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異世界でお昼ご飯

大きな建造物を仰ぎ見ながら、オバちゃんに質問する。


「アレが役場なんですか? 」


「正しくは役場も入っている、と言った方がいいかしら。この国の色んなギルドの本部や組合、あとこの国の議会の議事堂もあそこに有るわよ。ちなみに役場は町ごとにも有るから普段はあそこまで行かないんだけどね、来たばかりの異世界人の初期登録はあそこでする事に成ってるのよ。戸籍さえ出来れば後は家から一番近い役場でいいわよ」


そんな説明を聞いていると周囲にチラホラと人が集まり始めた。


「そろそろ飛行竜が来るみたいね、ほらこっち、こっちに並ぶのよ」


オバちゃんについて行き並んでいると、建物の間を悠々と泳ぐようにオレンジ色のエイみたいな生き物が現れた。

広場に身体の三分の一を重ねて横付けしたその生き物は、ゴワゴワしたオレンジ色の毛で覆われている。飛行竜と聞いていたのでドラゴンの様な姿を想像していたのだが、実際に現れたのは温室を背中に乗せた、つぶらな瞳のエイだ。

温室のサイズは市営バス位の大きさなので、このエイ自体かなり大きいと言えるだろう。

前の乗客に続き思っていたより柔らかいエイの背中を踏んで温室に入って行くと、改札口みたいな所で係員が乗車券を配っていた。それをオバちゃんと受け取り並んだベンチに腰掛ける。


横に座ったオバちゃんが俺に乗車券を見せながら説明を始めた。


「この乗車券と行き先までの料金を、あの係員さんに手渡して降りるのよ」


「料金はどこを見れば分かります? 」


ガラス張りの室内を見渡して質問すると、オバちゃんはニコニコしながら言う。


「この乗車室の入り口が閉まると分かるわよ」


そうこうしていると、最後の乗客が乗り込み入り口が閉まる。

それと同時に正面にある一番大きなガラスが水色に変わり、そこに白い文字が表示された。

近未来要素のある映画でよく見る、宇宙船などのタッチパネルかモニターの様だ。


「おぉ・・・。凄いな」


飛行竜が飛び立つと、オバちゃんは行き先までの乗車料金を俺に渡して、簡単なお金の説明をしてくれた。


この国は日本と同じで、硬貨と紙幣を使う。

お金の数え方は『マニ』だ。マネーみたいで覚えやすく助かった。


一マニ、五マニ、十マニ、五十マニまでが硬貨。

百マニ、五百マニ、千マニ、五千マニ、一万マニ、五万マニが紙幣。


日本みたいに穴の開いた硬貨は無いが、一マニが銀色の丸い硬貨で、五マニが金色の丸い硬貨。

十マニは四角い銀色の硬貨で、五十マニが四角い金色の硬貨と分かりやすい。

物価については、おいおい学んで行く事にする。


「私達が降りるのは終点だから、ゆっくり周りの風景を見ていて良いわよ」


そう言われガラスの外へ視線を向ける。


とにかく複雑に組まれた巨大都市だった。

住み慣れた町から一歩外れたら、地元民でさえ迷子に成って戻れなくなるのではないだろうか。


建物と建物の間には橋がかかり、そこを大きな緑色のカバに似た生き物が荷車を引いている姿を何度か見かける。

都市の構造上、車のような乗り物は無いようで、徒歩の人間が多く、その他には東南アジアの観光地で見る乗客が座れる席を取り付けた自転車の様な物に、人力車、大きな七面鳥のような生き物などに乗って移動している。馬みたいな生き物は今の所目にしていない。


建物の間は巨大なトンボや飛行竜。極楽鳥のような派手な色合いの大きな鳥が移動していた。

時々、大きなカバンを持った人間が、背中に透明な素材で出来た羽のような機械を取り付けて飛び回り、何かを配達しているのが見える。

郵便局か宅配便だろうか。この巨大な都市だと配達するのも大変だろう。


木を生やしている建物もあれば、滝のように水が流れている建物も有る。

そして沢山目に付くのは看板だ。

飛行竜に乗った時に目に付くようにしているのか、立体都市の壁面になど、どうやってそこに取り付けたのだろうと首をかしげたくなるような位置に看板が並んでいる。

看板のデザインはシンプルな物から、細かい模様の施された物、昭和レトロを感じる物に、ビンテージアメリカ風の物まで多種多様だ。


何度か乗り場に停まっては乗客を入れ替え、俺の腹が空腹を訴え始めた頃ようやく終点に辿り着いた。

出口で料金と乗車券を支払って降りたったソコは、大勢の人種や種族でごった返している。

エジプトの壁画のような動物や鳥みたいな人に、全身青や赤の鱗に覆われた人、透明でプルプル波打ちながら歩く人、口元からイソギンチャクみたいな触手を出した甲殻系の外装に覆われた人。色んな種族が歩いている。


キョロキョロ周囲を見渡しながらオバちゃんの背中を追いかけていたら、足元から甲高い怒鳴り声が聞こえてきた。


「ちょっと!! ちゃんと足元も見ながら歩きなさいよ!! 踏みつぶすつもり?! 」


慌てて足元を見ると、青と黒のまだら模様のウミウシに似た生き物が怒っていた。


「わぁ!! ったんね!! すみません。気を付けます」


驚いて慌てて謝ると、ウミウシは「まったく!! 大きな生き物ときたら」とプリプリしながら去って行った。

ウミウシの背中(?)を見送っていると、オバちゃんが戻って来て俺の脇腹を叩く。


「ほら、ちゃんと付いて来ないと、はぐれちまうよ」


「あ、スミマセン。いま人(?)を踏みつぶしかけまして」


「あぁ、時々そういう事故があるのよ。私も初めてここに来た時に似たような事があったから気を付けてるよ。本当は小さい種族用の通路があって、小さい人はそこを通る筈なんだけどね。あんたも気を付けるに越した事は無いから足元見とくと良いよ」


「そうなんですね、気を付けときます」


足元に気を付けながら歩き続け、ようやく役場に辿り着くと、オバちゃんは俺にこの場で待つように言って担当者らしき人に会いに行った。

暫くして戻って来たオバちゃんは俺を役場の外に促しながら口を開く。


「担当者の手がしばらく開かないらしいのよ。だから、待ってる間に昼ごはん食べて来るって伝えといたから、どこかで何か食べようか」


「俺、この世界のお金持ってないんですが、どうしたら良いですか」


「やだねぇ、私が出すに決まってるでしょ。経費で落とせるし気にする事ないわよ。そうだ、苦手な食べ物は有るかい? 」


「俺、この世界にどんな食べ物が有るんかも知らんのですよ」


「そうだったね!! じゃあ、ひとまず私のお勧めの店に連れて行くよ。私がココに来た時はいつも行く店でね、一品メニューが多いから、いろんな種類の物を沢山注文して好みの料理を探すと良いよ」


そう言ってオバちゃんは建物の中を移動して行き俺をお勧めの店へと案内する。

辿り着いた場所は飲食店が並ぶフロアの端の方にある店だった。

案内係に人数を伝えると、柵で守られたベランダのような場所へと通された。

テーブルも椅子も無く、分厚い座布団のような物だけ置いて有り、他の客は思い思いの姿勢で座り込んでいる。

オバちゃんが座布団に座ったので俺も靴を脱いで座布団の上で胡坐をかいた。

いくつか料理を注文し、店員が下がるとオバちゃんは柵の外をさす。


「この席はこの店の売りでも有ってね、ここから都市が一望できるんだよ」


かなり高い場所に位置する席だが柵の隙間から風は入って来ない。多分魔法かなにかで守られているのだろう。

あんなに高かった立体都市を上から見下ろす。遥か先まで都市は続いているが、遠くの方は青く霞がかっていて終わりが見えない。


「ギルドからこの建物を見た時も思ったんですけど、遠くの方が霞がかってよく見えんのは、よく有る事なんですか? 」


「んー。よく有るって言うよりも季節的な物だから、この見晴らしの悪さは暫く続くね」


成る程、都市がどこまで続いているのか知りたかったので残念だ。いつか見晴らしの良い時期に再び来る事にしよう。

もう一度都市の方へ視線を向け、都市の上空で自由に飛び回っている飛行竜達を見る。

ココまで乗って来たエイのような生き物から、前の世界のファンタジー作品に出て来るドラゴンの体に、羽毛を生やして細長くした様な生き物まで、様々な生き物を見つける事が出来た。


「あの上空を好き勝手に飛んでいる飛行竜は野生の飛行竜ですか? 」


「あれは非番の飛行竜か、働いている飛行竜の扶養家族じゃないかしら」


飛行竜に扶養家族が居るのか。

飛行竜は使役されている訳でも飼われている訳でも無く、当番の日の朝にどこからともなく出勤して来て、定時まで働いてどこかに帰って行くらしい。

何を給料に貰っているのかは知らないが彼らはサラリーマンだった。


飛行竜を見ながら話していると料理が順番に運ばれて来た。

トレーに乗せられたまま座布団の前の床に料理が並べられていく。

立ち上がる時にウッカリ食器を蹴飛ばさないように気を付けよう。


食事に使うのは、箸、フォーク、スプーンと言った日本とあまり変わらない物だった。

この店では好きな料理を取り皿に取り分けて、皿を片手に持ったまま食べると言う立食形式みたいな食べ方をするそうだ。

店の形式によってはテーブルが有るので、その時は皿をテーブルに置いて良いらしい。

皿を持った手がだるくなるので、町で暮らし始めたらテーブルがある店を探して通おう。


出て来た料理は初めて見るような素材と盛り付けがしてあるので、見た目だけではどんな味か予想できない。


試しに、目の前に有る皿から料理を取る。

それは一口サイズの白くて丸いダイフクのような見た目で、箸で摘まむと軟らかくフニャっとした。

見ただけでは料理なのか甘味なのか分からない。

口に入れた触感はすべすべしている。噛むと表面がプチっと破れ、中から干し魚で出汁を取ったような味のムースみたいな物が出て来た。

魚料理が好きな俺の好みの味だ。触感も楽しいのでもう一個口に運ぶ。


「俺が今食べてるこの白いの何ですか? 」


「ププ豆をシンプルに蒸した物だね。居酒屋でつまみとして良く出される豆だよ」


魚で出汁を取ったような味なのに、まさかの豆だった。そしてこの国の枝豆ポジションらしい。


次に、めざしサイズの桜色の魚に半透明の葉っぱを巻き付けてある物を選ぶ。これは明らかに魚だろう。

魚は頭と骨も食べられる。味は淡白な川魚の様で、巻いてある葉っぱは柑橘類のような香りと、ほんのり辛みとしょっぱさが有った。


「それはマチ魚を、シシリって言う香辛料で数日漬け込んだジートの葉っぱを巻いて蒸した物だよ」


この国は蒸し料理が殆どで、余り素材に手を加えないシンプルな調理方法が多くいそうだ。

そのため他国からの観光客から、薄味やサッパリした料理ばかりだから、もう少し味の濃いコッテリした物が食べられる店は無いかと聞かれる事があるらしい。


俺は三十代後半からコッテリした料理が胃に重たく感じていたので、丁度よかった。

どうやら俺は、この国の食文化と何とかやっていけそうだ。

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