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ヤマさん、魔法薬屋さんに憧れる。

「で、なんだっけ? なんで川をプッカの木で覆っているのかって言う話だっけ? 」


ギィが歩きながら橋の下を覗き込む。


「そうそう。少なくともココから見える部分は全部覆われとるやろ? 葉っぱとか川に落ちてゴミに成らんのやかっち思って」


「あー。プッカの木ってさぁ、夜になると光るんだけど、光ってる時は水に溶けるんだ。川に落ちなくても、完全に水分が抜けてカラカラに成るまでは、夜になると光って水に溶けるから大丈夫。しかもプッカの葉が溶け込んだ水って浄化されるんだよね」


ギィが言うには、大昔、排水や上下水道、浄化槽がまだ今みたいに整備されて無かった頃、川の汚染問題が深刻化したのだと。

そこで当時の議事会は、育つのに綺麗な水が沢山必要な為に、自ら近くの川の水を浄化して綺麗な水を用意すると言うプッカの木の性質に目を付け、川に沿って植樹する事を決めた。


あちこちから大量の苗木が用意され、始めは川から1~2メートル離して植えられたが、翌朝、全ての苗木が川の側面ギリギリに移動し、木が川を覗き込むような形になっていたそうだ。


当初は夜間に誰かがイタズラでもしたのだろうかと、再び1~2メートル川から離して植え直したのだが、翌朝になるとやはりプッカの木が川の側面ギリギリで川を覗き込んでいる。


不思議に思い再び植え直した後、夜間に見張りを立てた。面白がった住民も様子を見に来ていて沢山の住民に見守られる中、プッカの木は土から這い出て川のフチに移動すると、自らそこに根を下ろし、川を覗き込む姿勢で動きを止めた。


実はそれまで、プッカの木が自力で移動できるとは知られていなかった。

気付くといつの間にか川の周囲に生えているなぁ。とは思われていたが、移動する姿を目撃される事は中々無かったらしい。


後々の研究により、プッカの木は自身の育つ土地の川が汚ければ汚い程、慌てて浄化しようとして、川に葉っぱが落ちやすい位置まで移動すると言うのが分かった。

近くの川が綺麗であれば特に危機感は抱かないのか、そこから動かないのだと。


「で、そのまま川に葉っぱが落ちやすい様に、川を覗き込むような姿勢で成長した結果が、あの川をアーチ状に覆う、プッカの木のトンネルだよ。しかも知らねぇ間にどんどん増えて行ってさ、植えた当初の数百倍いや数千倍だったかな? の本数に成ってるらしいよ。排水施設とか浄化槽とかの設備が整った今となっては、こんなに大量に必要ないんだけどさ、別に船は通れるし、水が綺麗に成って魚が多く取れる様に成ったから、減らす必要も無いだろうって増えるままにされてるんだよ」


ファンタジーと言うかメルヘンチックと言うか、川を綺麗にしようと川辺まで移動して来て、川を覗き込むプッカの木を想像すると、なんだか微笑ましいと言うか可愛いと言うか、そんな感情が木に対して初めて芽生えた。


増えて行くのも、川が汚過ぎた時に呼んでいた応援が、後から続々と集まって来たのかも知れない。

もしくは、川が綺麗に成って居心地が良くなったから、家族を増やして定住したのかな? と考えると更に微笑ましい。


「俺、今の話聞いてプッカの木が好きになったばい」


「この国の奴はだいたいプッカの木が好きだよ。今では国樹にも成ってるからね。この木のトンネルを船で通る為にわざわざ外国から来る観光客もいるよ。ただこの国は観光客を制限させるために、ワザと宿泊施設は少なくしているから、予約待ちが続く状況らしいよ」


観光客による収入は必要ないという事だろうか? それとも、他国の人間が沢山来たら困るような何かが有るんだろうか?

疑問に思いギィに聞いてみたが、その辺りの事情はギィも知らないと言う事だった。


橋を渡った先は、色々な工場こうばが多くある建物だった。

工場の前で腰かけ、休憩している人達以外の姿は無く、閑散としていた。


「この辺りは上の方が縫製関係の工場とかが多くて、下の方が食品工場とかその辺かな。基本人通りの少ない所だからさ、迷った時に道を教えてくれる人を探すのに困るから、通った事のない通りには入らない方が良いよ」


そう言いながらギィはその建物を真っ直ぐ突っ切って行った。

突っ切った先にまた橋が有り、そこを渡って行く。


「この先の建物に、リッケル地区役場が有るんだよ。さっきの魔術師ギルドとはまた別の魔術師ギルドが有るけど・・・まぁ、ヤマさんは来る事無いかもな」


「なんでこんなに近くに魔術師ギルドが何軒も有ると? 」


「リッケル地区だけでも五軒はあるぜ。魔術師って言っても専門が違ったり、請け負ってる仕事の種類も違うからさ、分けてんだよ。地元で就職してる魔術師とか、冒険者として外に出て回る魔術師とか、同じところで対応してたら、捌ききる前に日が暮れちまうし」


ちなみに、プリシラさんが居る魔術師ギルドは、異界渡りでやって来た異世界人の転送先として登録されている魔術師ギルドで有ると同時に、冒険者登録をした近距離で働く魔術師と、地元密着型の魔術師を対応しているのだとか。


ちなみにプリシラさんは、そこの魔術師ギルドのギルドマスターだった。

ただの職員のオバサンかと思っていた。ギルドマスターと知らずに、昼ごはんを奢って貰ってしまった。

就職できて給料貰ったら、なにかお菓子でも買って持って行こう。


商店街の様な所を突き進み、途中の階段で上の階へと上がると、リッケル地区役場があった。

鷹のお姉さんに言われた通り、半透明の黒いカードと身分証を住民課で提出すると、担当者が出て来た。担当者さんは、声を聞くに女性の様だ。


「タツミ・ヤマシロさんですね、議事城第18役場から話は聞いています。住まいのお探しと、リッケル地区の住民登録ですね。住民登録の手続きは、こちらでほぼ終わらせていますので、後はお住まいが決まれば住民登録は終わりです。ですので早速、お部屋を探しに行きましょう」


そう言って担当者の女の子は、『葛切くずきり』か『ところてん』で作ったモップ状のボールみたいな身体を振るわせて、カウンターの向こう側からポヨンポヨンと弾みながら出て来た。

身長は一メートル位だろうか。目がどこに有るのか分からないので、こちらに向いている方を正面だと思う事にして頭を下げる。


「お忙しい中有難うございます。よろしくお願いいたします」


「いえいえ、そんなかしこまらなくて良いですよ。リッケル地区を選んで頂いて有難うございます。長く暮らしていけるような、素敵なお部屋を探しましょうね」


そう言って、葛切りボールのような彼女は、横側に少し傾いた。多分、人型で言う首を軽くかしげる動作をしたのだろう。


俺の希望に合う部屋が五部屋あるらしく、どの部屋もここから歩いて行けるので、今日中に見て回れる様だ。案内してくれる葛切り風の彼女は、ミミィさんと言うらしい。


ミミィさんは俺とギィを案内しながら、色々話しかけてくれる。


「ヤマシロさんは身長はどの位あるんですか? 」


「187だったかな。貧相なのでひょろ長く見えるらしく、実際の身長より高く見られるんですよ」


そうミミィさんに説明していると、横からギィが話に入って来た。


「その細長い感じと、真黒な髪と髭のせいで、ヤマさん悪役感あるよな。見た目も神経質そうなのに、喋ると急に気の良い感じの地方のオッサンに成るから、ギャップがヤバい」


あぁ、だから初対面の時に『やり手の黒魔導士っぽい』って言われたのか?

そんな事を思っていると、ミミィさんもギィに同調した。


「そうですね~。ヤマシロさんは真っ黒のローブとか着ると、やり手の黒魔導士っぽいですものね」


また『やり手の黒魔導士』って評された。日本では野武士か剣豪って言われたのに、世界や文化が違うとこうなるのか。

まぁ、『剣豪』も『やり手の黒魔術師』も、極めている感じが共通しているから、褒められていると受け取ろう。

勝手に納得していると、ミミィさんが聞いてくる。


「ヤマシロさんは、実際に黒魔導士だったりするんですか? 」


「まさか。魔法の使えない世界から来たので、魔力の使い方も分からない一般人ですよ。ただ、魔力は仕事に使わないと勿体ない位有るそうですし、生産職に向いてるらしいので、魔法薬か魔道具を創る職人に成れたら良いなと思っています」


「あぁ、だから魔法薬や魔道具の工場が密集している街の隣を、住まいに希望されているんですね」


「なに、ヤマさん。魔力系の生産職に進むの? だったら、地元密着型の魔法薬師に成って貰えると嬉しいんだけど」


「魔法薬師? 魔法薬創る人の事? 」


「そう魔法薬創る人。まぁ、ヤマさんさえ良ければだけど。魔法薬さ、中距離から遠距離で活動する冒険者達が買い漁って行くから、地元民が買う魔法薬が品薄状態なんだよ。冒険者用の魔法薬創る魔法薬師の方が多いし」


「まぁ・・・成れるんなら成るけど、俺に才能が有るかまだ分からんのやけ、あんまり期待せん方が良いばい」


良く分からないが、元から魔法薬師か魔道具職人に成れるならなろうと思っていたのだ。地元密着型の魔法薬師が不足しているのなら、修業先も就職先も早めに見つかるかも知れない。と考え返事を返すと、ギィだけでなくミミィさんまで喜び始めた。


「本当ですかっ?! あ・・・でも、冒険者用の魔法薬を創る方が、収入は良いんですよ? 」


「その辺、今日来たばかりなので、よく分からんのですよ。そもそも成れるか分かりませんし。なぁ、ギィ。参考までに聞くけど、それぞれどんな感じなん? どうやって創りよるん? 」


ギィに聞いてみるが、冒険者用の魔法薬が、どこでどうやって創られているのか知らないと、首を振られた。代わりにミミィさんが説明をしてくれる。


「冒険者用の魔法薬は、ポーションが主ですね。だからポーションさえ創れる様になれば、何とかなります。とにかく数が必要なので、工場で同じポーションを創り続ける感じですね。魔力切れをするか、勤務時間が過ぎれば、その日の仕事は終了と言う感じでしょうか」


ミミィさんの説明に、工場で延々と餅に葉っぱを乗せていた生活を思い出した。

多分、流れ作業では無いだろうが、同じものをずっと作り続けるという作業を繰り返すなら、やっている事は前と変わらない。


「魔力切れしたら勤務終了と言う事は、魔力が少ない人はすぐに仕事が終わってしまいますけど、そう言う人は収入面的に大丈夫なんでしょうか? 」


「勤務時間より、創った数と性能が問題に成って来ます。下級ポーションでも、月に150本創れば暮らして行けますよ」


150本をひと月で・・・いや、待てよ。この世界はひと月50日だ。と言う事は一日三本創れば良い。

一本にどの位魔力を消費するのか分からないが、一日三本なら何とか出来そうだ。


ちなみに下級ポーションで一本2000マニするらしい。想像していたより高い。

材料代が有るから支出があるとしても、それなら確かに稼げるだろう。


「地元密着型の魔法薬師と言うのは? 」


「商店街や、街の端の方で個人経営している店の魔法薬師さん達ですね。創り置きの魔法薬を裏でせっせと創っていたり、お客さんの希望を聞いて、それに合った魔法薬を創ってくれたり。工場勤務の方と違って、店が開いている間、ずっといますね」


冒険者用のポーションを創る工場よりも収入が少なく、拘束時間が長いと。

確かにそれなら、地元密着型の魔法薬師を目指す人は少なくなるだろう。


工場勤務に慣れているので、大量生産の冒険者用のポーション工場の方が条件としては良いのだろうが、せっかく異世界に来たのだし、前の世界とは違った異世界らしい生活がしたい。

そう考えると『街の魔法薬屋さん』と言うのは、何ともファンタジーでメルヘンチックでは無いか。


余命800年近く有るので時間を持て余す事だし、拘束時間が長くても、のんびりと店番してお客さんと話たり、魔法薬の創り置きをしたりと、ゆったり時間を潰しながら過ごせて良いかも知れない。


それに、一日のノルマが終わって勤務時間前に帰ると言うのは、どうも落ち着かず、しっくり来ない。

多分、日本で勤め続けている人間特有の『まだ働いている同僚を横目に先に帰れない。休めない』という意識が染みついてしまっている所為だと思うが。


「それなら、街の魔法薬屋さん・・・地元密着型の魔法薬師の方が良いな」


そう呟くと、ミミィさんはその場でポヨポヨと跳ね回って喜び出した。

そんなに地元密着型の魔法薬師が足りていないのか? 少し早まっただろうか。


「本当ですかっ?! 有難うございます!! だったら、住まいは魔法薬の工場が多い街の横じゃ無くても、良いんじゃないでしょうか? 」


もう少し考えれば良かったかもしれないと思わないでもないが、これだけ喜ばれた後に発言を撤回するのも悪い気がし、そのまま話を進める。


「確かに、工場で勤めないなら、わざわざ横に住む必要は無いかも知れませんね。ただ、俺に魔法薬師としての才能が有るかどうかは、本当にまだ分からないので余り先走らないで下さい」


まだポヨポヨしているミミィさんを宥めながら言うと、ギィが口をはさんだ。


「ヤマさん。部屋借りずに、住み込みで魔法薬師に弟子入り修業すれば? 俺、魔法薬師の婆ちゃん知ってるけど、その婆ちゃん、自分の店に誰か一人欲しいって200年前からずっと言い続けてるぞ」



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