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ミオゼルガ王子は、宮廷内をおしとやかに、しかし、急ぎながら歩いて行く。すぐにディオン兵長と話をつけ、数人の手練れを用意できた。あとは、具体的な計画を立てて、竜博士を捕まえるだけである。
ミオゼルガ王子は頬が緩みそうになるのを抑えながら、自室へと急いだ。そのため、扉を開いて部屋へ入った途端、笑いを抑えきれなくなった。
大声をあげはしないが、くくく、とくぐもるように笑い、机に手をついた。
(これほど上手くいくとは! あとは竜博士を捕まえれば良いだけだ。至極簡単ではないか。何なら、赤竜も仕留めてみせよう。そして、そのあとは……)
これからのことを考えるだけで笑いが止まらない。
竜博士を見つけたことは、まったくの偶然であった。部下をある地点へ、別の目的で向かわせていた途中だったのだ。
すでにどこかへ行ってしまったという虚偽の情報を信じていたわけではないが、アゴルニア王国とデトルトだった港街との間の山岳地帯にいることなど、誰が予想できようか。
何の目的でそこにいるかは、誰にも分からない。しかし、そのようなことはミオゼルガ王子、ひいてはアゴルニア王国には関係のないことである。今重要なことは、赤竜の情報を引き出すことだ。
ミオゼルガはひとしきり笑ったあと、ベッドへ寝転がって天井を見つめた。
(しかし、お父様もぬるいことをおっしゃる。丁重に扱う必要などないだろうに。口を割らないのならば拷問すれば良いのだ。それが一番確実だということを、お父様は知らないと見える)
今までに、王に内緒で、何人かの罪人を拷問にかけたことのあるミオゼルガは、そう考えていた。時間の差はあれど、拷問で口を割らない者などいないのだ。誰もが痛みを恐れ、自分を恐れる。それは、何にも代えがたいほど、心地の良いものであった。
人心は恐怖で縛ることが最も有効である、とミオゼルガは信じていた。誰に習ったわけでもなく、幼少のころから、そういった思想を持っていた。幼い時より頭の良かった彼は、誰にもそれを明かすことなく、今まで生きてきたのだ。
そして、実行できる立場になって、衝動を徐々に抑えきれなくなっていた。恐怖への憧れが、彼を動かしていた。
その日から十日ほどで、竜博士を捜索するための準備が終わった。王の兵の中でも選りすぐりの精鋭が五人で向かうこととなった。
「それでは、行ってまいります」
「捕まえたら必ず王よりも先に、私に報告をするように」
「それは……」
「別人だったらどうするつもりだ? 私が本物の竜博士か確認して、それから直接王へ伝える。何もそう何度も怒鳴られることもなかろう」
ミオゼルガは優しく微笑んで言った。自分のやりたいことを秘密裏に行うには、味方であると思わせておかなければならない。そういった意味では、兵たちは王よりもミオゼルガに忠実であった。
兵たちは皆、彼に感謝を告げて、宮殿を出発した。
誰一人として、ミオゼルガ王子の胸中を知る者はいないのだ。
(さて、上手く捕まえてくれたらいいが……。私は歓迎の準備でもしておこうか)
ミオゼルガは足取り軽く、王宮へと帰って行った。