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オッサンなのに、未成年

行きとは違う、白いエイ型の飛行竜に乗って帰る。

オバちゃんは行きも帰りも、マーマンと呼ばれるエイ型の飛行竜に乗れるのは運が良い事だと言う。

マーマンは穏やかなので、安全飛行だし、揺れが少なく安定しているのだと。


もし酔いやすい体質なら、ガッレと呼ばれる、無毛の青白いツルリとした飛行竜は避けて、次の飛行竜が来るのを待った方が良いそうだ。ガッレはマーマンより乗車賃が安く設定されているが、その分、身体を小刻みに左右に揺らしながら飛ぶので、気分が悪く成ったり、降りた後暫く立ち上がれなくなる人もいるらしい。

自分は乗り物酔いをする体質では無いので、一度どんなに揺れるのか、試しに乗ってみたい気もする。


半円形の広場に降り立つと、オバちゃんは魔術師ギルドの表入口へと案内してくれる。

広場の端にあるクリスタルの様な素材で出来た、五段程の階段を降り、建物内へと入るアーケードをくぐった。

そこは商店街に成っていて、色々な店が並んでいた。

ストーンショップみたいな店から、通りまでお香の匂いが漂ってくる、店内がよく見えない店など、様々だ。

興味深く視線を彷徨わせていると、振り返ったオバちゃんが説明する。


「魔術師ギルドの近くだからね。この辺りは魔術師が必要とする道具を扱った店が多いよ。更に下の階に降りると、食品を扱う店と飲食店が多いかねぇ」


そう言って、オバちゃんは植物店と大釜店の間の道へと入って行く。

その先に、人の出入りが激しい大きな扉の店があった。

扉は全開にされ、鎖で固定されている。


「アレが魔術師ギルドの表入口だからね。次回は、そこから入って来るんだよ」


そう言ってオバちゃんが先に進んで行くと、入り口の近くでたむろしていた若者の一人が、オバちゃんに向かって手を挙げた。


「あ!! プリシラさんじゃないっすか。出掛けてたんすか? 」


プリシラさんと呼ばれたオバちゃんは、若者に答える。


「そうよ、ちょっと仕事でラビラフト議事城までね」


オバちゃんの名前は、プリシラさんと言うのか。そう言えば名前を聞いていなかった。

そして、あの巨大な建物はラビラフト議事城と言うらしい。城と呼ばれる割には、飲食店とか服屋とか入っていて、駅ビルみたいだったが。


若者に近づいて行くと、オバちゃんはそのままギルドの前で、若者と話し始めた。


「ねぇギィ。アンタ今日の夕方は暇かい? ちょっとギルドからの仕事受けてくれないかね」


「今日っすか? 別に何も用事は無いんで、難しい依頼じゃ無ければ大丈夫っすけど、どんな仕事なんすか? 」


その返事を聞いたオバちゃんは、ギィと呼ばれる若者の前へと俺を押しやった。


「この人、ヤマシロさんって言ってねぇ、今日の午前中に異界渡りして来た人なのよ。第八階層から落ちて来た人だから、魔力の使い方が分からないのよ。だから、この人に生活魔法と魔道具への魔力を込める方法を教えてあげてくれないかしら? 」


どうやら、この青年が魔法の講師に成りそうだと言う事が分かり、自己紹介をする。


「はじめまして。辰巳タツミ山城ヤマシロっち言います。前の世界では、知人から『ヤマさん』っち呼ばれよりました。よろしくお願いします」


「おー、ヤマさんね。ヤマさん、見た目がやり手の黒魔導士みたいに見えるけど、魔法全然なの? 」


俺の見た目のどの辺りが、黒魔導士要素を醸し出しているのか分からないが、そこはスルーして返答する。


「俺の前いた世界は、魔法が無かったんですよ。このギルドの人が言うには、魔力は有るけど魔法は発動しない次元だったらしいです」


「へー。八階層から落ちて来たって言った? ヤマさん、メッチャ落ちて来てんじゃん」


「そうなんですか? 俺の前いた世界が八階層と言う事も、今初めて聞いたんですけど。ちなみに、この世界は何階層なんですか? 」


「今の所は五十二階層って呼ばれているよ。まだ他にも上に、見つかって無い異世界が有るかも知れないらしいけど」


ギィの説明では、過去に異界から落ちて来た人や物が、何枚の次元の層を突き抜けたのかを魔法で調べて、大体の階層を把握して来たそうだ。

そして分かっているのが、地球がある世界が今のところ、八階層。この世界が今の所は五十二階層だと言われている。他の次元が見つかれば、そのぶん数がずれて行くらしい。


「この世界から落ちて行く人も居るらしいからさ、まだ下にも異世界が有るんだろうな。俺は行きたくねぇけど。だからヤマさんの事は大変だと思うぜ。国どころか世界が違う所で一から出直しじゃん? まぁ、困った事が有れば俺に言えよ」


そうギィが言うと、周囲の若者たちも声をかけて来た。


「あー。俺も分からねぇ事とかあったら教えるから。特にこの街の事とか? よその国から来た奴とか遭難するらしいからよ。世界が違うなら余計分かんねぇだろ? 」


「じゃあ、俺は安い店とか教えるわ。つか、ヤマさん歳は幾つ? 」


どうやら、この若者たちは気の良い子達ばかりの様だ。

まだ少しの人としか関わっていないが、穏やかな人が多い世界の様に見え、これから先この世界で生きて行く不安が少しづつ軽く成って来る。


「俺は先月、四十三歳に成りました」


にこやかに歳を聞いて来た青年に答えると、周りにいた青年達が皆、ギョッとした顔をした。


「はっ?! 見た目オッサンなのに、まだ四十三?! 成人して無いじゃん!! つうか子供じゃん!! ちょっ!! プリシラさん!! あれ、プリシラさんどこ行った?! プリシラさーーん!! 」


騒ぎ出した青年達に、赤ら顔の小さな爺さんがのんびり返事した。


「プリシラさんなら、さっきギルドの中に入って行ったよー」


「マジで? ヤマさん・・・いや、ヤマちゃんか。ちょっとプリシラさん探すぞ」


そう言ってギィは俺の腕を引いて、ギルドの中に入って行った。


俺はと言うと、四十三のオッサンなのに、成人前の子供だと言われて困惑を隠せない。

この世界で、やっていけそうだと思ったばかりなのに、時間の流れが違うのか、種族的に年の取り方が違うのか、どうやらこの世界と前の世界で大きな寿命の差が有るらしい。


と言う事は、俺はこの世界から見て、すぐに寿命が来る蝉みたいな生き物だと言う事だ。すぐ死ぬ蝉を雇ってくれる職場は有るのだろうか?


不安の芽を育てながらギルドの扉をくぐると、そこはまるで図書館の様だった。

天井までの壁一面が本棚に成っていて、ぎっしり本が詰まっている。

依頼を受けたり、登録したりする受付以外はすべて、読書スペースに成っていて、そこでメモを取っていたり、本を広げて話し合っているグループがたくさん集まっていた。

漂ってくる香ばしい匂いに誘われて視線を巡らすと、読書スペースの端の方でドリンクと軽食を売っているカウンターも有る。


「ヤマちゃん、喫茶カウンター見てるけど喉乾いたの? 魔術師ギルドに登録したら、あそこの飲み物は無料だよ、食べ物はお金かかるけど。プリシラさんが見つかったら、後で好きな飲み物飲ませてあげるからちょっと待ってな」


急に子ども扱いして来るギィに複雑な物を感じるが、教えられた内容には惹かれる物が有る。

登録すれば、喫茶フリーの図書館。そしてきっと魔術師ギルドだから魔法に関係する物や話、魔法の植物とか動物の図鑑などが揃っているのでは無いだろうか? 読書好きの心が躍りだす。


俺、魔術師ギルドの近くに住む事にして良かった。生活に慣れて来たらここに通おう。


「けど、飲み物が無料で採算がとれるんやか? 」


俺の疑問の呟きに、一緒に付いて来た青年が答える。


「あぁ、少しでも情報や知識を手に入れて、任務中の怪我や失敗を防いでほしいって言う取り組みの一環らしいよ。事前に情報を集めて無くて、依頼の魔法植物を間違えて採取して来たりする新人も居るからさ。まぁ、飲み物無料でも調べない奴は調べないけどな」


「中途半端な知識で魔法ぶっ放す奴も困るよな。ちゃんと魔法を組み立てられてないから、威力ないくせに魔力ばっか消費して、後半に足手まといに成るんだよ」


成る程、魔術師にも色々あるようだ。

俺は魔力はあれど、魔術師にも冒険者にも向いてないと言われたから、登録だけして仕事に必要な事を調べに、ココを利用させて貰おう。あと、趣味の読書。


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