夏祭りで君にすくわれた私はそのままお持ち帰りされちゃう
今、私は夏祭りで知り合ったばかりの男の子と一緒にいる。
しかも一緒に夏祭りを回ったりして、まだ出会ったばかりなのにまるでこれじゃあ恋人みたい……。
って、待て待て私。一緒に居るだけ一緒に居るだけなんだから。
君は恋人なんかじゃないんだからね。
とりあえず一つ深呼吸。
すぅすぅ。はぁ、落ち着いた。
そんな私を君が不思議そうに見ているのに気がついて、私は慌ててそっぽを向く。
どうしてこんな事になってるのかと言えば、それは夏祭りの屋台での事だった。私を狙う乱暴な人達に散々追い回されて屋台の隅で力尽きて休んでいた所を君にすくわれたのだ。
それはひょいっと鮮やかで、私はすくわれた事にも気づかず君にすくわれていたんだっけ。
「大丈夫?」
って君が声を掛けてくれた事とても嬉しかった。
それはいいんだけど……。
私ははぁと一つ溜息をつく。
でも、どうしてこんな事に。君も君だよ。何食わぬ顔で一緒に夏祭りを見て回ってるなんて一体どういうつもりなの?
もしかして、もう自分のもののつもりなのかな。
私達、まだ知り合ったばかりなのに君って意外と図々しいんだね。
ふと、君を伺うとまだ君は私の顔を覗きこんでいた。
「かわいいね」
そして、そんな事を私に言ったりするんだから。
ふ、ふん。そんなんじゃ私は騙されないんだからね。
顔が赤くなってるですって? ご愁傷さま。顔が赤いのは元からよ。
打ち上がった花火が夜空を照らして、それを一緒に見たくらいで彼氏面できると思ったら大間違い。私はそんなちょろい女の子じゃないんだから。
あれ、向こうから来るのは君のお父さまとお母さまかな。
って、ちょっと待って。
そんなご両親に紹介なんてまだ早いんじゃない?
君ってばそんな自慢げに私の事を紹介して、かわいいでしょなんてご両親に言うものだから思わず私はいたたまれなくて落ち着かなかったよ。
一際大きな花火が夜空に咲いて、ほのかに落ち着いた空気が流れてくるね。
そもそもお祭りも終わりかな。
君も家に帰るんだね。
ってちょっと待って。私も連れて行くつもりなの?
ああもう、君は私の動揺なんておかまいなしに、どんどん進んで行ってしまうんだから。
もしかして、私このまま君にお持ち帰りされちゃうの?
そんな駄目だよ。私達、今日知り合ったばかりなんだよ。
まってまってまだ心の準備が。
とりあえず一つ深呼吸。
すぅすぅ。うん、落ち着いた。
わかったよ。
私の事、お持ち帰りしてもいいけど、ちゃんとかわいがってよね。
しょぼい金魚鉢だったら承知しないんだからね。