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調達(暢達)5

「教会が定める人間の定義は、無駄な部位がついていない者、の事を言うんだ」

「無駄な部位?」

「例えば、尻尾や角や獣の耳、羽なんかがあげられるね」


 あー。そう。

 そう言う。

 それは思いつかなかったわ。確かに本なんかを読んでても、そう言う、亜人?とか獣人?とか出てきてたわ。この辺で見かけないから、てっきりこの世から滅んでる者なのかと思ったけど、そう言う訳じゃないのな。

 まあ、人間扱いされてなかったら、そりゃ城では見かけん訳だ。城どころか、まともな感性してたら、この国自体に近づかないだろう。


「一応聞くけど、その羽とか生えてる奴って知性はあるんだよな?」

「同等くらいには」

「じゃあ返り討ちに合ったりしないの?」

「……、教会曰く、女神様は、我々のような者以外を、人間とは、認めていない、との事」


 ……いや、全然関係ない事だけども、この国の宗教のトップの神が、女神らしいことにまず驚いたわ。一神教なら、神に性別はないだろうし、多神教でも、女神がトップなのは珍しい気がする。

 そう言えば、前の世界の管理者?も女性のようだったな……。

 もしかして、この世界には、本当に神……女神が存在するのだろうか?


「ってか、答えになって無くね?返り討ちはなかったって事?」

「無くは無い、けども、そもそも、我々の方が圧倒的に人数が多いからね……、それに、反撃にあったとしても、被害が少ないことが多かった。奇跡と言っていい程には」

「……因みに、一対一で戦ったら、どっちが強い?」

「……我々は、人間の中で最も弱い種族、と言われている」


 それはやってる可能性が高いな……。女神よ。いや、本物かは知らんが、それに類似したものが、居そうな気はしてる。

 じゃないと、人数が多いとは言え、その他大勢を排他して、一番弱いのが勝てるとは思えんのだよなあ。それか他の方々が、余程心が広いのか。他の方々の仲が悪すぎる説もあるな。


「まー、話は大体読めてきたかもしんない。要するに、宗教上の理由で、教会はその他大勢さん達を奴隷にしている、と。それに反対しているのが、姫様で、姫様と教会の仲は悪い。と」

「そうだね」

「でも、にーちゃんはあんま、その宗教信仰してなさそうだな」


 言われたフェデルは、何故か視線をこちらから外し、遠くを眺めた。


「まあ、前のご主人様が、教会を嫌ってたからね」


 ほう。前の。

 そう言えば、以前の話は聞いたことなかったな。

 単純に今までの話を聞いてて、前の主、姫様説が浮上したが、直ぐに頭から追い出す。フェデルの語り口調からして、それはない。姫様の使用人だったにしては、他人行儀が過ぎる。


 まあ、気にはなるが、此方から聞くことでもないんだよな。何か思う所があるようだし、彼方からこの事を話してくれたら、仲良し度の指標になるかもしれん。


「……と、言うか、貴族やその周辺で、宗教にのめり込んでいる方は、少ないんじゃないかな」

「なんでだ?」

「言い方悪いけど……、ある程度の知識と、教会の内情を知っていれば、怪しいな、と言うのはなんとなく理解できるかな、と」


 ……そんなに酷いのか。教会。そんな団体に権力持たせていいのか?って言うか、この国相当ヤバいんでは。いや、姫様がいるからまだマシなのか?

 ……ふと、初っ端聞いた姫と教会人の会話を思い出したのだが、そーいや、奴隷にするとか言ってたよな。まー勇者と言っても、余所者だし、力も強いから、そうするのが賢いよな、と思っていたんだが。

 奴ら、人間は奴隷にしないんだよな?我らの事を奴隷にしようと思ったって事は、我ら、さては人間扱いされてないな??

 で、教会は、見る人が見れば直ぐ分かる、やばい組織、と。



 ……今更だが、この国からさっさと逃げた方が良くね?いや。他の国が安全だ、と言う保証もないか……。

 何も手出しはされてない(と思われる)現状、姫様……ともしかして王様、の存在が教会の奴らの抑止力になっているのかもしれない。いつまで続くか、不安定なものではあるが、こんな弱い状態で、旅をする訳にもいかないから、ある程度、強くなるまでは、現状維持せざるを得ない、か……。あんまり宜しくない状況だが、最悪でもないので文句は言ってらんねえな……。



「あ、ついたみたいだね」


 言われて、視線を下から、真横に移す。

 今までとは違い、明らかに通っている人の数が増えた。店は、城前通り?と違い、露店になっている。なるほど、確かにこれは市場だわ。

 通っている人々も、貴族っぽい人は、殆ど居ない。それでも身なりが汚すぎる人もいない訳だから、その点は安心出来る。


 そんな中、フェデルの仕草や顔立ちはやはり、注目を集めたのだろう。

 店を通る度に、


「そこのお兄さん!」


 なんて声をかけられている。

 彼もそんな扱いになれていないのか、呼ばれる度にそちらにフラフラと向かっていった。律儀な奴だな……。


 特に急いでいる訳でもないので、止めなかったら、時間がかかるかかる。完全にカモだと思われてるのでは……?

 まあ、そのお陰で、何となく物の相場が分かったような気はする。

 やはり、というか、なんというか、薄々分かってはいたが、前の世界と全く違う世界、という訳でもないらしく、全く同じ名前姿形の食材なんかが存在している。かと思えば、全く見たことも、聞いたこともないような食材も並んでいる訳で……。

 ちょっと、どう言う仕組みなのか、理解が出来ないが、まあ、そんなことを考えるだけ無駄なのだろう。


「買うのは、じゃがいも、カボチャ、塩、だっけ?」

「……うん、そうだね……」


 一通り市場を物色して、満足した私はフェデルを引っ張り、市場から外れた小道に連れ込んだ。

 最早、満身創痍そうなフェデル。

 あんなの適当に断っときゃいいだろうに、まともに相手をするからそうなるのだ。


 実の所、声をかけられた直後くらいから、ヘルプミー的な視線は送られて来ていたのだが。まあ、無視だよな。

 こちらにもやることはあるし、今後のフェデルくんの事を思っても、自分から断れるような人間になってもらわねば困る。

 それに、流石に押し切られて何か買わされそうになったら、引き離してやったのだから、是非とも感謝してもらいたい。

 少なくとも、そんな、非難じみた目を向けられる謂れはねえんだよな。


「じゃあ、あの店が一番安かったから、あそこにしようか」


 指した指につられるように、フェデルの視線が移動していき……、ピタリと固まった。


「……あの、あそこって、人一倍押しの強いお……方がいた……」

「そうね。商魂逞しいんじゃね」


 どうも、さらっと言ったのが良くなかったらしい。その一言に、心が折られたのか、ガックリと項垂れてしまった。

 そんなに嫌なのかね。まあ、どれだけ、嫌そうにしてても、連れて行かないという選択肢は、発生しない訳だが。


 あまりにも、フェデルの足取りが重いので、それを追い越して、先にズンズンと進んでいく。

 いくら嫌でも、仕事への責任感は、しっかりしているらしく、つかず離れずの距離を維持していたのが、逆に哀愁を感じられた。


「あの、すいません。これください」


 ジャガイモを指し示す。ざわざわと騒がしい中、そこまで大きい声を出したわけでもなかったので、聞こえていないことも覚悟した。然し、素早く反応し、芋を掴んでいるおばちゃん。流石である。


「あいよ。何個欲しいんだい?」

「四十個くらい、かな」

「そりゃまあ、随分と買うもんだねえ」


 呆れの混じった声で、言われる。……まあ、普通の家庭では使わない量だよな。いくら日持ちするとは言え、ジャガイモなんて年中取れるから、買い貯めしない人はしないのかもしれない。ジャガイモパーティでもするのか?と思われたのだろうか。


「まあ、日持ちすっからなー」


 そう言えば、一応は納得してくれたようで、でっかい紙袋にジャガイモを詰め始める。なんか、詰め放題みたいになってんな……。ご愁傷様。


「しかし、これ、結構重いけど持てるのかい?」

「ふっ。これくらい余裕。余裕」


 と、ほざいてはみる物の、どう考えても、重いんだよなあ……。然も、取っ手とか付いてるならまだしも、紙袋だからなあ……。どうやって持つんだよ。まあ、バラバラで渡されるよりは、マシだけど。

 ……これって、袋代請求されないよな?いや、されても別に、金は足りるから問題ないのだが。ただ、何の確認もなく、袋に入れられて、金払わされるって、新手の詐欺で訴えられるんじゃね?


 さすがに片手では持てまいと、両手を出したものの、おばちゃんが手を離した途端、覚悟してたよりも大きな力がかかり、ガクンと下に引っ張られた。

 これ片手で持ってたのか……おばちゃん。

 買い物中、ずっとこれを持ってないと、いけない訳か……。持つって言った手前、やっぱ重い。なんて死んでも言えねえしなあ。ちょっと、後悔したが、覚悟を決めた。


 その瞬間、両手に抱えていた袋が宙に浮く。予想外の出来事に、戸惑いながらも、上を見ると、まあ、そこは予想外でもなく、フェデルがいた。

 なぜ急に奪い取った?声を掛けなかったことで、準備が出来ずに、バランスを崩して転んでしまったら、どうするつもりなのだ。いや、そんなことでは転ばんけども。


「おい、にーちゃん。勝手に取んなよ」


 流石に奪い取ることは無理だと、悟っているので、服を引っ張って、せめてもの抵抗を見せる。困ったような顔を見せるだけで、大したダメージにはなっていないようだが。


「結構重いだろ?これは僕が持つから、ほら、他のもあるし」


 とか言いつつ、全部持っていきそうなんだよなあ。力なさそうな見た目してる癖に、どう足搔いても勝てないのは、癪に障る。だからと言って、努力して、筋肉付けようとは、欠片も思わんけども。


「おや、あんた、さっきいた格好いいお兄ちゃんじゃないか!あんたら、兄弟だったんだねえ……」


 そう言う、おばちゃんはじっと、フェデルの方を見ている。

 ……なんか目の色が変わった気がするな。これは、あんまり、宜しくないのでは……。

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