなんだ、と言いたいところだが、まあいい。


「大丈夫だって。なんかそれっぽい事言ってたら、何とかなるから」

「ざっくりとし過ぎじゃないか?!そんな適当な感じで、割引なんてして貰えないと思うんだけど……」

「まー、して貰えなかったら、貰えなかったでいいから」

「無理だよ!ってか、彼女も、見ず知らずの奴に、いきなり口説かれて、値下げしろ。なんて言われても迷惑でしょ……」


 あまりにも適当に相手しすぎたのか、フェデルはむっと顔を顰める。

 と言うか、こいつ気付いてないのか。


「……いや、分かってたら、申し訳ないし、そんなに確信がある訳でもないんだけど、あの人、にーちゃんの事、結構気になってない?」

「え?いや、そんなことないでしょう……?」


 困惑気味な表情を見せる彼に向けて、店主の方を示す。


「まあ、多分見て貰ったら、同じ感情を抱いてもらえると思うけど……」


 私の指につられたのか、チラリ、と店主の方を見るフェデル。運が良かったのか、悪かったのか、どうやら、彼女と目が合ったらしい。ビクリと肩を震わせ、さっと目を逸らした。


「……なんで、彼女は接客してる筈なのに、目が合うんだ?」

「さっきから、ちらちら見てたからなー。そりゃ目が合っても不思議じゃないだろ」

「なんか、こう、変な目で見られてたんだけど」

「恋する乙女って感じだったな」

「……恋する乙女ってあんなんなのかい?」


 あんなん、は、流石に、言い過ぎではなかろうか。普段、言葉に気を付けているフェデルが言うくらいなのだから、相当嫌なんだろうな、と言うのは伝わったが……。


「多分?俺もそんな詳しい訳じゃねーから、確信は持てないけど」


 暫く黙り込んだ後、サッと顔が青ざめた。

 何か、宜しくない事でも思い出してしまったのだろうか。まあ、イケメンだからな。そういう目で見られることは少なくなかったのだろう。寧ろ、そういう目で見られていたのに、今まで気がついていなかった方が、問題な気がする。


「今までそういう感じで見られた事、無かったのか?」

「……思い返してみれば、合ったような気はする、けど、あんまり気にしてなかった、と言うか……なんか、好かれてる、って理解してみると、ちょっとゾッとするよね」


 うーん。そこまで宜しい容姿をしている訳ではないから、気持ちはさっぱり分からん。余程の事がない限り、モテればモテるだけ、得するような気がするのだが。そう思うのは、モテないからだろうか?


「まあ、そんなもんなのかな。それでも嫌われるよりゃ、マシな気がすっけど」


 そこまで強い口調で言ったわけではないが、反論されたこと自体が気に食わなかったのだろう。少し顔を顰め、大きめの声を出す。


「考えても見てよ!初対面の相手に、ジロジロ、熱っぽい目で見られるんだよ?気持ち悪いって訳じゃないんだけど、なんか怖くない?」

「そう?でも貴族だと初対面でも、相手に言い寄るって、よくある事なんじゃねーの?」

「……あるけども、それとこれとは話は別でしょ。貴族の場合は、例えば、地位……とかね。目的がある訳でしょう?でも今回は、それが分からないから……」

「目的は、一目惚れじゃね?」

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